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『事業場外労働に関するみなし労働時間制』とは

『事業場外労働に関するみなし労働時間制』とは

前回の裁量労働制以外にも、実際に働いた時間「実労働時間」を働いた時間とせずに、「みなし労働時間」をもって働いた時間とする制度がもう一つあります。それが『事業場外労働に関するみなし労働時間制』です。

労基法第38条の2に「労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」と定められています。

直行直帰が多い『営業職』に対して残業代の支給をしないといった対応をしている会社は、おそらくこの条文を根拠としているのではないでしょうか…

しかし…

営業職=事業場外みなし労働時間制の適用ではない!

この条文が適用される前提は、『労働時間を算定し難いとき』に対象となるということです。必ずしも、『営業職=事業場外みなし労働時間制』の適用とはならないということです。

そもそも、労働時間を把握する義務は会社にあります。また、その把握の方法の原則として、以下の2つの方法が挙げられています(詳細は、『労働時間管理』はなぜ必要?)。
①使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

もちろん、外出していればこれらの方法によって、労働時間を把握するのは難しいかもしれません。しかし、昨今は外出先であっても労働時間を把握することが可能な勤怠管理システムは多くあります。もちろん、レコルでは外出先からも勤怠管理は可能です。

勤怠管理レコル

長時間労働とならないように労働時間を管理することが求められている現状からすれば、『労働時間を算定し難いとき』ではなく、効率的に業務が行えるよう様々なツールを用いて管理することが望ましいのではと考えます。

『労働時間を算定し難いとき』とは…

私見ではありますが、働き方の実態を鑑みると、営業職に従事する方で「労働時間を算定しがたい」働き方をしている方の数は、そう多くはいないのではと考えています。

私が就職した25,6年前の話です。当時私の友人は某自動車販売会社に勤務していました。当時その友人は、「平日のデイタイムにスポーツクラブの会員になった」ことや行ってきますと外出して「パチンコ屋や温泉に行っていた」ことを話していました。さすがに「床屋」に行ったら上司に気付かれて怒られたなんて話をしていましたが…

このように当時の営業職は、営業成績、結果だけを求められていたため、労働時間を管理されることなく(これが算定しがたいに該当するかは別として)業務を行っていることが多かったのではないでしょうか。

昨今では、携帯などのモバイル機器や勤怠管理システムで行動を把握し、より効率的に業務を行わせているやり方が増えています。少なくとも労基署の監督官は、これだけモバイル機器が発達している今の時代、「労働時間を算定しがたい」働き方はほとんどないと考えているような気がしています。

いずれにしろ、『営業職=事業場外みなし労働時間制』とはならないことは認識しておく必要があります。

事業場外みなし労働時間制の対象となるのは、「事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務であること」としており、次のような場合は労働時間の算定が可能であり、みなし労働時間制の適用は出来ないとしています(昭63.1.1基発1号)。
①何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
②無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合
③事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場に戻る場合

会社内では業務を行わずに、直行直帰で外回り業務を行い、かつ、訪問先での業務内容などの具体的な業務指示を行わない、こういったケースが『事業場外みなし労働時間制』の対象であるといえます。

みなし労働時間の対象は外勤時間のみ

事業場外みなし労働時間制の対象となった場合の労働時間は、次のとおりとなります。なお、事業場内での労働時間は当然、算定することが可能なため、その時間は把握しなければならず、みなすことはできません。みなすことができる時間は、『事業場外労働時間』のみとなっています。

①事業場外業務の遂行に必要とされる時間 + 事業場内業務の労働時間 ≦ 所定労働時間
⇒ 所定労働時間

②事業場外業務の遂行に必要とされる時間 + 事業場内業務の労働時間 > 所定労働時間
⇒ 通常必要とされる時間 + 事業場内の労働時間

③労使協定がある場合には「労使協定で定める時間」
⇒ 通常必要とされる時間

つまり、内勤時間も含めて『所定労働時間内』で業務が終了するのであれば、所定労働時間労働したとみなされるが、通常は、所定労働時間内で収まりきらないという場合には、そもそも、「労働時間を算定しがたい」状況にあるのですから、いちばん実態を把握している労使で業務遂行に「通常必要とされる時間」を決めてその時間をもって「労働時間」としょうということです。

まとめ

そもそも、『労働時間を算定がし難い』か、どうか疑問ではありますが、実際、事業場外のみなし労働時間を適用している会社は数多くあります。また、営業手当を支払うことで残業代を支払っていないといった対応をしている会社も多くあるのではないでしょうか。

この場合、少なくとも、日常の業務が『所定労働時間内』に収まっているのか、収まっていないのであれば『通常必要となる外勤時間』がどの程度なのかを調査する必要があります。

その上で、明らかに所定労働時間では収まらないのであれば、労使協定により「みなし労働時間」を定めるべきでしょう。また、営業手当を残業代の代わりに支払うのであれば、その対象額が何時間分でいくらなのかを給与規程等に定義づけることが必要です。もちろん、内勤業務が長くなるなどその対象となる時間を超えた場合には追加で超過勤務分についての支払いが必要となります。

こういった点も踏まえて、『事業場外のみなし労働時間制』を運用しなければなりません。何度もいいますが、『営業職=事業場外みなし労働時間制』とはなりませんので。

プロフィール

飯野正明

特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士

1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員6名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。

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