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『労働基準法ってどんな法律?』

労働基準法は労働条件の最低基準のルール

労働基準法(以下「労基法」という。)は、職場における様々なルールを定めたもので、労働条件に関する『最低基準』を規定している法律です。この『最低基準』の意味合いは、労基法に違反する労働条件は、たとえ会社と労働者の同意があったとしても、無効でありその部分については、労基法の基準に置き換えられるということになります。

X社に入社するAのお話し…

社員A

僕は、働くのが大好きなので年次有給休暇はいりません。権利を放棄したいと思っています。

社長B

それはありがたい。そうは言っても全く無しって訳にもいかないでしょうから、 労基法の基準の半分を付与するということでどうだろうか。つまり、入社後6か月で5日付与することにしよう。 それでよければ、その内容で労働契約書を締結しよう。

社員A

ご配慮ありがとうございます。もちろん、その内容で契約させて下さい。

といったやり取りの上、AはX社に入社することになりました。
その数日後、〇〇労働基準監督署の監督官がX社を訪れました。

監督官

〇〇監督署から参りました。 今日は、御社で締結している労働契約書の内容を確認しに来ました。直近のご入社の方の契約書を見せていただけますか。

社長B

もちろんです。当社は労働者に労働契約の内容を説明し、 納得してもらった上で契約を締結していますので何も問題無いはずですよ。

監督官

わかりました。では、契約書を確認させて下さい。 あれっ?Aさんの労働契約書に「年次有給休暇は労基法の基準の半分を付与する」となっていますが、これはどういうことですか。

社長B

あー、それはAが年休はいらないと言ってきたのですが、 そうもいかないだろうということで基準の半分を付与することで双方合意した事項ですので契約書にもその通り記載しました。 いらないって言ったのに半分くれるなんてと言ってAは喜んでましたよ。

監督官

それはダメですよ。Aさんからの申出があったとしても労基法のルールは最低基準となっていますのでそれを下回るルールは労基法の基準となります。 ですから、入社後6か月経過した場合に付与しなければならない年休は10日となります。

といった形でX社は指導されてしまいました。
いくら労働者との間で合意した労働条件であっても労基法の基準を下回ることは許されず、 万が一、下回る労働条件で労働契約を締結したとしても、下回る部分は、無効となり労基法の基準が適用されことになっています。

労基法にはどんなことが定められているのか?

全文で13章、138条から成る法律となっています。その概要は、次の通りです。

第1章 総則

労基法の目的やその適用範囲、「労働者」「使用者」の用語の定義などについて

第2章 労働契約

労働契約の期間の制限や労働条件の明示、解雇や退職後の証明などについて

第3章 賃金

賃金の支払いに関する原則や休業手当などについて

第4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇

法定労働時間・変形労働時間等の労働時間制度、休憩・休日・年次有給休暇や割増賃金の支払いなどについて

第5章 安全及び衛生

労働者の安全および衛生について(詳細は労働安全衛生法の定めによる)

第6章 年少者

働くことができる最低年齢の定めや18歳未満の年少者が働くに当たっての深夜業その他の保護規定などについて

第6章の2 妊産婦等

妊産婦(妊娠中または産後1年を経過していない女性)の就業制限や労働時間の制限など女性が働くための保護規定などについて

第7章 技能者の養成

技能習得者の保護、職業訓練などに関する規定について

第8章 災害補償

業務上の負傷・疾病に対する療養補償、障害補償などの補償について

第9章 就業規則

就業規則の作成、変更、届け出義務などについて

第10章 寄宿舎

寄宿労働者に対する私生活の自由の保障や寄宿舎の設備、安全衛生などについて

第11章 監督機関

労働基準監督官の権限や監督機関の組織や権限などについて

第12章 雑則

就業規則などの周知義務や労働者名簿・賃金台帳の法定帳簿の作成・保存などについて

第13章 罰則

労基法に違反した場合の罰則規定や両罰規定などについて

付則

法律改正に伴う経過措置などについて

労基法に違反すると、罰則が…

労基法は、違反すると懲役や罰金刑が科せられる強行法規となっています。

罰則については、第13章第117条から121条までに規定されており、1番重い処罰は、「強制労働を行わせていた場合(労基法第5条違反)」で、「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」が科せられます。

例えば、解雇予告手当を支払わずに即時解雇した場合には、労基法第20条の違反となりますが、この場合は、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に科せられます。

なお、この場合に処罰される対象は、労基法10条でいう『使用者』となっています。この『使用者』の範囲は結構広く、取締役・工場長等は言うまでもなく、支店長・課長・現場監督も含まれる可能性が有ります。通達(昭22.9.13発基17号)によると「部長、課長等の形式にとらわれることなく、各事業場において、本法(労基法)各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによるが、かかる権限が与えられておらず、単に上司の命令の伝達者にすぎぬ場合は使用者とみなされないこと」となっています。

つまり、必ずしも「使用者=事業主」とはなっておらず、この場合に「使用者」のみを処罰し、事業主が全く処罰されないとなると妥当とはいえないでしょう。

こういった場合に事業主も処罰の対象とするために、労基法121条1項が規定されています。このような規定を両罰規定といいます。この規定により行為者である「使用者」と最高責任者である「事業主」ともに罰せられることがあるのです。

労基法を守って、会社を守る

総務省統計局が行っている労働力調査(平成29年(2017年)3月分)によると日本の就業者は、6,433万人となっています。日本の総人口が1億2,693万人ですからおよそ半分以上の人が就業していることとなります。労基法とは、前述の通り「働くルール」が規定されているわけですから、日本の人口の半分以上は何らかの形で労基法に関わっていると言えます。それだけ重要な法律であるにも関わらず労基法の内容をご存知ない方が多いのではないでしょうか?オフサイドを知らないサッカー選手はいませんよね。

しかし、労基法はこれだけ多くの人が関わっている重要な法律なのに、認知度が低い…そして毎日のように、労基法違反が報道されており、知らなかったからでは、取り返しのつかない事件も発生しています。厚生労働省によると、平成27年度業務上災害として認定された脳・心臓疾患を原因(主に過重労働が原因)とするものの死亡件数は96件、精神障害によるものによる自殺(未遂も含む)件数は93件となっています。生活の糧を得るための職場であってはならない事故がこれだけの数発生しているのです。

「こういった事故をなくすために」「決まり事だから」「最低限の基準だから」守らなくてはしょうがない、といった考えのもと、労基法を守ることももちろん大切なことです。しかし、企業として、積極的に労基法を守り、労働者が継続して勤務出来るための「安心感」を提供していくことが、結果として会社を守ることにつながるということを理解して頂きたい。これからの労務管理は「攻めの労務管理」を目指していかなければ、企業の継続的な発展はないといえます!

今後、このコラムでは、職場のルールである労基法とその関連する法律を「攻めの労務管理」といった視点に立ってお話ししていきます。

プロフィール

飯野正明

特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士

1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。

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