テレワークのメリット・デメリット テレワークとは ①在宅勤務:労働者の自宅で業務を行う ②サテライトオフィス勤務:労働者の属するメインのオフィス以外に設けられたオフィスを利用して業務を行う ③モバイル勤務:ノートパソコンや携帯電話等を活用して臨機応変に選択した場所で業務を行う といった分類がされています。会社以外のあらゆる場所を「働く場所」とすることが可能となり、多様な働き方の一つとして注目されています。 テレワークは、労働者にとって通勤時間の短縮、育児や介護と仕事の両立が図りやすい等々メリットがあります。また、企業においても育児や介護による離職の防止、遠隔地の優秀な人材の採用を可能とするなど、労使双方にメリットがある制度といえるでしょう。 一方で、労働時間の管理の問題、長時間労働になりがち、業務時間とプライベートの切り分けが難しい等の課題があるのも事実です。 企業にとっては、テレワークであっても、いつもの会社ではない場所で業務を行っているだけで、労働諸法令に定められている使用者としての義務は変わらないことも抑えておかなければなりません。 特に、労働時間を適正に把握する義務があることは忘れてはいけない事項です。 ※「テレワークにおける労務管理上の留意点」参照 少し遡りますが、厚生労働省が平成30年2月22日「情報通信技術を利用した事業場外勤務(テレワーク) の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下、ガイドライン)を策定しています。こちらについて、いくつかポイントを挙げて解説します。 テレワークに際して生じやすい事象 一定程度労働者が業務から離れる時間 いわゆる中抜け時間 ⇒使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合 ⇒休憩時間や時間単位の年次有給休暇として取り扱うことが可能 通勤時間や出張時間中の移動時間中のテレワークについて ⇒使用者の明示または黙示の指揮命令下で行われるもの ⇒労働時間に該当 勤務時間の一部でテレワークを行う際の移動時間等について <移動について使用者の命令がある場合> ・労働者自らの都合による移動 ・自由利用が保証されている時間 ⇒休憩時間 ただし、当該時間中に使用者の指示を受けて勤務に就いた場合は労働時間 <移動について使用者の命令がない場合> ・自由利用が保証されていない時間 ⇒労働時間 事業場外のみなし労働時間制の適用 ガイドラインにおいて、会社以外の場所(事業場外)での勤務に対する「事業場外みなし労働時間制」の適用については以下の通り示されています。 テレワークにより労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合で、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときは、「事業場外のみなし労働時間制」が適用される この場合の使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときとは、以下のいずれの要件も満たす必要があります。 1 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態に置くこととされていないこと(=情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務が無い状態を指す) 使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的な指示を行うことが可能であり、かつ、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態または手待ち状態で待機している状態にはないこと 例) ①回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れること ②通信可能な状態を切断することが認められている場合 ③会社支給の携帯電話を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかである場合 ⇒「使用者の指示に即応する義務が無い」 2 常時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと ⇒当該業務の目的、目標、期限等の基本的指示をすることは含まれない ※過去のガイドライン(「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」平成20年7月28日 基発第0728001号)においては、在宅勤務に限定されていた「事業場外みなし労働」の適用については、本ガイドラインによりサテライトオフィスやモバイル勤務にも適用されることとなりました。 ※「テレワークにおける労務管理上の留意点」テレワークと『事業場外のみなし労働時間制』参照 テレワークを適切に実施するための注意点 ガイドラインにおいて、テレワークを適切に導入及び実施するにあたっての注意点として以下の5点を挙げています。 1 労使双方の共通の認識 労使双方が、導入の目的、対象業務、対象者の範囲、テレワークの方法について労使間で充分に協議し、共通の認識を持てるようにすることが望ましい。 2 業務の円滑な遂行 業務内容や業務遂行方法を明確にしておくことが望ましい。 3 業績評価等の取扱い 評価者や労働者が懸念を抱くことのないように、評価制度および賃金制度を明確にすることが望ましい。 4 通信費、情報通信機器等のテレワークに要する費用負担の取扱い 通信費等の費用負担について、どちらが負担するのか等労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましい。 5 社内教育等の取扱い 能力開発等において、不安に感じることの内容社内教育等の充実を図ることが望ましい。 当社もやっています! 実は、当社もテレワークを始めました。しかも、福岡にいるスタッフとの間です。最初は、1人で始めた「チーム福岡」ですが、今は3人のメンバーがいます。 福岡ですので、もちろん、出勤は前提にしていません。時間は、フレックスタイムでフレキシブルタイムを5:00~22:00として、コアタイムなし。日曜日の勤務は禁止というルールで始めました。業務中の連絡や情報の共有がポイントと考えて、何かあればZoom(無料のWeb会議ソフト)を利用して、都度打ち合わせを行っています。週に一度の打ち合わせも、時間が合うときには、Zoomで参加してもらっています。 労働時間の把握に使用しているのは、もちろん、「レコル」です。レコルを使えば、仕事中なのか仕事をしていないのか、東京でもリアルタイムで把握できるため、こちらから連絡を取りたいときにも便利に使えています。また、「チーム福岡」の働き方は、朝、早起きして「30分」、子どもたちを送り出して「60分」、夜「30分」といった感じで、一日何度も出退勤の記録をつけているのですが、これにも対応しています。 ほかにもセキュリティが守れる体制作りということで、「チーム福岡」は在宅勤務でということでお願いしています。カフェなどでやるのも可能とすると、資料を忘れたりとなりに話が聞こえたり…といった懸念がありますので。 このように、小規模な企業であっても「テレワーク」を行うことは可能です。しかも、費用はそんなに掛かっていません。いかがでしょうか、御社でもチャレンジしてみませんか!? 少なくとも、「チーム福岡」の3人は出勤を前提にしていたら「雇用」することはできていませんでした。「テレワーク」を可能とすることで、新たな雇用の創出につながったのです。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
さて、2019年4月より、残業時間『時間外労働』の上限規制が始まっています(中小企業は2020年4月から適用)。そこで、このルール(詳細は罰則付き!時間外労働の上限規制)を守るために必要となる労働時間管理のポイントについてお話します。 まずは、労働時間のルールを改めて整理しておきましょう。 1.時間外労働は、36協定を締結したうえで、原則1か月45時間以内・1年360時間が限度時間となっている。 2.特別条項付き36協定を締結すれば、限度時間を超えて時間外労働が可能となるが、その数は、年6回以内に収めなければならない。 3.限度時間を超える時間外労働を行う場合には、事前に特別条項付き36協定で定める所定の手続きが必要となる 4.どんな場合であっても、時間外労働の上限は、1か月100時間未満・1年720時間以内としなければならない。 5.常に「時間外労働」+「法定休日」の上限を1か月100時間未満・2~6か月の各期間における1か月平均を80時間以内としなければならない。 <ポイント1>年間スケジュール・月間スケジュールによる時間外労働等の管理 1年のうちの業務繁忙期(時間外労働が45時間/月を超える可能性がある月)を「6回以内」とする計画を立てておく必要があります。年間の業務スケジュールを立てて、時間外労働が45時間/月を超える可能性がある月を想定・計画しておくのです。 特別条項を適用する場合には、想定・計画した分を合わせて「6回以内」に収まるのかを確認しながら時間外労働を行う必要があります。 「例年であれば、そんなに忙しくないはずなのに…」 例えば、1年のうち、春と秋が忙しいAさんは、例年5か月程度、特別条項を適用して時間外労働を行っています。つまり、あと1回しか特別条項を適する余裕がない訳です。でも、今年は、例年であれば業務が落ち着いているはずの「8月」に臨時の業務が入ってしまい45時間を超える時間外労働を行うことになりました。 計画通りであれば、これで最後の「1回」を使ってしまうことになり、これ以上45時間を超える時間外労働はできないことになります。もし、年末に臨時の業務が入ってしまったら…。同僚や上司に助けを求めるなどによって、Aさんは時間外労働を45時間以内に抑えなければなりません。 時間外労働や休日出勤を行わせる場合には「事前申請」を活用することをお勧めします。事前申請により、本当に必要な業務であるのか? 休日出勤や時間外労働時間は今やらなければならない業務なのか? だれかに協力を仰ぐことはできないのか? についても目を配ることが可能となります。 ※この場合の「1年」は各社で締結している36協定の有効期間の1年となります。 <ポイント2>限度時間を超える前に所定の手続きが必要! 限度時間を超える前に、特別条項付き36協定に記載されている「労使協議の上」「通告の上」等の所定の手続きが必要です。 36協定に定める限度時間(原則:1か月45時間・1年360時間)を超える前に、「超えそうだ」ということに気付く必要があり、かつ、「超える前に」所定の手続きを経ることで限度時間を超える時間外労働が可能となるのです。この一定の手続きを経ない場合には、法違反となってしまいます。 自身による管理もさることながら、管理職も部下の時間外労働時間の現状を定期的に確認するなど、限度時間を「超える前」に動ける体制を整えなければなりません。 <ポイント3>時間外労働だけでなく、法定休日の労働時間も把握する これまで、36協定では「時間外労働」の上限時間と「法定休日」に労働させることのできる日数の上限を定めていました。つまり、法定休日は日数の管理となっていました。 法改正後は、「時間外労働」、「法定休日」ともに時間数で把握する必要があります。その時間は、図表1の通り、特別条項の有無にかかわらず、1年を通して常に、①1か月100時間未満、②2~6か月平均80時間以内に収めなければならないのです。 (図表1)36協定における限度時間 限度時間 法定休日労働時間 原則 1か月45時間 1年360時間 含まず 1か月100時間未満 含む 2~6か月平均で80時間以内 含む 特別条項 年6回まで 1年720時間 含まず 1か月100時間未満 含む 2~6か月平均で80時間以内 含む 例えば、時間外労働が特別条項の適用とはならない「45時間以内」であっても、法定休日の時間を加えて100時間未満としなければ法律違反となってしまいます。 この場合、法律違反に対しては「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられることがあります。 これら労働時間のルールは、すべての社員が知っておかなければなりません。もちろん、管理職が管理するべき事項ですが、何もかも管理職頼みとするのは無理があるでしょう。時間外労働は毎日積み重ねられていくものです。リアルタイムでの時間把握が必要となります。自身の労働時間のことは自身で管理することが、手っ取り早いですよね。 「私の残業、このままだと45時間を超えそうなのですが…」と部下が言ってくれるようになることが理想です。 労働時間はこうやって管理する! 法改正後の労働時間管理をシミュレーションにもとづいて解説します。 図表2が4月から9月までの時間外労働等の実績です。 (図表2)時間外労働時間上限規制のシミュレーション 4月 5月 6月 7月 8月 9月 時間外労働時間 45時間 40時間 50時間 42時間 60時間 46時間 法定休日労働 40時間 30時間 25時間 30時間 26時間 27時間 合計 85時間 70時間 75時間 72時間 86時間 73時間 ①6・8・9月においては、1か月45時間を超えた「時間外労働時間」となっていますので、特別条項の適用を受けなければなりません。つまり、45時間を超える前に所定の手続きが必要となります。 ②各月の時間外労働時間+法定休日労働<100時間ですので法違反ではありません。 ③2~6か月の平均を見ると a(8月、9月の2か月平均):73+86÷2=77.5H≦80H ⇒ 〇 b(7月、8月、9月の3か月平均):73+86+72÷3=77H≦80H ⇒ 〇 c(6月、7月、8月、9月の4か月平均):73+86+72+75÷4=76.5H≦80H ⇒ 〇 d(5月、6月、7月、8月、9月の5か月平均):73+86+72+75+70/5=75.2H≦80H ⇒ 〇 e(4月、5月、6月、7月、8月、9月6か月平均):73+86+72+75+70+85/6=76.83H≦80H ⇒ 〇 すべて、80時間以内となっているので、法律違反とはなりません。 では、10月の「時間外労働時間+法定休日労働」は何時間以内に抑えれば法律違反とはならないのでしょうか。 2~6月の平均(10・9月、10・9・8月、10・9・8・7月、10・9・8・7・6月、10・9・8・7・6・5月)のすべての時間を80時間以内とするには、10月の「時間外労働時間+法定休日労働≦81時間」とする必要があるのです。 このことを10月が始まる前(9月が終了した時点)で、本人と管理職が確認したうえで働くことが法律違反とならないために重要なこととなります。 計画的な業務配分をしましょう! 今後は、管理職が部下の時間外労働の状況をリアルタイムで把握できなければ、時間外労働を指示することさえできなくなります。 図表2の場合、9月に時間外労働時間や法定休日の労働が多く予想されているのであれば、8月の労働時間を抑える工夫が必要だったのです。もちろん、10月も同様に抑える必要あります。忙しい月があるなら、その前後月の時間外労働等は抑えておく必要があるのです。 時間外労働+法定休日労働≦80時間 2~6か月の平均が、常にこの範囲内にしておかなければならないのです。 45時間を超える時間外労働は年6回しかできません。労働時間を月単位、季節単位、年単位などで計画的に業務を配分し、進捗状況を管理することが重要となります。 また、自身も自らの業務の進捗状況を把握して、必要に応じて上司に報告・相談ができる体制が理想的です。 特定の人に業務を集中させない仕組みづくりが求められます。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
皆さんは、1年間でどのぐらい年次有給休暇(以下「有給休暇」といいます)を利用していますか? 厚生労働省「就労条件総合調査」によると、平成29年の有給休暇の取得率は、51.1%、付与日数18.2日に対して9.3日利用をしています。取得率は、例年こんな感じで、1年間にもらった分の半分くらいを取得している状況が続いています。 政府はこの取得率を2020年までに70%とする目標を掲げています。そうすると、前述の付与日数から算出された付与日数は、「12.7日」となり、かなり高いハードルのように感じられます…。そして、2019年4月には労基法が改正されることとなりました。 2019年4月から有給休暇5日取得が義務付けられる! これまで有給休暇は、労働者が「有給休暇使って休みます!」と請求しないまま、時効の2年が経過すると、その権利は消滅していました。「有給休暇なんて一度も使ったことない!」といったベテラン社員たちが居ても何の問題も無かったのです。 しかし、2019年4月以降は違います。そういったベテラン社員たちのおかげで会社が処罰を受けることもあるのです。 2019年4月からは、企業規模に関係なく、1年間に付与される有給休暇のうち、「5日」については、使用者が時季を指定して取得させなければならないこととなります。ただし、労働者が自ら申し出て取得した日数や、計画付与により与えた日数は、5日から控除できることとなります。 つまり、労働者が1日も有給休暇を取らなくても、会社が時期を指定することで最低「年5日」は取得させる必要があるのです。 なお、これに違反した場合には、労働者1人につき30万円以下の罰金に科せられる恐れがあります。即罰金となるかどうかは別にして、年休の取得が5日未満の労働者が10人いれば、300万円の罰金が科せられる可能性があるのです。 会社のためにと思って有給休暇を取得せずに働いている労働者が、かえって会社に迷惑をかけることになるのです。会社も有給休暇に対する意識を大きく変えなければなりません。 対象者は? 1年間に「10日以上」、有給休暇が付与される労働者が対象となります。 パートタイマーやアルバイトであっても、週の所定労働日数が3日以上であれば勤続年数によってその対象となる可能性があります。図表1の黄色の欄に該当する方がその対象です。 所定労働日数が「週3日」であれば「勤続年数5.5年以上」、「週4日」であれば「勤続年数 3.5 年以上」の方については、パートタイマーであってもこの対象となるのです。 パートタイマーにも有給休暇が付与されるの知っていましたか? ※有給休暇の基本的な内容については、「有給休暇を効率的に活用する」を確認してください。 (図表1) 週所定 労働日数 1年間の 所定労働日数 勤続年数 0.5年 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年 4日 169日~216日 付 与 日 数 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日 3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日 2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日 1日 48日~72日 1日 2日 2日 3日 3日 3日 3日 いつ付与された有給休暇からが対象となるの? 2019年4月1日以降に「10日」以上の有給休暇を付与された分からが対象となります。例を挙げて説明します。 入社2年目の社員Aは2019年1月1日に「11日」の有給休暇が付与されました。また、2018年10月1日に入社した中途入社のBには、2019年4月1日に「10日」の有給休暇が付与されました。 2019年4月1日の新入社員Cは、入社半年後の10月1日に有給休暇が「10日」付与されます。 この場合、Aが付与された有給休暇は、法改正前に付与されたものであるため、2019年12月31日までに「5日」有給休暇を取得させなくても法律上問題はありません。 BとCは、有給休暇の付与日が2019年4月1日以降の付与となるため、法改正の対象となります。 このように新入社員の方が先に法改正の対象となるケースもあるのです。 なお、Bは2019年4月1日から2020年3月31日までに「5日」、2020年1月1日から2020年12月31日までに「5日」とることとなります。このように「5日」取得の期間が重なる場合、管理が複雑となることから『比例案分』して取得させれば良いこととなっています。 つまり、2019年4月1日から2020年12月31日を比例案分(月数÷12か月×5日)してこの期間に取得させるべき日数を算出します。 したがって、21÷12×5日=8.75日は、1日単位に繰り上げる必要があるので「9日」となります。したがって、Bには、2019年4月1日から2020年12月31日の間に「9日」有給休暇を取得させればよいのです。 Cも同様の計算をすると「6.25日」となります。この場合、半日有給制度を持っている企業は、「6.5日」の付与で良いのですが、持っていない企業は、1日単位に繰り上げるため「7日」を2019年10月1日から2020年12月31日の間に取得させればよいことになります。 取得しやすい環境づくり 今まで「有給休暇を取得しなさい!」なんて言われたことのある労働者は、ほとんどいないのではないでしょうか。 また、体調が悪いわけでもないのに「会社を休む」ことに罪悪感がある方は多いことでしょう。 有給休暇の取得に「みんなに迷惑がかかるから」とためらいを感じている方が多いことが有給休暇の取得率が上がらない理由とされています。 このような環境を変えていくことがこれからの労務管理に求められるのです。もし、年5日取得できない労働者たちが多くいて、忙しい年度末にまとめて取得をさせなければならない状況となったら…困るのは会社です。 企業として取りやすい時季に取得してもらう仕組みを整備することを検討しましょう。 (1)計画付与の活用や希望日の調整 労働者本人が、自主的に5日以上有給休暇を取得してくれれば良いのですが、これまでの取得率からすると、自主性に任せていては、取得出来なさそう…こんな場合にはどうしたら良いのでしょうか。 有給休暇の計画付与制度を活用する方法があります。これは、労働者代表との協議を経て、「労使協定」を締結することで、有給休暇を一定の時季や期間に取得させることが出来る制度です。 例えば、飛び石連休の谷間の労働日に計画的に取得させることや閑散期の週末、土日にプラス1日の有給休暇を取得させることで3連休が取れるようにするなど工夫して取得を促してみてはいかがでしょうか。 また、有給休暇付与日から四半期ごとや半年経過後など一定の期日ごとに、有給休暇の取得状況を確認して、取得が進んでいない方には、有給休暇の希望日を聞いて会社側から時季を調整するといった手も考えられます。 (2)有給休暇付与日の統一 「5日」取得しなければならない「1年」のスタートは、有給休暇が付与された日が「基準日」となります。 そうなると、中途入社が随時ある中小企業では、「基準日」は各人ごとに異なっています。このような場合には、有給休暇の付与日を「毎月1日」に統一することで、「基準日」の管理が楽になります。 例えば、本来ならば、2月10日に入社した人は「8月11日」、2月25日に入社した人は「8月26日」が有給休暇付与日となります。これを8月中の付与日を全て「8月1日」に統一してしまうのです。こうすれば、起算日は個人ごとの管理ではなくなり、最大12通りとなります。企業にとっては、若干前倒しで与えることとなりますが、この程度であればそれほどの負担とはならないのではないでしょうか。 (3)管理職こそ率先して! おそらく、部下の有給休暇取得を管理するのは、「管理職」の新たな役割となるでしょう。 この役割を果たすためには、管理職自身が、率先して有給休暇を取得して見本を見せることが求められます。 管理職の方々が、有給休暇を取得して「良かった」、「リフレッシュできた」と感じて頂き、「この前、有給休暇を取ってのんびりできたぞ。みんなも取れよ!」なんて言って頂くことが、部下が有給休暇を取得しやすい環境への一歩となるのです。 ある勤務医の方が生まれ始めて有給休暇を取って温泉に行ったときに、「不謹慎かもしれないけど、みんなが働いているときに休むって凄くリフレッシュ出来るし、戻ったら頑張ろうって思えたんだよね。」と言った話をしてくれました。 こういった話をしてくれる上司が増えてこないとなかなか有給休暇を取りづらい環境は変わらないのかなと感じています。 発想を変えて取得してもらう! 今回の法改正、定着するには時間がかかるのかもしれません。しかし、現状退職日が決まってから、退職するまでの間にまとめて取得することが慣習となっている企業も少なくありません。そうであれば、在職中にリフレッシュしてもらって、良い仕事をしてもらう方がよっぽど良いのではありませんか? ちょっと考えてみましょう。体調不良で休む場合は、しょうがないような気もしますが、会社にとっては突然の休暇であり、穴を埋めるのは容易ではありません。しかし、リフレッシュのための有給休暇は、事前の申請に基づくものであり、多くの職場では穴を埋めることは可能ではないでしょうか。 例えば、有給休暇を取る場合…「来週、有給休暇を取るのでもし、●●会社から連絡が有ったら…」といった風にちょっとした業務の引継ぎを行うことは一般的ではないでしょうか。ここで「情報の共有」が出来ていることになります。また、休暇明けには、お土産などを囲んで休み中の楽しかった話しなども行われます。ここでは、「社員間のコミュニケーション」が促進されているともいえます。企業にとって有給休暇の取得が負担となるといったマイナス面だけを見るのではなく、プラス面があることにも着目する必要があります。 なお、有給休暇の時季指定義務に伴い、「年次有給休暇の管理簿」の作成・保存(3年間)が義務付けられます。管理簿には取得した時季、日数及び基準日を記載することとされています。また、付与日の統一・計画年休制度の導入については、就業規則の改定を伴いますのでお忘れなく。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
人材確保の鍵は、労務管理の改善 企業経営の3要素である「ヒト、モノ、カネ」のうち、「ヒト」が最も大切です。「ヒトを大切にする経営」の実践は、労働者がいきいきと働ける職場環境をつくり、生産性の高い職場、ひいては好業績の企業をつくることにつながると考えます。特に、中小企業においては、これからはこの点を重視した経営に取り組む必要があります。 働き方改革は、この「ヒトを大切にする経営」を実現するためのものといえます。 しかし、「働き方改革」と言えば、時間外労働の削減、年次有給休暇の時季指定義務など、『労働者にとっては良いことなのだろうが、中小企業にとっては、負担となることばかりで、実現するメリットは、感じられない!』と考えている経営者は多く、実際中小企業の経営者からは「うちは、中小企業だからとても実現できない」といった声も聞くことがあります。 確かに中小企業にとっては、「働き方改革」を実現させることは負担となることも多いのは事実でしょう。しかし、今、一度考えてみてください。中小企業における喫緊の課題は「人材不足」の問題です。大企業と比較して、賃金等の処遇に差がある中小企業にとって自社の働き方を見直し、『魅力的な職場』にすることが、これからの企業経営においては、重要な要素となるのではないでしょうか。 大企業は、法令順守の観点からも『働き方改革』を推進していくでしょう。そうなると益々、中小企業との格差が広がっていくことが考えられます。今、このタイミングで中小企業が魅力的な企業づくりのために「働き方改革」を実現し、「魅力的な企業」とならなければ、「人材不足」の解消どころか『人手不足倒産』となりかねません。 実際、人材確保が出来ないために新規店舗の出店の見直し、営業時間日数の短縮等、企業運営に支障が出ているケースは数多く報道されています。「人手不足倒産」と言ったことが現実味を帯びてきているのです。 以前は、「労働者にとって良い環境を整えることばかりで、企業がつぶれてしまったら一番困るのは労働者だ。」と話す事業主もいました。しかし、今では、自分の働いている会社が良い環境でなければ、別の環境の良いところに喜んで転職してすることでしょう。会社があるから労働者が存在するのではなく、労働者に選ばれるから会社が存続することが可能となるのです。 働き方改革の実現に向けて取り組むべきこと 2019年4月から「働き方改革関連法案」が順次施行されます。働き方改革のスケジュールは次の通りとなっています。 働き方改革のスケジュール 大企業 中小企業 年次有給休暇の時季指定義務 2019年4月施行 労働時間の把握の実効性確保 フレックスタイム制の拡充 勤務間インターバルの努力義務 高度プロフェショナル制度新設 産業医・産業保健機能の強化 時間外労働の上限規制 2019年4月施行 2020年4月施行 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止 2020年4月施行 2020年4月施行 (一部) 月60時間超の時間外労働の割増賃金率引き上げ 適用済 2023年4月施行 これらを実施することは、中小企業にとって相当にハードルが高いと考えられます。したがって、一部の法律の施行が中小企業において、時間的に猶予されているものもあります。ここでいう、中小企業の範囲は以下の通りとなっています。 中小企業の範囲 業種 資本金の額または出資の総額 または 常時雇用する労働者数 小売業 5,000万円以下 または 50人以下 サービス業 5,000万円以下 100人以下 卸売業 1億円以下 100人以下 上記以外 3億円以下 300人以下 働き方改革に取り組み中小企業の事例 働き方改革を実現するに当たって、法令順守の観点からだけでなく、「働きやすい環境づくり」といった視点で実施し、好業績につながったA社の事例を紹介します。 1.課題・背景 地方都市にあるオフィス家具製造業 (従業員規模60名) A社は、新卒者や業務繁忙期における臨時従業員の採用が難航したため、これまでの男性をターゲットとしていた採用を見直し、女性を積極的に採用することとしました。人事担当者が、近隣の高校を回って話をしに行ったところ、ある高校から女性を1名採用することが決まったのです。 しかし、それまで製造業ということで女性の採用を躊躇していたため、製造部門に女性社員はほぼいない状況にあったため、男性主体の職場である現状が、女性にとって働きやすい環境となり得るのかについて疑問を抱いていました。 2.取組み内容 工場を見学すると、力仕事はほぼなく、女性が働くことは充分可能であると考えられました。しかし、「女性専用トイレ」は事務所内にあるものの、工場内のトイレは男女共用となっている点、また「女性用の更衣室」が設置されていない点が、女性が働くうえでの課題となることが考えられました。まずはこれらを整備することとしました。なお、こちらの整備については、厚生労働省が実施している助成金を活用することができました。 このような取組みと並行して、県が実施している「男女共同参画推進宣言企業」の認定を受けることにもチャレンジしました。 主な宣言内容は、以下の内容です。 ①残業時間の削減に向けた取組み(勤務間インターバル制度の導入) ②就業時間中に外出(中抜け)できるよう時間単位有給休暇の設定 ③女性社員の管理職への積極登用 ④社員がコミュニケーションを図りやすくするためのレクリエーション等の実施 3.成果 新規高卒女性を1名ずつではあるが、2年連続で採用することができました。送り出し先の高校で「男女共同参画推進宣言企業」の認定を受けたことを伝えると、「安心して生徒を送り出せます。」とのコメントをもらうことができ、その後、同校からは男性の採用も決まり、学校との信頼関係が高まったことが実感できました。 また、業務繁忙期において、近年採用が困難となっている女性派遣労働者の採用にもつなげることができて、製造部門で勤務する女性労働者は、4年前は0名であったのだが、現在は7名となっています。 現在、そのうちの1名は、溶接の業務にもチャレンジしており、職場の活性化につながっています。その結果として、社員間のコミュニケーションが円滑になり、活気あふれる職場となり、社員旅行の参加率まで向上しました。もちろん、業績も増益が続いています。 まとめ A社の事例を見ると、職場改善の必要性があることに事業主が懸念していたことが改善の一歩につながったと考えます。事業主が職場改善の意思を持ち、女性の働きやすい職場づくりを実現した結果、労働者満足度が高まり、好業績につながったのです。 確かに職場環境を整えることが、直接業績の向上につながるわけではないが、結果として、企業の好業績につながっているのは事実です。 「働き方・休み方改善ポータルサイト」には、数多くの事例が挙げられています。 働き方改革の実現が企業にとって負担であると感じている事業主は、自社の職場環境が、「働きやすい環境」であるのかといった視点に立って、今一度見つめ直し、「出来ることから手を付けてみる」ことで中小企業の働き方改革は実現するのではないでしょうか。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
インターバル制度とは 皆さん、こんにちは特定社労士の飯野正明です。 2019年4月以降、企業規模に応じて、順次時間外労働に上限規制がかかることは、前回のブログ「罰則付き!時間外労働の上限規制について」 でお話したところです。 なかなか難しいことを「要求されるているな…」と思われている経営者の方も多いのではないでしょうか。時間外労働については、やはり、やらない、やらせないのが一番ということになるのですが、どうしても時間内に終わらずに残業となってしまうことは十分に考えられます。ときには、夜遅くまで…となってしまうこともあるでしょう。 この場合、翌日の朝、いつもと同じ時間に会社に出社するとなるとゆっくり身体を休ますことが出来ないといったことがあります。前日遅くまで働いた上に、ゆっくり休めていないとなると翌日の仕事ぶりに影響が出ることも考えられます。このような時に有効となるのが、「インターバル制度」です。 インターバル制度とは 「インターバル制度」とは、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を設定することです。前述の例のように夜遅くまで働いたので、「明日の朝は、いつもよりゆっくり出社していいよ!」ということです。 この制度は、労働者の生活や睡眠時間を確保することが目的です。どうやら、日本人の睡眠時間は先進諸国の中で最下位とのこと。寝不足は、うつ病や認知症のリスクを増加させると考えられています。私が通院している病院の医師は、「その日の内には寝るようにして、睡眠時間は、1日7時間が目標!」といつも言われています。 寝不足が、うつ病や認知症のリスクを増加させるとなると、翌日の仕事ぶりに影響が出るレベルの話ではありません! 睡眠時間の確保は労働者の健康を守るためにも重要なこととなるのです!! 例えば、通勤時間が1時間と考えると「2時間残業」して、退社時間は20時。1時間かけて自宅に着くと21時。寝るまでに3時間程の時間を過ごすことが出来ます。これくらいあればゆっくりとお風呂も入れるし、1日7時間の睡眠時間を確保することができそうですね。 これが、退社時間が1時間遅くなり、2時間遅くなり…となってくるとどうしても睡眠時間を削ることになります。また、通勤時間がもっと長い方もいらっしゃいます。うちの事務所には、1時間半以上掛けて通勤している職員もいます。 自宅でゆっくり休むとなると、退社時間の目安は「20時」といったところでしょうか。 しかしながら、いつも早く帰れるとは限りません。もちろん、残業せずに帰る時もあるでしょうが、退社時間が遅くなったときに、「インターバル制度」の出番となるのです。図をご覧ください。 例えば、インターバル(=休息時間)を「11時間」と設定すると、21:00まで勤務した場合には、翌日の始業時間9:00までの間は、12時間となっているので「11時間」の休息時間は確保できています。(図1) (図1) しかしながら、23:00まで勤務をした場合には、翌日の始業時刻9:00までの間は「10時間」しかないため、「11時間」の勤務時間を確保できません。(図2) (図2) この場合には、出社時間を1時間繰り下げて「10時」とすることで11時間の休息時間を確保することとなります。(図3) (図3) 2019年4月1日からは、インターバル休暇の導入が企業の努力義務となります。 なお、労基法改正後に「特別条項付き36協定」を締結する場合には、何らかの健康確保措置を取らなければなりません。この健康確保措置の一つとして、インターバル制度は挙げられています。 助成金を活用して制度の導入を 休息時間を9時間以上とするインターバル制度を導入した場合、「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」によって、「最大50万円」の助成金を受給することが可能です。 この助成金は、社会保険労務士などの外部専門家によるコンサルティング、就業規則・労使協定等の作成・変更、勤怠管理システムの導入等に要した費用の一部を助成するものです。インターバル制度の導入を検討している企業はこちらの活用をぜひご検討下さい。 時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース) なお、労働社会保険諸法令に基づく助成金の申請書の作成及び行政機関への提出等は、社労士法により社労士の業務と定められており、社労士又は社労士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、それらの業務を業として行えないこととなっています。ご注意ください。 インターバル制度の留意点 1.正確な始業・終業時刻の把握 そもそも、始業、終業の時刻が把握できなければ、何時間の休息時間を与える必要があるのかが明確になりません。正確な始業・終業時刻の把握が必須となります。インターバル制度の導入を機に勤怠システムの導入する場合、前述の助成金が活用出来ます。 2.休息時間の目安は? 休息時間については、特に定められていません。ちなみに、この「インターバル制度」はEUでは既に導入されている制度で、EUにおいては24時間につき最低連続11時間の休息が定められています。また、上記助成金においては「9時間以上」が対象となっています。 自社で勤務する労働者の平均的な通勤時間+7時間(睡眠時間の理想)。この辺りが休息時間の目安となるでしょう。 3.連続での適用には問題が… インターバル制度を適用し続けると、極端な話かもしれませんが出勤時間がどんどん遅くなってお昼過ぎに出社なんてことにもなり兼ねません。 特定の労働者にだけ残業をさせない仕組みづくりが望まれますが、業務繁忙期などの特定の時期においてはインターバル制度の適用をしないなどの対応が必要なケースも考えられます。 いずれにしろ、労働者に良いパフォーマンスを求めるのであれば、休息、睡眠時間を確保することが必要であることを意識する必要があります。 4.確保した休息時間の取扱い 確保した休息時間が通常の勤務時間にかかった場合には、その時間帯についての労働は、免除となります(休息時間となります)。 この場合の、その時間帯に対する賃金の支払いは労使間で取り決めることとなっています。つまり、無休でも構わないということになります。 最後に 残業はいつもするものではなく、やらなきゃならないときだけやるものなのです。やらなきゃならないときなので、長い時間残業せざるを得ない状況が生じることがあるでしょう。 やるときにはやってもらう為にも『インターバル制度』は必要となるのです。 しっかりやってもらった後は、しっかり休む。休息時間を確保し、翌日以降に疲労を残させない働き方が「労働者の健康」を守ることにつながるのです。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
罰則付き!時間外労働の上限規制 前回、お話ししました36協定。ここでは、時間外労働の上限を原則1か月45時間・1年360時間としています。 この原則を超える時間外労働については、「臨時的なもの」(特別延長時間)に限って認められていますが、現在は上限となる時間数は示されていません。 今回の法律改正により、上限となる時間数が法律上示されることになり、これに違反をすると罰則が科せられることとなります。 労働基準法の改正(労基法第36条) 従来、労基法第36条において、延長できる労働時間の限度は規定されていませんでした。今回の改正で、時間外労働の上限を原則1か月45時間・1年360時間※として上で、『通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴う臨時的』に原則の延長時間を超えて労働させる必要がある場合に延長できる時間外労働働時間(特別延長時間)の上限を『1年720時間(=月平均60時間)』と定めました。 また、その場合においても以下の要件を満たすものとしなければなりません。なお、1か月45時間を上回ることができる月数は、1年について6か月を上限とします。 ①1か月で、休日労働を含んで、100時間未満を満たさなければならない。 ②2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均でいずれにおいても、休日労働を含んで、80時間以内を満たさなければならない。 ※1年単位の変形労働時間制(3か月を超える期間)の対象となっている場合は、1か月42時間・1年320時間 図表1 法改正後の残業規制のイメージ 現状の36協定の見直し 現行の36協定においては、法定労働時間を超えて行わせる時間外労働の時間(延長時間)は ①1日 ②1日を超え3か月以内の期間 ③1年間 について協定しなければならないことになっています。 法改正後は、②の部分が「1か月」に限定されます。 今までは、「2か月」で「81時間」や「3か月」で「120時間」といった形で締結することも可能でした。例えば、年度末が業務繁忙時期の企業において、延長時間を「2か月」で「81時間」と締結しておけば、3月の時間外労働が「50時間」であったとしても、4月の時間外労働を「31時間以内」に抑えることで、36協定の範囲内となっていました。 しかしながら、法改正後はあくまでも「1か月」を基準とすることになりますので、翌月または翌々月で調整することはできなくなるので、要注意となります。 なお、36協定の有効期間については「1年間」と明確に定められることとなりました。 厳格な労働時間管理の必要性 現行の36協定においては、「法定外時間外労働」についての上限時間と「法定休日」に働くことでのできる日数の上限を定めています。 今回の法改正後も原則は同様なのですが、『特別延長時間』を適用した場合には、『法定休日』の労働時間も含めて考えなければなりません。 前述の、①1か月100時間未満、②2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均80時間以内の要件には、いずれも『休日労働』を含むということになります。 つまり、こんな感じです。 原則:1か月の時間外労働≦45時間 例外 ① 1か月の総労働時間(時間外労働時間+法定休日及び所定休日の労働時間)<100時間 ② 複数月平均総労働時間(時間外労働時間+法定休日及び所定休日の労働時間)≦80時間 今までは、『法定休日』の労働については、『出勤日数』が36協定の範囲内となっているかを管理している企業が多かったと考えます。しかしながら、法改正後は、『特別延長時間』を適用した場合には、「法定休日の労働時間」も含めて特別延長時間の上限時間に抵触しないように管理する必要があるのです。これまで以上に厳格な労働時間管理が求められます。 なお、これらの法改正が適用されるのは、大企業においては2019年4月1日、中小企業においては2020年4月1日からの適用とされています。 中小企業は注意!時間外労働1か月60時間超の割増率が50%に 既に大企業においては、1か月『60時間を超える時間外労働』に対する割増賃金率が『50%以上』とされています。これが2023年4月1日からはこれまで猶予されていた中小企業に対しても対象とされます。 ちなみに中小企業の範囲は以下のいずれかの要件を満たす企業です。 ①資本金の額が、3億円(小売業またはサービス業については、5,000万円、卸売業については、1億円)以下である。 ②常時使用する労働者の数が、300人(小売業については、50人、卸売業サービス業については、100人)以下である。 まとめ 昨今、「働き方改革」ということで多くの企業においては、「時間外労働の削減」に取組んでいることでしょう。中小企業においては、1年遅れの適用とは言え残された時間は多いとは言えません。 まずは、時間外労働を前提とする風土を改める必要があります。確かに、仕事を覚えるのに『時間』が必要です。自分自身も長い時間やることでものにしてきた知識・経験は多くあります。しかしながら、時代は変わったのです。 長い時間働くことでカバーしていたことは許されないのです。たとえ、労働者が納得していたとしても、労働者の望みであっても長時間労働は会社が罰せられてしまう時代となったのです。このことを経営者も労働者も肝に銘じる必要があります。 業務を仕分けする必要もあります。 必要な業務と不必要な業務、今やらなければならない業務とそうでない業務など優先度をつけて業務を行うことが必要です。社内でとどめておく必要のない業務はアウトソーシングすることも検討する必要があります。 働き方の見直しも必要となるでしょう。 労働基準法にある制度、変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制を駆使して効率的な労働時間の配分を行う必要があります。業務繁忙期には集中して業務を行い、業務が落ち着いている時期には、短く働いてもらうということです。 また、昨今話題のテレワークや勤務間インターバル制度の導入も検討に値するでしょう。 これらの課題は口で言うほど、簡単なことではないのは重々承知しています。しかしながら、これをクリアしない企業には、未来はないこともまた事実ではないでしょうか。もちろん、私の事務所においても悩みながら実践しています。皆さんも一緒に取組んでみませんか! プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
36協定って何だ? 「法定労働時間」を超えて労働させてはならないと労働基準法第32条に規定されています(詳しくは、知ってますか?所定労働時間と法定労働時間の違い)。つまり、時間外労働は『原則禁止』となっているのです。 となると、「この仕事、どんなに遅くなっても今日中に仕上げてね!」と言った業務命令は労働基準法違反となってしまうのでしょうか。 ここで『36協定(サブロク協定)』の出番となります。 「36協定」で時間外労働、休日労働が可能になる! 36協定とは、簡単に言うと、企業が残業や休日労働をさせる場合に、会社と労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者)とが取り交わす約束事=労使協定のことをいいます。なお、ここでいう休日労働とは、原則週1日の休日、いわゆる法定休日の労働のことをいいます(詳しくは、知ってますか?所定休日と法定休日の違い)。 この「36協定」は、所轄労働基準監督署に届出た場合に、初めて有効となります。 つまり、「時間外労働」「休日労働」を行わせる場合には、「36協定」の締結及び所轄労働基準監督署への届出が必須となり、このことによって協定の範囲内で「時間外労働」「休日労働」を行っても労働基準法第32条違反とはならなくなるのです。 なお、36 協定は、事業場単位で締結し届け出る必要があります。1つの会社に工場・支店がある場合は、原則、その工場・支店がそれぞれ 1つの事業場になりますので 工場・支店等ごとに 36 協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届出なければなりません。 36協定の内容 「36協定」の協定は、以下の事項について労使間で協定をします。 (1)時間外労働をさせる必要のある具体的な事由 (2)時間外労働をさせる必要のある業務の種類 (3)時間外労働をさせる必要のある労働者の数 (4)1日について延長することができる時間 (5)1日を超える一定の期間について延長することができる時間 (6)有効期間(1年間とするのが望ましい) なお、(5)については、厚生労働省より延長時間の限度が示されております(図表1)。 ここでいう「1日を超える一定の期間」とは、「1日を超え3か月以内の期間」及び「1年間」とすることとされており、企業の実態に応じて労使間で決定することになっています。 例えば、年度末前後が繁忙期であるため、この時期の時間外労働を「1か月」でカウントすると「45時間」の延長時間を超えてしまうおそれがあるため、「3か月」として「120時間」とすればその範囲内に収めることが可能であるような場合には、「1日を超え3か月以内の期間」を「3か月」とし、延長することができる時間を「120時間以内」と設定すればよいのです。 なお、休日労働については、原則1 週間に 1 日の休日(法定休日)に対して「労働させる場合に労働させることのできる休日(法定休日のうち1か月に○回、第2,4日曜日等)」「始業及び終業の時刻(労働時間数でも可)」を協定します。 図表1 延長時間の限度 期間 限度時間 一般の労働者 1年単位の変形労働時間制対象者 1週間 15時間 14時間 2週間 27時間 25時間 4週間 43時間 40時間 1か月 45時間 42時間 2か月 81時間 75時間 3か月 120時間 110時間 1年間 360時間 320時間 労働時間延長の切り札 「想定外のトラブルが発生したので1か月45時間の時間外労働じゃとても足りない」という場合も考えられます。図表1の「延長時間の限度」を超える労働は一切認められていないのでしょうか。実は、超えることができる方法があるのです。 この労働時間延長の切り札を、「特別条項付き36協定」といいます。 なお、ここでいう「特別の事情」とは「臨時的なもの」に限られ、一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要があるものであり、全体として年の半分を超えないことが見込まれるものとされています。つまり、常態で「延長時間の限度」を超えることは許されず、36協定において、「1か月の延長時間」を定めている場合は、年6回、「3か月の延長時間」としている場合は、年2回までの範囲で生じる「特別な事情」に限られているのです。したがって、延長時間の限度を超えて時間外労働を行わせなければならない「特別の事情」は、限度時間以内の時間外労働をさせる必要のある具体的事由よりも限定的であることが求められているのです。 「特別条項付き36協定」の協定事項 (1)延長時間を延長する場合に労使の手続 この場合の手続については、特に制約はありません。通常は、労使当事者が合意した協議、通告などの手続が挙げられます。また、この手続は、一定期間ごとに特別な事情が生じたときに、必ず行わなければなりません。所定の手続を経ることなく、延長時間を超えて労働時間を延長した場合は、法違反となります。 なお、労使当事者間において取られた所定の手続の時期、内容、相手方等を書面等で明らかにしておくことも求められています。 (2)延長時間を延長する一定の時間(特別延長時間) 特別延長時間については、限度となる時間は示されていませんので、労使当事者の自主的協議にゆだねられますが、過重労働による健康障害を防止する観点から、長時間労働とならないよう求められています。 (3)限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率 限度時間を超えて働かせる一定の期間(1日を超え3箇月以内の期間、1年間)ごとに、割増賃金率を定めます。その際、法定割増賃金率の下限(2割5分)を超えるように努めるよう求められています。(努力義務) 「特別条項付き36協定」の協定事項 特別条項による延長できる時間の見直し -労基法改正- 特別条項により延長できる時間外労働働時間の上限を年720時間(=月平均60時間)とし、一時的に業務量が増加する場合についても「最低限上回ることのできない上限」は以下の条件を満たすものに限ることが検討されています。 ① 2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均でいずれにおいても、休日労働を含んで、80時間以内を満たさなければならない。 ② 単月で、休日労働を含んで、100時間未満を満たさなければならない。 ③ 上記に加えて、時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間を上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする 図表2 法改正後の残業規制のイメージ まとめ なんて言っても、労使間の約束ですから、労使ともに守らなければなりません。 会社は、36協定に定めた時間を超えないように業務を行わせる義務があるし、労働者も36協定以内で働くことを意識しなければなりません。なんて言っても、労使間の約束ですから。 もちろん、使用者の指示命令の基、時間外勤務等が行われるものと考えると、使用者に命令されたら、『やらざるを得ないしとても逆らえないよ!』となるのも一理あります。 しかしながら、一人一人の労働者が意識することが重要なのです。それには、36協定の内容をすべての働く人たちが理解していなければなりません。1か月何時間残業ができるのか、今現在何時間の累積時間となっていて、あと何時間できるのか。こういったことが、リアルタイムで把握できるシステムが必要となってきます。 36協定や特別条項があることを前提にした働き方でなく、原則は法定労働時間内に収めることである、と言った感覚を持つことも必要です。図表3の様なイメージとなります。 一度発生した時間外労働は、減ることはありません。例えば、今日3時間の時間外労働を行なったので、翌日の勤務時間を3時間短くしたとしても、今日の時間外労働は無くならないのです。つまり、時間外労働を削減するにはやるときはやってやらない時はやらないと言った発想が必要となります。 図表3 労働時間のイメージ プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
『事業場外労働に関するみなし労働時間制』とは 前回の裁量労働制以外にも、実際に働いた時間「実労働時間」を働いた時間とせずに、「みなし労働時間」をもって働いた時間とする制度がもう一つあります。それが『事業場外労働に関するみなし労働時間制』です。 労基法第38条の2に「労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」と定められています。 直行直帰が多い『営業職』に対して残業代の支給をしないといった対応をしている会社は、おそらくこの条文を根拠としているのではないでしょうか… しかし… 営業職=事業場外みなし労働時間制の適用ではない! この条文が適用される前提は、『労働時間を算定し難いとき』に対象となるということです。必ずしも、『営業職=事業場外みなし労働時間制』の適用とはならないということです。 そもそも、労働時間を把握する義務は会社にあります。また、その把握の方法の原則として、以下の2つの方法が挙げられています(詳細は、『労働時間管理』はなぜ必要?)。 ①使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。 ②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。 もちろん、外出していればこれらの方法によって、労働時間を把握するのは難しいかもしれません。しかし、昨今は外出先であっても労働時間を把握することが可能な勤怠管理システムは多くあります。もちろん、レコルでは外出先からも勤怠管理は可能です。 長時間労働とならないように労働時間を管理することが求められている現状からすれば、『労働時間を算定し難いとき』ではなく、効率的に業務が行えるよう様々なツールを用いて管理することが望ましいのではと考えます。 『労働時間を算定し難いとき』とは… 私見ではありますが、働き方の実態を鑑みると、営業職に従事する方で「労働時間を算定しがたい」働き方をしている方の数は、そう多くはいないのではと考えています。 私が就職した25,6年前の話です。当時私の友人は某自動車販売会社に勤務していました。当時その友人は、「平日のデイタイムにスポーツクラブの会員になった」ことや行ってきますと外出して「パチンコ屋や温泉に行っていた」ことを話していました。さすがに「床屋」に行ったら上司に気付かれて怒られたなんて話をしていましたが… このように当時の営業職は、営業成績、結果だけを求められていたため、労働時間を管理されることなく(これが算定しがたいに該当するかは別として)業務を行っていることが多かったのではないでしょうか。 昨今では、携帯などのモバイル機器や勤怠管理システムで行動を把握し、より効率的に業務を行わせているやり方が増えています。少なくとも労基署の監督官は、これだけモバイル機器が発達している今の時代、「労働時間を算定しがたい」働き方はほとんどないと考えているような気がしています。 いずれにしろ、『営業職=事業場外みなし労働時間制』とはならないことは認識しておく必要があります。 事業場外みなし労働時間制の対象となるのは、「事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務であること」としており、次のような場合は労働時間の算定が可能であり、みなし労働時間制の適用は出来ないとしています(昭63.1.1基発1号)。 ①何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合 ②無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合 ③事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場に戻る場合 会社内では業務を行わずに、直行直帰で外回り業務を行い、かつ、訪問先での業務内容などの具体的な業務指示を行わない、こういったケースが『事業場外みなし労働時間制』の対象であるといえます。 みなし労働時間の対象は外勤時間のみ 事業場外みなし労働時間制の対象となった場合の労働時間は、次のとおりとなります。なお、事業場内での労働時間は当然、算定することが可能なため、その時間は把握しなければならず、みなすことはできません。みなすことができる時間は、『事業場外労働時間』のみとなっています。 ①事業場外業務の遂行に必要とされる時間 + 事業場内業務の労働時間 ≦ 所定労働時間 ⇒ 所定労働時間 ②事業場外業務の遂行に必要とされる時間 + 事業場内業務の労働時間 > 所定労働時間 ⇒ 通常必要とされる時間 + 事業場内の労働時間 ③労使協定がある場合には「労使協定で定める時間」 ⇒ 通常必要とされる時間 つまり、内勤時間も含めて『所定労働時間内』で業務が終了するのであれば、所定労働時間労働したとみなされるが、通常は、所定労働時間内で収まりきらないという場合には、そもそも、「労働時間を算定しがたい」状況にあるのですから、いちばん実態を把握している労使で業務遂行に「通常必要とされる時間」を決めてその時間をもって「労働時間」としょうということです。 まとめ そもそも、『労働時間を算定がし難い』か、どうか疑問ではありますが、実際、事業場外のみなし労働時間を適用している会社は数多くあります。また、営業手当を支払うことで残業代を支払っていないといった対応をしている会社も多くあるのではないでしょうか。 この場合、少なくとも、日常の業務が『所定労働時間内』に収まっているのか、収まっていないのであれば『通常必要となる外勤時間』がどの程度なのかを調査する必要があります。 その上で、明らかに所定労働時間では収まらないのであれば、労使協定により「みなし労働時間」を定めるべきでしょう。また、営業手当を残業代の代わりに支払うのであれば、その対象額が何時間分でいくらなのかを給与規程等に定義づけることが必要です。もちろん、内勤業務が長くなるなどその対象となる時間を超えた場合には追加で超過勤務分についての支払いが必要となります。 こういった点も踏まえて、『事業場外のみなし労働時間制』を運用しなければなりません。何度もいいますが、『営業職=事業場外みなし労働時間制』とはなりませんので。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員6名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
裁量労働ってどんな働き方? 『裁量労働』とは、どんな働き方なのでしょうか? 研究開発職やデザイナーの働き方・・・ 出退社が自由な働き方・・・ 何時間働いても残業が発生しない働き方・・・ 休日でも、深夜でも好きなときに仕事ができる働き方・・・ 結局は、長時間労働となってしまう働き方・・・ これらは、裁量労働の一部を表現しているだけに過ぎません。それでは、裁量労働とはどんな働き方なのでしょうか。 裁量労働とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分を大幅にその業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に労働者を就かせたとき、実際に働いた時間を労働時間とするのではなく、あらかじめ労使協定等により定められた労働時間とみなす制度です。 つまり、「仕事のやり方を労働者にゆだねた方が、効率的に仕事が進むであろう業務」である必要があるのです。必ずしも、研究開発職やデザイナーが、出退社を自由にして働けるわけではないのです。 裁量労働には2つの制度がある 裁量労働には研究開発職やデザイナー等のいわゆるスペシャリストを対象とする「専門業務型裁量労働制」(労基法第38条の3)と事業運営の企画、立案、調査、分析に携わる労働者を対象とする「企画業務型裁量労働制」(労基法第38条の4)の2つの制度があります。なお、その対象となる業務は厳格に決められています。 (1)専門業務型裁量労働制 専門業務型裁量労働制は、以下の19の業務が特定されており、その対象の業務に該当しなければ、専門業務型裁量労働制の対象とはなり得ません。 専門業務型裁量労働制対象業務 ① 新商品もしくは新技術の研究開発又は人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務 ② 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ)の分析又は設計の業務 ③ 新聞もしくは出版の事業における記事の取材もしくは編集の業務または放送番組の制作のための取材もしくは編集の業務 ④ 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務 ⑤ 放送番組、映画等の政策の事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務 ⑥ 広告、宣伝等における商品等の内容、特徴等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務) ⑦ 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握またはそれを活用するための方法に関する考案もしくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務) ⑧ 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現または助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務) ⑨ ゲーム用ソフトウェアの創作の業務 ⑩ 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務) ⑪ 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務 ⑫ 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事する者に限る) ⑬ 公認会計士の業務 ⑭ 弁護士の業務 ⑮ 建築士(1級建築士、2級建築士および木造建築士)の業務 ⑯ 不動産鑑定士の業務 ⑰ 弁理士の業務 ⑱ 税理士の業務 ⑲ 中小企業診断士の業務 また、単に研究開発職だからと言って、必ず、裁量労働に該当するわけではありません。裁量労働に該当するかどうかは、その業務を実際に遂行するに当たって、遂行の手段・時間配分について使用者から具体的な指示を受けておらず、労働者の裁量にゆだねられている必要があります。 例えば、何人かでプロジェクトチームを組んで研究開発業務を行っている場合に、チームリーダーの管理の下に業務を遂行しているメンバーやそのプロジェクトの付随業務や補佐をしているメンバーは裁量労働制の対象とは言えないのです。 (2)企画業務型裁量労働制 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を行う労働者が対象となります。こちらについても、厳格な要件があります。対象となる業務例、ならない業務例を以下に示しておきます。 対象者は、業務を適切に行うだけの知識、経験を有していることが前提となるため、「少なくとも3~5年くらいの業務経験があることが前提となります。 企画業務型裁量労働制の対象となる業務 ① 経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務 ② 経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務 ③ 人事・労務を担当する部署における業務のうち、現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務 ④ 人事労務を担当する部署における業務のうち、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務 ⑤ 財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務 ⑥ 広報を担当する部署における業務のうち、効率的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務 ⑦ 営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、営業成績や営業活動上の問題点等について調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務 ⑧ 生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及び分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務 企画業務型裁量労働制の対象とならない業務 ① 経営に関する会議の庶務等の業務 ② 人事記録の作成及び保管、給与の計算及び支払、各種保険の加入及び脱退、採用・研修の実施等の業務 ③ 金銭の出納、財務諸表・会計帳簿の作成及び保管、租税の申告及び納付、予算・決算に係る計算等の業務 ④ 広報誌の原稿の校正等の業務 ⑤ 個別の営業活動等の業務 ⑥ 個別の製造等の作業、物品の買い付け等の業務 裁量労働制における労働時間の考え方 労働時間の計り方は、こんな感じです。 「仕事を始めます!」でストップウオッチをスタートさせます。休憩時間中は、一旦止めて、休憩が終わったら再びスタート、で「仕事終わりました!」でストップ。このときにストップウオッチに表示されている時間が「実労働時間」となります。 しかし、裁量労働制においては、「実労働時間」を働いた時間とはしません。実際に働いた時間ではなく、「みなし労働時間」をもって、働いた時間とします。 「みなし労働時間」は、労使協定又は労使委員会の決議として「1日」の時間を決定することとなっています。労使で良く話し合って適切な労働時間を定める必要があります。 例えば、みなし労働時間を「9時間」と定めた場合には、「実労働時間」が15時間であっても、また5時間であっても、その日の労働時間は「9時間」となります。この場合、8時間を超える1時間分については、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。 労働者の裁量にゆだねているからって… 労働者の裁量にゆだねているので、「実労働時間」が長くなっても労働者が悪い!ってわけにはいきません。 例えば、把握した対象労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、代償休暇や特別休暇を与えるたり、健康診断を実施するなど「対象労働者の健康・福祉確保措置」をとることが求められています。インターバル休暇なども有効な措置でしょう。 また、「対象労働者の苦情処理窓口」を設置することも求められています。担当者、取り扱う苦情の範囲、申出の方法等を明確にし、対象労働者が苦情を申し出しやすい仕組みとする必要があります。なお、苦情の申出があった労働者に不利益な取り扱いを行うことは禁じられています。 休日労働・深夜労働の取扱 裁量労働対象者が休日に労働した場合には、みなし労働時間の適用は「所定労働日のみ」となっていることから、みなし労働時間は適用できず、「実労働時間」に対して休日出勤としての割増賃金を支払う必要があります。なお、所定休日(詳しくは『知ってますか? 所定休日と法定休日の違い』から)については、所定休日に労働した場合の「みなし労働時間」を定めればその時間をもって労働時間とすることはできます。 また、裁量労働制といえども深夜労働(22:00から翌5:00)に関する規定は適用除外とはなりません。したがって、深夜労働の時間を把握し、その時間に対する割増賃金を支払わなければなりません。 さいごに 先般、裁量労働の対象とならない労働者を『裁量労働」として扱って労基法違反を問われた企業が新聞等により報道されていました。 このような行為が論外なのは、言うまでもありません。裁量労働は、「残業ゼロ制度」なんて言われている中で、裁量労働が労働者にとっても魅力的な働き方であることを示すべきなのにがっかりです。 いずれの裁量労働の制度も会社で働くすべての労働者を対象とすることは出来ません。となると、時間管理されている労働者と裁量労働の対象者とは、それぞれに異なる労働時間管理を行う必要があります。労働時間が複雑になってしまいます。 しかしながら、それらの課題を解決し、裁量労働を適切に運用できるようにすることが、「働き方改革」の一歩に繋がるのではと考えています。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
変形労働時間制の活用 変形労働時間制とは 法定労働時間は「1週40時間」、「1日8時間」と規定されており、あくまでも「週」、「日」を単位として定められています。そのため、所定労働時間(就業規則や雇用契約書に記載されている始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を引いた時間のこと(詳しくは『知ってますか?所定労働時間と法定労働時間の違い』)が『1週40時間』『1日8時間』を超えることは原則として認められていません。 この「法定労働時間の原則」を柔軟な労働時間制度とするのが「変形労働時間制」です。変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて所定労働時間を振り分ける制度です。特定の週や日の所定労働時間を短くする代わりに、業務が忙しい週や日の所定労働時間を長めにすることが可能となるのです。所定労働時間を業務の繁閑に応じて効率的に配分することを可能とする制度です。 変形労働時間制の種類 変形労働時間を採用した場合には、あらかじめ各日の所定労働時間を勤務シフト表などで決定します。この場合、特定の週や日に法定労働時間を超える時間を設定することも可能となるのですが、対象期間を平均して『1週当たり40時間以内』としなければいけません。 変形労働時間制は、対象期間が異なる3つの制度があります。 ①1か月単位の変形労働時間制(労基法第32条の2) 「1か月単位の変形労働時間制」は、例えば、月初は繁忙期であるが、月末は比較的業務が落ち着いている等、1か月の中で業務の繁閑が吸収できる企業や飲食店等、早番、遅番、通し勤務など勤務パターンを複数組み合わせて業務を行っている企業に向いている制度といえます。 ②1年単位の変形労働時間制(労基法第32条の4) 季節的な業務の繁閑がある等、一年を通して業務の繁閑を吸収できる企業やあらかじめ生産計画を立てられる工場などに向いている制度といえます。また、完全週休2日制を採用することは難しいが、夏季・年末年始などにまとめて休みが取りやすい企業においても1年単位の変形労働時間制は向いています。 ③1週間単位の変形労働時間制(労基法第32条の5) 常時使用する労働者が30人未満である小売業、旅館、料理店及び飲食店の事業においては、「1週間単位の非定型的変形労働時間制」を導入することで、1日10時間までの労働が可能となります。例えば、週末は忙しいけどウィークデイは落ち着いている等日ごとに業務の繁閑の差がある小規模店舗などが導入に向いている制度です。原則として、その週が始まるまでに1週間の各日の労働時間を書面で労働者に通知しなければなりません。 1か月単位の変形労働時間制の例 図表1の場合、24日から31日までの所定労働時間が1日8.5時間となっており、法定労働時間を超えています。このとき、原則の労働時間制度のままですと、4週目1.5時間(0.5H×3日)、5週目1.5時間(0.5H×3日)の割増賃金が発生します。しかしながら、1か月単位の変形労働時間制を採用した場合には、この月の労働時間の合計177時間となります。これは法定の範囲内(31日÷7日×40H)であるため割増賃金は不要となるのです。 なお、あらかじめ図表1のような勤務カレンダーを作っておく必要があります。あらかじめとは、原則として変形労働時間の対象期間が始まる前までをいいます。したがって、1か月単位の変形労働時間制の場合は、前の月の末日までに勤務カレンダーを作らなければなりません。変形労働時間制は、業務の都合により任意に労働時間を変更する制度ではありません。 図表1 変形労働時間制の労働時間 対象期間である1年単位とは、「1か月超1年以内の期間」のことで、1か月単位とは「1週間超1か月以内の期間」をいいます。つまり、対象期間を「3か月」とする変形労働時間制は、1年単位の変形労働時間制の範囲となり、「4週間」を対象期間とする変形労働時間制は、1か月単位の変形労働時間制となります。 対象期間の労働時間を平均して1週間辺り40時間となるように所定労働時間を設定することが求められます(特例対象事業場(10人未満の商業、映画・演劇、保健衛生業、接客娯楽業)の場合は例外有)。 この変形労働時間制における所定労働時間の上限は、以下の式で算出します。 変形期間の暦日数÷7日×40時間 例えば、対象期間を1年とすると、2085時間42分(閏年2091時間24分)となります(図表2)。つまり、図表1の範囲であれば、週の所定労働時間は40時間以内となるということです。 変形期間の暦日数 所定労働時間の上限 14日 80時間 28日 160時間 29日 165時間42分 30日 171時間24分 31日 177時間6分 92日 525時間42分 181日 1034時間12分 365日 2085時間42分 366日 2091時間24分 1か月単位・1年単位の変形労働時間制の場合の時間外労働の対象となる時間 (1)1か月単位の変形労働時間制を採用した場合 1か月単位の変形労働時間制を採用した場合に時間外労働として割増賃金の対象となる時間は次の通りです。(昭63.1.1基発1号、平6.3.31基発181号) ①1日については、就業規則その他これに準ずるものにより8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間 ②1週間については、就業規則その他これに準ずるものにより40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く) ③変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①又は②で時間外労働となる時間を除く) (2)1年単位の変形労働時間制を採用した場合 1年単位の変形労働時間制を採用した場合に時間外労働として割増賃金の対象となる時間は次の通りです。(平6.1.4基発1号、平9.3.25基発195号) ①1日について、労使協定により8時間を超える労働時間を定めた日はその時間を超えて、それ以外の日は8時間を超えて労働させた時間 ②1週間については、労使協定により40時間を超える時間を定めた週はその時間を超えて、それ以外の週は40時間を超えて労働させた時間(①で時間外労働となる時間を除く) ③変形期間の全期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働させた時間(①又は②で時間外労働となる時間を除く) なお、③については、変形期間終了まで確定しないこととなりますが、この場合の割増賃金については、「一般的に変形期間終了時点で初めて確定するものであり、その部分については、変形期間終了直後の賃金支払期日に支払えば足りる。」とされています。(平6.5.31基発330号、平9.3.25基発195号) プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員6名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
フレックスタイム制の活用 労働者A 今月末のプレミアムフライデー、早帰りして温泉にでも行かない? 労働者B 早帰りって、早退するってこと? それってまずいんじゃない!? 労働者A お前、知らないの?うちの会社フレックスタイムだから、好きな時間に帰っていいんだよ。 労働者B へー、それならフレックスタイム使って温泉に行こう! フレックスタイム制とは この会話を実現させる労働時間制度が『フレックスタイム制』です。 フレックスタイム制とは、「始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねる」(労基法32条の3)と定められています。簡単にいえば『労働者の好きな時間に出社して、好きな時間に退社できる制度』ということになります。 つまり、1日の労働時間は、『労働者自身が決める』ということです。例えば、今日は6時間、明日は9時間といった感じで日々の労働時間を労働者の意思で変えることが可能となるのです。労働者の意思により、柔軟に日々の労働時間を決めることが出来るのが「フレックスタイム制」となります。 もちろん、他の労働時間制度であっても、日々の労働時間を変えることは可能です。しかしながら、それは労働者の意思ではなく、会社の指示(一般的にはシフト)によって、あらかじめ定められた労働時間に従うということになります。労働者の意思によってその日の労働時間を変更する場合には、遅刻や早退ということになってしまうのです。 フレックスタイム制を採用するには フレックスタイム制を採用するには、『始業・終業時刻の決定を労働者にゆだねる』旨を就業規則で定める必要があります。その上で、使用者は、『事業場に過半数労働者を組織する労働組合があればその組合、そうした組合がない場合は過半数代表者と労使協定を締結』しなければなりません。締結する労使協定の内容は以下の通りです。 1. 対象労働者の範囲 2. 1か月以内の清算期間 3. 清算期間の総労働時間 4. 1日の標準労働時間 5. コアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合はその時間帯 清算期間は、1か月以内となっていますが、『1か月』としているケースが多いと思われます。 なお、「清算期間内の総労働時間」とは、その期間を平均して法定労働時間である週40時間を超えてはなりません。その総労働時間の上限は以下の表の通りです。 日々の労働時間を自由に決められるとはいえ、労働者は、この総労働時間を満たすように日々の労働時間を配分するのが原則となります。 1か月の暦日数 時間数 28日 160時間 29日 165時間42分 30日 171時間25分 31日 177時間8分 また、「1日の標準労働時間」とは、フレックスタイム制のもとで労働する労働者が年休を取得した場合に、年休として支払う賃金の算定基礎となる労働時間のことです。 コアタイムとフレキシブルタイム 労働者の意思で日々の労働時間を自由に決められるとなると、会社がいて欲しい時間に社内に誰もいないということになってしまうことも考えられます。 また、夜の方が集中できるといって深夜の時間帯にばかり業務を行う労働者がいても困ってしまいます。そういったことを避けるために、任意にコアタイム、フレキシブルタイムといった制限を加えることができます。 コアタイムとは、「労働者が労働しなければならない時間帯のこと」であり、フレキシブルタイムとは、「労働者がその選択により労働することができる時間帯のこと」をいいます。 コアタイムを『11:00から14:00』フレキシブルタイムを『7:00から20:00』と定めた場合の例です。 この場合、出社時間は『7:00から11:00までの間』としなければなりません。 『11:00から14:00までの間』は必ず出社していなければならない時間帯となり、退社時間は『14:00から20:00までの間』としなければならないということになります。 フレックスタイム制における残業時間 フレックスタイム制においては、労働者が『日々の労働時間を決定すること』もあって日々の労働時間においては『残業時間』といった概念ありません。 つまり、1日8時間超えて働いても『残業時間』とはならないのです。 では、フレックスタイム制においては『残業時間』は生じないのでしょうか。フレックスタイム制のもとでは、1日・1週の労働時間では判断せずに、清算期間における労働時間の合計によって時間外労働の有無を判断します。 その判断の仕方は以下のように考えるとわかりやすいでしょう。 労働時間を入れる大きな箱を用意します。この箱の大きさは、『清算期間における総労働時間』となります。毎日、働いたらその箱に労働時間を入れていくのです。この箱に入りきらない時間が『残業時間』となります。 つまり、日々の労働時間を足していって、清算期間(1か月)が終わった段階で『箱に入りきらない時間』に対して残業代を支払うことになります。逆に、箱一杯になっていない場合には、その分の賃金を控除することができます。 フレックスタイム制を活用するには 「フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねたことにならず、フレックスタイム制の趣旨には合致しないものであること」(昭和63.1.1基発1号、平11.3.31基発168号)といった行政解釈があります。 フレックスタイム制の良さは、労働時間のフレキシビリティといえます。労働者自身が働く時間を決められる範囲を広く持てて、その裁量性が大きい方が望ましいと考えます。 会社は、常に労働者が会社にいるわけではないことを勘案しておかなければなりません。ミーティングを設定する場合は早めに行うなど、労働者が効率的に業務を行えるように支援する必要があります。例えば、『毎朝朝礼を行う』といったルールを改める必要があるということです。 『自分が働きやすい時間帯で業務を行うこと』≠『効率的な働き方』となってしまうことも考えられます。自分が働きやすい時間であるがゆえに、却って『長時間労働』となってしまうようなケースが挙げられます。 長時間労働とならないように、労働者自身が『フレックスタイム制を利用して効率的な時間配分を行うこと』を意識しなければなりません。また、上長は、業務の進捗状況や長時間労働となっていないかについて、気を配ることが必要となります。 あまり、長時間労働が続く場合は、フレックスタイム制の対象から外すことも考えなければなりません。 フレックスタイム制を活用するには、『労働時間を効率的に配分することで、労働時間を短縮すること』が最大の目的であることの理解が重要なポイントとなります。 我々は、子どもの頃から「時間を厳格に守ること」を叩き込まれています。また、朝はみんなそろってスタートし、終わりもみんなでそろって帰るといった職場の慣行にも慣れ親しんでいるような気がします。こういった慣行が『非効率』を生み出していることも否めません。『付き合い残業』なんてまさにその最たるものといえるでしょう。 そういった観点で見ると、フレックスタイムは、日本の職場慣行の概念を覆すものといえるかもしれません。しかしながら、『効率的に働く』ことは労働者の意識に関わることが大きく作用されると考えます。フレックスタイム制により、労働者自身が効率的な時間配分を意識できれば、『理想的な働き方』の一つとなるのではないかと考えます。それには、労働者自身が労働時間を『効率的に働く』という意識を持って配分できることが重要なポイントとなります。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
テレワークにおける労務管理上の留意点 労働者A 俺の乗っている○○線、朝の満員電車かなりきついよ!なんとかならないかなぁ~ 労働者B 通勤時間って、かなりのストレスだよな。 労働者C まさに、”痛勤“だよなぁ~ このように通勤にストレスを感じている労働者の方は多いのではないでしょうか。私自身も『通勤』を『痛勤』と感じている者の一人です。通勤をしないで良い!この夢のような制度が「テレワーク」と言えます。 「働き方改革」のテーマの一つである「柔軟な働き方がしやすい職場環境」を実現するために、今多くの企業で「テレワーク」の導入を検討しているところです。 『テレワーク』とは、労働者が「働く場所」と「働く時間」を自由に選択することを可能とする働き方であり、労働者の「仕事」と「生活」の両立が実現できる魅力的な制度の一つとして、今後益々注目されていくでしょう。 「働く場所」と「働く時間」の裁量 テレワークの導入に当たって、まず考えなければならないのは「働く場所」と「働く時間」の自由度(裁量)です。労働者にどこまで裁量を与えるか?ということを考える必要があります。 労働基準法においては、「働く場所」に関する制限はありません。職場内で仕事をしようが、自宅で仕事をしようが、カフェで仕事をしようが、労基法においては何の問題もないということです。 つまり、働く場所を職場内に限定するか?職場外での業務を認めるにしても自宅のみとするのか?労働者の好きな場所での業務を可能とするのか?については、企業が自由に決めればよいということになります。 しかしながら、「働く時間」についてはそうはいきません。当然ですが、労基法に沿った制度としなければなりません。テレワーク対象者であっても労働契約が成立している以上は、労働基準法等、労働関係法令が適用されます。したがって、企業は、テレワーク対象者の「始業、終業の時刻、休憩時間」を定めなければなりません。 テレワークと『事業場外のみなし労働時間制』 職場外での勤務となると、真っ先に思い浮かぶのが『事業場外のみなし労働時間制』となるでしょう。これについては、厚生労働省からガイドラインが示されています(「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」平成20年7月28日 基発第0728001号)。 このガイドラインによると以下のいずれの要件も満たす「在宅勤務」(労働者が自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態)については、「事業場外のみなし労働時間」の対象となるとしています。 (1)当該業務が起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。 (2)当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。 (3)当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。 つまり、労働者が『好きな場所』を選んで仕事をする場合には、「事業場外のみなし労働時間制」は適用できないのです。この場合は、使用者は「始業・終業の時刻」を把握しなければなりません。 なお、「事業場外のみなし労働時間制」を適用できる場合であっても、労働したものとみなされる時間が、深夜もしくは休日の労働となった場合には法定の割増賃金を支払わなければならないことや健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があるとされています(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(以下、「労働時間ガイドライン」という。平成29年1月20日策定))。 労働時間の適正な把握 テレワーク対象者の「労働時間」を把握する方法としては、メールや電話等により業務開始・終了の時刻を報告させる方法や業務日報により業務時間を把握する方法が挙げられます。 また、最近の勤怠管理システムは、労働者のスマートフォンなどを利用して外出先からも利用できるものもあり、スマホのGPS機能を利用すれば打刻した場所も分かるシステムも普及しています。こういったシステムの活用の検討も必要となるでしょう。 いずれにしろ、労働者の申告に基づく管理、いわゆる「自己申告制」による労働時間の把握に頼らざるを得ません。 「労働時間ガイドライン」によると、自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置として以下の措置を講ずることが求められています。 (1)自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。 (2)自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。 (3)使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。 また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。 テレワーク対象者の労働時間については、効率的な働き方を求めるあまり、テレワーク対象者が、正しい労働時間の申告をしづらくなってしまうことも考えられます。管理者は、少なくともメールの送信が深夜や休日に行われていないかどうか定期的に検証するなどの確認を行う必要があります。 労働者であれば、「安全配慮義務」が使用者に当然課せられているのです。その点を踏まえて、テレワークにおける「労務管理上の留意点」について考えてみます。 テレワーク導入の課題 「テレワークの導入=労働時間短縮」であるかのような議論が少なからずあります。テレワークを導入するだけで、労働時間が短縮するわけではありません。逆に却って増加してしまうことも考えられます。 テレワークは、集中して業務が行える半面、労働時間が長くなってしまう恐れがあります。また、まとまった勤務時間を確保しようとすると、働く時間が深夜や休日に亘ってしまうことが懸念されます。せっかくの制度が労働者の健康を害することになってしまっては、本末転倒と言わざるを得ません。企業はテレワーク対象者に対する「働き方」を健康管理の観点からも配慮しなければなりません。 私自身も月に数日テレワークを行うことがあります。特に自宅で行う場合は、家族が寝静まった深夜がやはり集中して業務を行えることから、深夜の時間を利用することが多いのが現状です。また、業務以外のことに気が向いてしまい、効率的に業務を行えず1日中机の前にいることになってしまっていることもあります。 労働者本人の自律も求められます。労働者自身が、勤務する時間帯や自らの健康に十分注意しつつ、業務効率を勘案して業務を遂行しなければなりません。企業がいくら仕組みを整えたとしても、最終的には、労働者自身の「働き方」に委ねることになるからです。 効率的に業務が進められて生産性が上げられることがこのテレワーク導入の目的であることを労使双方と理解した上で、短い時間で効率的に業務が行うための仕組みづくりと同時に意識改革が求められるところです。 テレワークを導入するということは、当然、社外での業務を認めるということです。 今までのように、部下が管理者の目の届くところで業務をしているのではなく、部下が管理者の「目の届かないところ」で業務に従事することになります。そのため、個別に労務管理を行う必要が出てくるのです。業務の進捗状況の把握、評価等々…。そういったルールも整備しなければならないでしょう。 最後に、セキュリティの問題も懸念されます。例えば、カフェで資料を広げて業務を行うとなると、隣の人に見えてしまうといったことが懸念されます。また、出先で資料を忘れてきてしまった…なんてことも起こるかも知れません。 テレワーク+フレックスタイムで「働く場所」と「働く時間」を自由に! テレワークに「勤務時間」を自由に選択することができる『フレックスタイム制』を適用することで、労働者は「働く場所」と「勤務時間」を自由に選択することが可能となります。このことによって、より効率的な働き方が実現することになるでしょう! フレックスタイム制とは、労働者が働く時間を選択できる制度です。この場合、残業時間のカウントは、1日8時間・1週40時間の労働時間規制に代えて、清算期間(1か月)における労働時間の合計によって時間外労働の有無が判断されます。 例えば、清算期間における所定労働時間を160時間(1日の標準労働時間8時間・1か月の所定労働日数20日)とする場合、日々の労働時間が8時間を超えても残業時間とはならず、1か月の労働時間の合計が160時間を超えた場合に時間外労働の支払いが発生します。つまり、1日10時間の日があっても、1日3時間の日があっても1か月で160時間勤務すればよいということになります。 労働者の都合に合わせて働く時間を自由に設定することが可能となり、最もテレワークのメリットを生かせる制度といえます。 フレックスタイム制についてはの詳細は次回に… プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
年次有給休暇の活用 働き方改革ということで労働者の働き方、休み方が見直しを検討している企業も多くあるのではないでしょうか。企業によっては、新たな休暇制度の導入を検討しているところもあるでしょう。 その前に注目して頂きたいのは『年次有給休暇の活用』です。 昨年1年間に企業が付与した年次有給休暇の日数(繰越分を除く)は、労働者1人平均で「18.1日」、そのうち労働者が実際に取得した日数は「8.8日」となっています。取得率でいうと、「48.7%」となっています。(厚生労働省「平成28年就労条件総合調査の概況」) つまり、半分以上も活用できていない休暇があるにもかかわらず、新たな休暇制度を導入するのはもったいない気がしませんか。ここはまず、年休の効率的な運用を検討するべきではないでしょうか! 政府は、2020年までに年休の取得率を70%に引き上げることを目標に掲げています。また、それに伴い一定の日数の年休消化を義務付ける法改正も検討されています。そういった意味でも「年休の取得率向上」はこれからの労鵜管理にとって重要なことになるでしょう!! まずは、年休のこと、知っておきましょう。 年次有給休暇とは (1)労働基準法第39条に定められている有給の休暇のことで勤続年数に応じて所定の日数が付与されます。 勤続年数 0.5年 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年 付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日 (2)パートタイマー等の短い時間や働く日数が少ない労働者に対しても勤続年数および所定労働日数に応じて付与することとなっています。 週所定 労働日数 勤続年数 0.5年 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年 4日 付 与 日 数 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日 3日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日 2日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日 1日 1日 2日 2日 3日 3日 3日 3日 なお、年休の発生要件は以下の通りとなっています。 ①6か月以上の継続勤務 ②全労働日の8割以上の出勤 年休の時季変更権 年休は、労働者の好きなタイミングで休むことができるものです。たとえば、「来週の週末、温泉にでも行こう!」ということで、年休の請求があった場合には、会社は、「ダメだ!」と言って年休の取得をさせないことはできません。ただし、どうしてもその労働者が休んでしまうと会社の業務が立ち行かなくなってしまうような場合のみ断ることができます。しかし、この場合においても「来週の週末はダメだけど、週明けの月曜日に変えてくれ!」といったように休みの時季を変更してもらうこととなっています。これを、「年休の時季変更権」といいます。 年休の計画的付与 A社の年休取得率向上会議の一場面 社長 社内で年休を取得する人と取得しない人が偏っているな~ 人事担当者A 創立記念日や本人の誕生日などに記念日を年休扱いにして休むようにしてはいかがですか? 人事担当者B それならGWの谷間や飛び石連休のときも年休で休めるようにしても良さそうですね。 社長 それを可能とする方法はないのか! このときに使えるのが年次有給休暇の計画的付与です。 労働者が年休を好きなタイミングで取得する権利と会社側の時季変更権の双方の権利を行使せずに、年休を特定の時期に計画的に取得させる方法のことです。 ポイントは2つ (1)就業規則による規定と労働者代表との労使協定が必要! 年休の計画的付与制度を導入する場合には、まず、就業規則に「5日を超えて付与した年次有給休暇については、労働者の過半数を代表する者との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする。」といった規定が必要となります。 その上で、実際に計画的付与を行う場合に、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で、書面による協定を締結する必要があります。 なお、この労使協定は所轄の労働基準監督署に届出る義務はありません。 労使協定で定める項目は次のとおりです。 a. 計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者) b. 対象となる年次有給休暇の日数 c. 計画的付与の具体的な方法 d. 対象となる年休を持たない者の扱い e. 計画的付与日の変更 (2)年次有給休暇の付与日数すべてについて認められているわけではない! 年休の計画的付与は、付与日数すべてについて認められているわけではありません。そもそも、年休は労働者が好きなタイミングで取得できるのが原則です。そのため、労働者が病気やその他の個人的事由による取得ができるよう指定した時季に与えられる日数を留保しておく必要があります。その留保しておく日数は、「5日」と決められています。最低「5日間」個人が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければならないのです。つまり、労使協定による計画的付与の対象となるのは年次有給休暇の日数のうち、5日を超えた部分となります。 たとえば、年次有給休暇の付与日数が10日の労働者に対しては5日、20日の労働者に対しては15日までを計画的付与の対象とすることができます。 なお、前年度取得されずに次年度に繰り越された日数がある場合には、繰り越された年次有給休暇を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。 年休の計画的付与は、(1)会社もしくは支店や工場など事業場全体の休業による一斉付与方法、(2)班・グループ別の交替制付与方法、(3)年次有給休暇付与計画表による個人別付与方法などさまざまな方法で活用することができます。 A社の人事担当者の提案以外にも、「閑散期に年休を取得させる」「年末年始休暇や夏季休暇にプラスすることでの長期休暇」なども可能となります。年休の取得が個人ごとに偏っている企業や年休の取得率向上を検討している企業においては、是非ご検討下さい。 年休の時間単位付与 B社の昼休みの会話 労働者C うちの会社、年休の半休制度はあるけど…この前、朝病院に寄るのに1時間しかかからなかったのに半休使うのもったいなくて考えちゃった。 労働者D そうそう。半休って午前と午後に区分されているけど、ちょっと1,2時間のときに使うの考えちゃうよね。 労働E 子どものお迎えのときに1時間くらい早く帰れるといいのに。 労働者F 会社の近くには医者に行けるように中抜けができると便利なんだけどな。 計画付与と同様、労働者代表等との労使協定を締結することによって年に5日を限度として、時間単位で年休を与えることができます。この場合の5日とは、前年度以前の繰越があっても、繰越分も含めて5日以内となります。 労使協定には、以下の事項を定めます。 ①時間単位年休の対象労働者の範囲 ②時間単位年休の日数 ③時間単位年休1日の時間数 ④1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数 時間単位年休1日の時間数は、所定労働時間数を基に定めます。時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げてから計算します。たとえば、1日の所定労働時間が7時間45分の場合は、「8時間」となります。 また、1時間以外の時間を単位とすることはできますが、時間単位ですので「1時間30分」等時間未満を単位することはできません。 B社の労働者の会話の中にも出ていたように、半日までは時間はかからないけど、年休を1,2時間利用したいといった要望は、多くの労働者から聞かれるところです。朝1時間ほどで家の用事を済ますことや早帰りが可能となることは労働者にとって効率的な時間の使い方となるでしょう。また、時間単位年休を活用すると、「中抜け」も可能となります。例えば、久々に会った友人とゆっくりランチをすることや会社の近くの美容院にお昼にといった利用方法も考えられます。 このような時間単位年休の管理を容易にするのが、「勤怠管理システム」と言えます。年休の残日数の管理は通常であれば、年休管理簿をつけることで管理は可能です。しかしながら、時間単位で取得するとなると年休の残日数を「9日と7時間」「時間単位年休可能な残日数は4日と7時間」などの管理が必要となり、複雑です。昨今は、適正な労働時間管理が求められています。時間単位年休の管理も可能な勤怠システムの導入をぜひご検討下さい。 まずは、上司から 年休の取得率の向上といった話をすると、そんなに労働者を休ませたら会社が回らないといった声も多く聞かれます。もちろん、何が何でも年休を取得させなさいというつもりはありません。しかしながら、年休を取得することで労働者が心身ともにリフレッシュすることは事実なのです。私も感じたことがありますが、平日に温泉につかってビールを一杯といったことが、自分の新たな仕事のエネルギーとなることを実感できます。 「俺は、今まで年休を取ったことがない!」といった上司の方は多くいらっしゃいます。ぜひ、上司の方が率先して年休取得が自分の新たなエネルギーとなることを実感して頂ければと思います。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
労働基準監督署の調査の概要 社員A この前、部長に有給休暇の申請をしたら、入社したばかりで有給なんて良く言えるなっていわれちゃったよ 社員B 俺だって、残業の事前申請をしたら自分の出来が悪くて残業する癖にちゃんと申請するのか、だってさ… 社員C うちの部署なんて、不夜城って呼ばれてるよ。22:00過ぎてもほとんど帰る人いないから… 全員 俺らの会社ってまさにブラック企業だよな!! これは、たまたま入ったカフェで隣の席から聞こえた実際の会話です。『我が社のブラック企業度自慢』といったところでしょうか!? 彼らの勤めていた会社名までは聞こえませんでしたが、自分の勤めている会社が『ブラック企業』だなんて寂しい話ではありませんか。 労基署調査は「企業を守る」ため! 「労働基準監督官がやって来た!」どの企業にとっても喜ばしい出来事とはいえないでしょう。おそらく好きか嫌いかと問われれば、ほとんどの経営者は、後者を選択するに違いありません。 この労基署の調査は、「労働者の権利」を守るために行われているものでしょうか? 私は、「企業を守る」ために行われていると考えています。 最近は多くの企業で人手不足が言われています。いわゆる「売り手市場」となっており、企業は労働者から選ばれる立場にあります。労働者から選ばれない企業は、経営活動に支障を来たすこととなるのです。実際、人手不足を理由とする新規事業進出の断念、事業縮小をせざるを得ない企業も出て来ています。『人手不足倒産』といった言葉も現実味を帯びて来ているのです。 冒頭のカフェの会話に出てくるような企業にあなたは勤めたいと考えますか? では、企業が労働者から選ばれる為にはどうしたらよいのでしょうか? 真っ先に考えるべきなのは、「わが社は労働者が安心して働ける職場環境にあるのか?」ということです。それには、『労基法の遵守』が必須と言えます。 つまり、貴社の労基法の遵守度を確認する労基署の調査は、企業を守るために重要な場となるのです。 労基法を遵守して「選ばれる企業」に! 例えば、スポーツをするに当たっては、最低限のルールを知らないとプレー出来ません。野球で言えば打ったら一塁に走るし、サッカーでは基本的に手を使えません。これと同様に、人を雇うのであれば知っておかなければならないルールがあります。それが『労基法』といえます。 労務管理にとって重要な労基法を学ぶ場は、大学の法学部など限られた場所しかありません。つまり、重要な法律を学ぶ機会のなかった経営者は多くいらっしゃいます。しかしながら、これからの企業には、労基法を守って会社と労働者を守ることが求められます。 企業における「働き方」が見直される中、労基署調査があることで多くの経営者が労基法を学ぶきっかけとなっています。このことが、今、労基署の調査が注目されている理由と言えます。 労働基準監督署による調査ってどんなもの? 労働基準監督署による調査とは、労働基準監督官が事業場に対して労基法等の違反の有無を調査する立入検査のことです。一定の計画に基づき、業種や規模を任意に選び行われる場合(定期監督)や労働者からの申告に基づいて行われる調査(申告監督)などがあります。 (1) 労働基準監督官の権限 監督官の権限は、労基法で①事業場等の建設物への臨検、②帳簿、書類の提出を求めること、③使用者、労働者に対して尋問できることが保障されています。また、労基法違反について司法警察官の職務を行うことができます。つまり、逮捕することもできるということです。さすがに、調査で労基法違反が見つかり、その場で逮捕といったことは見たことはありませんが、その権限は持っているということです。 (2) 調査の対象は事業所ごと 調査の対象は、事業所ごととなっています。事業所ごととは、その会社で本社のみが対象になるということではなく、営業所や支店、工場や店舖等の全ての事業所が対象となっています。例えば、飲食店であれば店舖も対象となるということです。 (3) どんなことを調べるのか 労働基準監督官が調査に来た場合、以下の書類の提示が求められます。なお、書類の内容を確認するだけでなく、労働者へ直接ヒアリングや業務で使用しているPCなどを確認することもあります。 実際の調査の際に確認する書類はおおよそ以下の通りとなっています。 ① 会社の事業概要がわかるもの ② 組織図 ③ 労働条件通知書あるいは雇用契約書 ④ 労働者名簿 ⑤ 賃金台帳(直近3~6か月分) ⑥ タイムカード,出勤簿,時間外・深夜労働時間を集計したもの(直近3~6月分) ⑦ 就業規則等諸規程 ⑧ 時間外・休日労働に関する協定届(提出控) ⑨ 事業場外労働・裁量労働に関する協定届、1年単位の変形労働時間制に関する協定届、フレックスタイム制に関する労使協定、その他各種労使協定(提出控) ⑩ 年次有給休暇管理簿 ⑪ 総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医・安全衛生推進者の選任報告(提出控)及び巡視記録 ⑫ 安全・衛生委員会規程、委員名簿、議事録 ⑬ 健康診断個人票、健康診断結果報告(提出控) ⑭ 長時間労働者に対する面接指導の実施状況が分かるもの 全体の7割近くの事業場に労基法違反を指摘! 『ブラック企業』を解消するため、厚生労働省では、毎年11月に「過重労働解消キャンペーン」として著しい過重労働や悪質な賃金不払残業などの撲滅に向けた取り組みの一環として集中的に監督指導が行われます。東京労働局によると今年も「長時間の過重な労働による過労死等に関して労災請求が行われた事業場や若者の「使い捨て」が疑われる企業などへ重点調査を行うとのことです。 昨年11月におこなわれた「過重労働防止キャンペーン」期間中には、全国で7,014事業場に対して調査が行われ、このうち4,711事業場(全体の67.2%)で労働基準関係法違反が指摘されています。 【主な違反内容】 (1) 違法な時間外・休日労働があったもの:2,773 事業場(39.5%) うち、時間外・休日労働(法定労働時間+法定休日労働)の実績が最も長い労働者の時間数が 1か月当たり80時間を超えるもの:1,756事業場(63.3%) うち、月100時間を超えるもの:1,196事業場(43.1%) うち、月150時間を超えるもの:257事業場(9.3%) うち、月200時間を超えるもの:52事業場(1.9%) (2) 賃金不払残業があったもの:459 事業場(6.5%) (3) 過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの:728 事業場(10.4%) 【主な健康障害防止に係る指導の状況】 (1) 過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したもの:5,269事業場(75.1%) うち、時間外労働を月80時間以内に削減するよう指導したもの:3,299事業場(62.6%) (2) 労働時間の把握方法が不適正なため 指導したもの:889事業場(12.7%) 労働基準監督署調査は突然、やってくる!? 労働基準監督署調査は、必要な書類を持参の上、会社の担当者が監督署に訪問する形で行われるケースもありますが、通常は、会社に監督官が訪問する形で行われます。 事前に電話連絡や文書により調査することを予告したうえで訪問するケース、何の前触れもなく、監督官が突然訪問するケースもあります。もちろん、突然来られて対応できないといったこともあるかもしれません。以前、ある監督官に、「突然来られるとなかなか対応が大変なので事前に予告してもらえると助かるのですが。」といった話をしたことがあります。その時の監督官は、「突然の訪問でないと確認できないこともあるので。」と言っていました。突然調査をすることで、その事業場の裏表のない実態が把握できるのだそうです。 事前に予告がある場合には、文書で調査の日時、準備する書類を指示されます。事前に予告がある場合には、会社側からすると、例えば、届出を忘れていた書類を事前に提出してしまうなどの対策を取ることができます。また、監督官側からすると、書類を準備しておいてもらうことで全体的な労務管理の状況をしっかりと見ることが可能となります。 調査の日程がどうしても合わない場合、たいていは、調整に応じてくれますが、調査は拒否できないものであると考えてください。 「是正勧告書」と「指導票」 労基署調査により、何らかの労基法違反等が確認された場合には、「是正勧告書」や「指導票」の交付を受けます。 (1) 是正勧告書 「是正勧告書」とは、サッカーでいうとレットカードです。明確な法律違反に対して「所定期日までに是正の上、遅滞なく報告するよう勧告します。」といった文書です。「違反事項及び該当法条項」「是正期日」が記載されており、交付の際、調査に立ち会った担当者の署名捺印を求められます。なお、是正勧告に従わない場合には送検手続きをとられることがあります。 (2) 指導票 「指導票」とは、イエローカードです。明確な法律違反ではないけれども、このままの状態が続くと法律違反となる可能性がある場合や行政通達に関する違反についてについて警告して改善を求めるものです。指導事項についても、期日を指定され改善状況を報告することが求められます。 (3) 是正勧告書・指導票への対応 是正勧告書、指導票いずれにおいても、是正・改善したことを報告します。だいたい1か月程度の日付を是正・改善期日として指定されます。万が一、所定期日までに是正・改善ができない場合は、その理由と経過報告等を行います。監督官が是正・改善したことを認めるまで報告は続けられます。以前、長時間労働の改善を指導されたケースでは、毎月勤怠データの報告が求められ、1年近く報告を続けたこともあります。なお、虚偽の報告は厳禁です。虚偽の是正報告をしたのち、再度調査が行われ、虚偽の報告が発覚して書類送検となったケースがあります。 調査に対する心構え (1) 過去は変えられない 調査は過去の一定期間が対象となっています。通常は、直近3か月から6か月程度の期間に対しての調査となります。過去の出来事ということは、「変えられない」ということになります。事前に違反行為があったことに気付いても、それを無かったことにすることは書類を改ざんすることになります。絶対にやってはならないことです。 (2) 誠意を持った対応を心がける 労働基準監督官が提出を求めた書類が速やかに提示される場合と、なかなか書類が出てこない場合では、前者の方があきらかに印象はよいのではないでしょうか。 36協定や就業規則については労働者に周知義務があります。つまり、監督官が突然来訪して「就業規則を見せてくれ」と言われた場合に「どこに保管されているか分からない」ということが労基法違反の指摘を受ける可能性があるということです。書類を隠すことなく、速やかに提示することを心がけてください。 また、監督官から違反行為を指摘された場合に、あまりにも根拠のない抵抗は慎んでください。指摘された事項については、誠意をもって改善する意思があるのだという姿勢が大切です。 (3) 調査は過去のこと、将来的な視点を持つ 「うちの会社は、ブラック企業なのか…」。自分の勤めている会社で労基法違反があったということに対する労働者のインパクトは想像以上に大きいものです。しかし、調査は、過去のこと。違反行為があったことは、変えられない事実なのです。 過去の清算による影響を考える経営者の方もいらっしゃいます。しかし、『過去のことより将来のこと。』労働者は、過ぎたことよりこれから良い方向に向かっていく会社に期待をしているはずです。「これから」に軸足を置いた労務管理を目指すべきです。 労務管理チェック表 自社の労務管理の実態を把握してみましょう。チェックが3つ以上は要注意です。 就業規則の前回の改定から5年以上経過している。 36協定の中身を把握していない。 先月残業時間が一番長かった労働者を把握していない。 時間外労働の時間数が月の途中で把握できる仕組みがない。 労働時間の把握は、労働者からの申告に基づいている。 賃金の中に「固定残業」が含まれているが、その対象となる残業時間数は不明確である。 過去6か月以内に、1か月の総労働時間(所定労働時間、残業や休日労働も含む)220時間を超えている労働者がいる。 管理監督者の労働時間を把握していない。 事業場における管理監督者の比率が30%以上である。 年次有給休暇の取得率が、50%未満である。 振休、代休が未消化の労働者がいる。 健康診断は行っているが、記録を保管しているだけである。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
割増賃金の話 数多くのトラブルの原因となっているのが「割増賃金」に関する件です。 良くあるご相談はこんな感じです。 社員A 残業や休日出勤をしたのに割増賃金が正しく計算されていないのではないか? 部長B 管理監督者となると割増賃金って一切支払われないの? アルバイトC アルバイトにだって割増賃金が支払われるのでしょ? 割増賃金の割増率 法定労働時間を超える時間外労働や休日労働、深夜の時間帯(22:00~5:00)に労働した場合には、通常の賃金にプラスして割増賃金の支払いが義務付けられています。この場合の割増率は以下の通りとなっています。 労働基準法第15条 労働の内容 割増率 時間外労働 (法定労働時間を超えて労働した場合) 25%以上 50%以下 ただし、大企業(注1)の場合、月60時間を超えて労働した場合は50%以上 休日労働 (法定休日に労働した場合) 35%以上 50%以下 深夜労働 (22:00~5:00に労働した場合) 25%以上 (注1)大企業に当てはまらない中小企業の範囲は、「資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円,卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主またはその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人,卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である企業については、当分の間適用除外となっています。 深夜労働の際に割増率が合算されることも 時間外労働が長引いて、22:00を超えて労働をした場合には、『時間外労働の割増賃金』と『深夜労働の割増賃金』を合算して支払うこととなります。つまり、50%以上の割増賃金の支払いが必要となるのです。 同様に、法定休日に労働している場合に22:00を超えて労働した場合には、『休日労働(法定休日)の割増賃金』と『深夜労働の割増賃金』を合算して支払うこととなり、割増率は60%以上となります。 なお、休日労働が長引いて8時間を超えた場合においても、『時間外労働の割増率』を合算して支払う必要はありません。つまり、法定休日に労働した場合には、22:00を回らない限り35%以上の割増賃金を支払う必要はないのです。 深夜労働の割増率 労働の内容 合計の割増率 時間外労働 + 深夜労働 50%以上 時間外労働(25%) + 深夜労働(25%) 法定休日労働 + 深夜労働 60%以上 法定休日労働(35%) + 深夜労働(25%) 翌日にまたがって勤務した場合の割増賃金の考え方 始業時刻の属する日から翌日の朝まで勤務するというように,翌日にまたがって継続勤務した場合の割増賃金については、前日の始業時刻から翌日の始業時刻までの労働を前日の勤務とし、それ以降の労働については当日の勤務ということになります。 また、休日については暦日(0時から12時)単位で考えることになっています。これらを踏まえて、X社を例に挙げて考えてみます。 X社の就業規則 第●条(所定労働時間) 当社の所定労働時間は、1日8時間、1週40時間とし、始業・終業の時刻及び休憩時間は次の通りとする。 始業9:00 終業18:00 休憩時間12:00から13:00 第■条(所定休日) 当社の所定休日は、次の通りとする。 (1)日曜日(法定休日) (2)土曜日 (3)国民の祝祭日 (4)年末年始(12月29日から1月3日) 第▲条(割増賃金の率) 割増賃金の割増率は、以下の通りとする。 (1)時間外労働 25% (2)深夜労働 25% (3)所定休日 25% (4)法定休日 35% 例1)月曜日から火曜日にかけて継続勤務した場合 (所定労働日から所定労働日にまたがって勤務した場合) 例2)金曜日から土曜日にかけて継続勤務した場合 (所定労働日から所定休日にまたがって勤務した場合) 例3)土曜日から日曜日にかけて継続勤務した場合 (所定休日から法定休日にまたがって勤務した場合) 例4)日曜日から月曜日にかけて継続勤務した場合 (法定休日から所定労働日にまたがって勤務した場合) 所定休日に出勤した場合に割増賃金が必要となることも 労基法上は、法定休日の労働にのみ、「休日出勤」としての割増賃金の支払いを義務付けています。しかし、「所定休日」の労働であっても割増賃金の支払いが必要となることがあります。 再び、先ほどのX社を例に挙げて説明します。ある週の勤務が、法定休日である日曜日は休み、月曜日から金曜日まで8時間勤務、所定休日の土曜日も8時間勤務をしたとします。この場合、出社したすべての日の勤務は8時間を超えていないので時間外労働の割増賃金は不要です。また、法定休日は確保されていますので休日出勤の割増賃金も不要となります。しかしながら、土曜日の所定休日に勤務したことによりこの週の労働時間は48時間となっています。 このようなケースにおいては、1週40時間を超える労働に対しては法定時間を超える労働となるため、8時間分の「時間外労働の割増賃金」を支払わなければなりません。 実際は、休日出勤に対しての支払うこととなるのですが、労基法上は時間外労働としての取り扱いとなるのです。したがって、割増率は25%以上で良いということになります。 休日を振替えた場合においても週40時間を超えた場合には同様の取扱いとなります。 割増賃金の計算方法 月給で支払われる場合の割増賃金の計算の基となる「時間単価」は、次の計算式により算出します。 時間単価 = 基本賃金 ÷ 1か月当たりの平均所定労働時間数 この時間単価にそれぞれの割増率を掛けて割増賃金は、算出します。 なお、「基本賃金」とは、所定労働時間労働した場合に支払われる全ての賃金のことをいい、基本賃金から除ける賃金は以下のもののみとなっています。 ①家族手当 ②通勤手当 ③別居手当 ④子女教育手当 ⑤住宅手当 ⑥臨時に支払われた賃金 ⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 また、「1か月当たりの平均所定労働時間」は次の通り算出します。 (1年間(365日or366日) - 年間所定休日日数) × 1日の所定労働時間 ÷ 12か月 この「1か月当たりの平均所定労働時間」は、その年の労働日数に応じて変わってきます。 またまた、X社を例に1か月当たりの平均所定労働時間数を考えてみましょう。 2017年は、(365日 - 120日(所定休日数)) × 8時間 ÷ 12か月 ≒ 163.33となります。 2018年は、(365日 - 121日(所定休日数)) × 8時間 ÷ 12か月 ≒ 162.67となります。 この場合の基本賃金30万円のD氏の割増賃金の単価(ともに円未満切り上げ)は以下のようになります。 2017年は、30万 ÷ 163.33 ≒ 1,837円 2018年は、30万 ÷ 162.67 ≒ 1,845円 2017年と2018年を比較すると、2018年の方が休日は「1日」多くなっており、1か月当たりの平均所定労働時間は、少なくなっています。そのため、2018年の方が単価は「8円」高くなっているのです。つまり、カレンダーの関係で休日数が増え、労働日数が減ると割増賃金の単価が上昇します。逆に労働日数が増えると単価は下がります。 毎年休日数が変動する会社においてはこの点に注意しなければなりません。労働日数が増えた場合(つまり、割増賃金の単価が下がっている場合)には、未払賃金は生じませんが、労働日数が減った場合(つまり、割増賃金の単価が上がった場合)に、見直しをしていないと未払い賃金が生じる恐れがあるからです。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
休日と休暇 労働者にとっても会社にとっても「会社が休み」という意味では違いは感じられないかもしれませんが、そもそも「休日」と「休暇」は似て非なるものなのです。 休日とは、労働者にとって働かなくて良い日のことをいいます。つまり、労働契約において労働義務がない日ということになります。 労基法第35条では、「使用者は、労働者に対して毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」と定めています。また、業務の都合等によって週1日の休日を与えられない場合には、「4週を通じて4日以上」の休日を与えればよいこととなっています。これらの休日のことを「法定休日」といいます。 ちなみに「4週を通じて4日以上」の休日を与えることを「変形休日制」といい、この場合には4週間の起算日を明らかにすることとされています。 一方、会社には、週1回の休日以外にも休日があります。例えば、土曜日と日曜日の週休2日制の企業の場合に、いずれか一方の休日が「毎週少なくとも1回の休日=法定休日」に該当します。また、もう一方の休日を「法定外休日(所定休日)」といいます。どちらが法定休日となるのかは就業規則等により定めるものとされています。会社によっては、祝祭日や夏季・年末年始等を休日とすることもありますが、これらは就業規則等に定めることとなっています。 なお、休日の単位は暦日とされています。暦日とは「午前零時から午後12時までの24時間」のことをいいます。例えば、「休日である日曜日に1時間だけ出社した後、休日を取った。」としても休日に出勤したこととなるため、休日を取得したことにはなりません。 一方、「休暇」とは労働義務が免除されている日のことをいいます。つまり、本来労働日であったものを労働者からの申出等により働かなくてもよいことする日のことです。 法令上与える義務のある休暇には、年次有給休暇(労基法39条)、産前産後休暇(労基法65条)、育児時間(労基法67条)、生理休暇(労基法68条)、育児・介護休業法に基づく育児・介護休業などがあります。 また、法令上与える義務はないが企業が任意に定める休暇には、慶弔休暇や傷病休暇などがあります。これらの休暇中の賃金は、年次有給休暇を除いて有給とするか無給とするかについては、会社が任意に定めることができます。 法定外休日(所定休日)に出勤した場合も割増賃金は必要! 労基法上は、法定休日に勤務したときにのみ、「休日出勤」としての35%以上の割増賃金の支払いを義務付けています。しかし、実際は所定休日の場合でも割増賃金の支払いが必要となることがあります。 例えば、1日の所定労働時間が8時間、土曜、日曜日(法定休日)を休日とする会社の場合に、ある週の勤務が平日、月曜日から金曜日まで8時間勤務したとします。加えて、所定休日の土曜日にも8時間勤務し、日曜日は休日を取得しました。このケースで考えると、出社した日はどの日についても8時間勤務ですから時間外労働の割増賃金は不要です。また、法定休日は確保されていますので休日出勤の割増賃金は不要となります。しかしながら、土曜日の所定休日に勤務したことによりこの週の労働時間は48時間となっています。割増賃金は「1週40時間」「1日8時間」を超えた労働について支払う義務があります。したがって、1週40時間を超える「8時間」については「時間外労働」としての割増賃金を支払わなければなりません。実際は、休日に出勤したことによる支払いとなるのですが、労基法上は時間外労働としての取り扱いとなるのです。つまり、割増率は25%以上で良いということになります。 振替休日と代休 業務の都合上、休日に出勤した場合、その代わりに休日を与えることが少なからずあります。この場合、「振替休日」であるのか「代休」であるのかを混同して運用しているケースが見受けられます。 「振替休日」とは、休日出勤をする場合に、あらかじめ休日出勤する日と労働日を入れ替えたうえで休日出勤させることです。「休日」と「労働日」を事前にチェンジさせるという考え方です。つまり、本来の休日⇒労働日、本来の労働日⇒休日とした上で、出勤させることとなるため、休日出勤したことにはならないという仕組みです。 「代休」とは、休日に労働させた場合に、事後的な代償措置として特定の労働日の労働義務を免除するものです。 「先日の休日出勤、お疲れさま。代わりに次の水曜日休んで!」というケースが該当します。この場合、休日出勤の事実については帳消しとなりません。 つまり、あらかじめ、休日をチェンジさせる「振替休日」は休日出勤自体をしていないこととなり、「代休」は、休日出勤をした上で代わりに休ませているということになるのです。 振替休日の際の割増賃金 振替休日をした場合には、「休日労働」をしたことにはならないので休日出勤としての割増賃金の支払いは不要となります。しかしながら、休日の振替が同一週以外の場合は、もともとの休日を労働日にチェンジしたとしてもその週は6日勤務したことになります。1日の所定労働時間が8時間であるとすると、この週の労働時間は48時間となります。 この場合は、1週40時間を超える労働となり、時間外労働としての割増賃金(25%以上)のみ支払いが必要となるのです。 つまり、振替休日であっても振替日を同一週以外の日とする場合は、時間外労働としての割増賃金が生じることになるのです。 振替休日が同一週以外の場合 振替休日が同一週の場合 なお、振替休日を行う場合には、次のルールを守る必要があります。 ①就業規則等に休日の振替ができる旨の規定を設けておくこと。 ②振替休日の実施日の少なくとも前日までに、振替日を指定の上、労働者に通知すること。 ③振替日については、振り替えられた日(もともとの休日)以降出来る限り近接している日を選ぶこと。 代休の際の賃金の取り扱い 代休の場合は、休日出勤をした事実は、帳消しにはなりません。つまり、休日出勤に関しては割増賃金の支払いが必要となるのです。 例えば、法定休日に出勤した後、代休を取得した場合は休日出勤に対して「135%」の賃金を支払い、代休を取得した場合には割増賃金を除いた「100%」の賃金を控除することができます。したがって、代休取得をしても割増賃金部分「35%」については支払うことになるのです。 なお、代休を取得した場合に賃金を控除する場合は、就業規則等に代休取得時に賃金を控除する旨の規定を設けておく必要があります。 ご注意ください 「この前の休日出勤の分は、来月振替休日を取得する予定です。」 「代休がだいぶ貯まって、20日も残っている。」 「代休を取得せずに1年経つと消滅する。」 こんな話を聞くと、正しい運用ができているのかな?って心配になります。 振替休日、代休の運用の際には、特に以下の点についてご注意ください。 ①代休と振替休日を混同しているのではないか。 ②代休を取得するのを前提として「休日出勤」の賃金を支払っていないのではないか。 ③週40時間を超えた場合の割増賃金を支払っているのか。 ④就業規則に「振替休日」に関する規定はあるのか。 ⑤就業規則に「代休取得時」の控除についての規定はあるのか。 ⑥休みが取れていない=過重労働となってはいないか。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
所定労働時間と法定労働時間 社員A この前、2時間残業したのに、割増賃金が1時間分しか支払われて無いんだけど…間違っていませんか? 担当者B 当社の『所定労働時間』は7時間なので、最初の1時間は割増賃金の支払いはしていません。しかしながら、『法定労働時間』を超えた分については25%の割増賃金を支払っています。 社員A 同じ日に残業しているのに支払われる賃金が違うのはどうしてなんだろうか?? 会話の中に出てきた『所定労働時間』と『法定労働時間』は似て非なるものです。この2つの違いが分からないとAさんの疑問は解決しません。 『所定労働時間』とは、労働者が働くこととなっている時間のことです。就業規則や雇用契約書に記載されている始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を引いた時間のことをいいます。例えば、始業時間が9:00、終業時間が18:00、休憩時間が1時間であれば、所定労働時間は「8時間」となります。 『法定労働時間』とは、労働基準法第32条に規定されている労働時間の限度のことです。 労働基準法第32条 第1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時を超えて労働させてはならない。 第2項 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日ついて8時間を超えて、労働させてはならない。 とそれぞれ規定されています。この1週間または1日の労働時間の上限である『1週間40時間』、『1日8時間』のことを法定労働時間と言います。 労働基準法は、最低限度の基準を定めている法律ですから,『法定労働時間』を超える労働時間を『所定労働時間』として定めることは許されません。つまり,「所定労働時間」を1日9時間や1週50時間と定めることは許されないということです。仮に、法定労働時間を超える所定労働時間を定めていたとしても,法定労働時間を超える部分は無効となります。上記の例でいうと、1日「9時間」と定めていたとしても法定労働時間である「8時間」が優先されるということになります。 なお、業種・規模によって1週間の法定労働時間が例外的に「44時間」が適用されるケースや「変形労働時間制」による例外もあります。 「所定労働時間」≠「法定労働時間」の場合は注意が必要 「所定労働時間」と「法定労働時間」が違うものだということは、当然ですが両者が一致するとは限らないということになります。所定労働時間と同じ時間の法定労働時間が定められることもあれば,所定労働時間とは異なる時間の法定労働時間が定められることもあります。 先の会話に出てくるX社では、所定労働時間は「7時間」、法定労働時間は「8時間」ということで「所定労働時間」とは異なる時間の「法定労働時間」が定められています。 この「所定労働時間」≠「法定労働時間」場合に、Aさんの疑問が生じることがあるのです。 一般的に『残業』とは、労働者が働くことを決められている時間=『所定労働時間』を超えて働くことをいいます。 しかしながら、労働基準法において、割増賃金の支払いが義務付けられているのは『法定労働時間』を超えた場合となっています。 この割増賃金の支払いが義務付けられていない残業を「法定内時間外労働」といい、割増賃金の支払いが義務付けられている残業を「法定外時間外労働」といいます。 ちなみに、「法定外時間外労働」の際に支払う割増賃金の割増率は、「25%以上50%以下の範囲」とされています。 これらを踏まえた上で、Aさんの疑問を解消するために、先の会話を解説します。 X社は、1日の『所定労働時間』が「7時間」となっているところ、Aさんは、「2時間残業」したとのことです。つまりその日は「9時間」働いたということになります。 残業を始めて最初の「1時間」は、「法定内時間外労働」となりますので割増賃金を支払う必要がありません。しかしながら、『法定労働時間』である8時間を超えてからは「法定外時間外労働」となりますので、9時間までの「1時間分」については、25%以上50%以下の範囲の割増賃金を支払わなければならないのです。 これを図で示すと以下の通りとなります。 なお、X社は、法律通りの運用をしており、「法定内時間外労働」に対しては割増賃金の支払いをしていません。もちろん、「法定内時間外労働」に対して割増賃金を支払うことは、法律の定めを上回ることになりますので、問題ありません。いずれにしろ、割増賃金を支払うのか、支払わないのかは就業規則等に規定しておかなければなりません。X社の場合はこんな感じに就業規則に定めることとなります。 就業規則記載例)法定外時間外労働に対してのみ割増賃金を支払う場合 時間外勤務手当は、法定労働時間を超えて勤務した時間数に対して、次の算式により計算して支給します。なお、所定労働時間を超えて法定労働時間までの勤務に対しては、「1.25」を「1.00」に読み替えて計算します。 また、所定労働時間を超えた時間に対して割増賃金を支給する場合は次のように就業規則に定めることとなります。 就業規則記載例)所定労働時間を超えた時間に対して割増賃金を支払う場合 時間外勤務手当は、所定労働時間を超えて勤務した時間数に対して、次の算式により計算して支給します。 所定労働時間は明確にしておくこと 所定労働時間の基となる「始業時刻」「終業時刻」「休憩時間」については、採用時に書面などで明示しなければならない『労働条件』となっています。なお、「所定労働時間」≠「法定労働時間」の場合の割増賃金の計算方法についても書面等による明示が義務付けられている事項となっています。 明示の方法としては、「労働条件通知書」として労働者に書面を交付する方法があります。しかしながら、後のトラブルを避けるために労働者、使用者双方が内容を確認した上で、捺印をして締結する「雇用契約書」による方法をお勧めします。 労働基準法第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。 ※明示しなければならない労働条件 (1) 労働契約の期間 (2) 就業の場所・従事する業務の内容 (3) 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項 (4) 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項 (5) 退職に関する事項(解雇の事由を含む) 所定労働時間が日によって異なる働き方をしているケースもあるでしょう。この場合の記載方法をいくつか挙げておきます。 例1)曜日ごとに決められているケース 月、水、金曜日は9:00から18:00 休憩時間1時間 火、木曜日は10:00から18:00 休憩時間1時間 例2)シフト表で定めるケース 1日の所定労働時間は8時間以内とし、各日の始業、終業の時刻は前月末日までにシフト表によって定め、労働者に通知する。 なお、休憩時間は各日とも1時間とする。 昨今、働き方改革ということで所定労働時間を短縮する等の多様な働き方があります。この場合に、採用時の所定労働時間を変更することも考えられます。所定労働時間を変更する場合には、双方で明確にできるよう「書面」によって労働者に通知しておくべきです。もちろん、所定労働時間と法定労働時間が異なる場合には、割増賃金の対象となる時間も明確にしておきます。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
『労働時間管理』きちんとできていますか? 過去に対応したご相談の中で『労働時間の把握』をしていなかったことが原因である相談・トラブルが数多くありました。 例えば… (1)A社に最近入社した労働者に遅刻が多いので注意したところ・・・ 「遅刻をした証拠があるのか! それより残業代も支払ってないくせに!!」 と返されてしまった… (2)B社を退職したXから届いた郵便の内容は… 「毎日20時過ぎ迄残業をしていたのに、今まで一度も残業代を支払って貰ったことがない!」 「在職中の残業代1日2時間×労働日数240日×2年分=480時間分を支払え!」 といったものでした。実際のところを確認しようにも会社にあるのは、出社した記録だけ… (3)C社からは 日曜日の休日出勤中に労働者が負傷したとのこと。労災の申請を行うために「勤務表」を確認すると名前以外は何も記載が無い。 担当者に確認すると… 「残業や休日出勤があれば労働者自身が記載することとなっています。」 負傷したのは休日出勤中だったのにその日には「休日出勤」の記載無。 これってホントに労災? 労働時間を把握できていないと 遅刻を注意したら労働者に逆ギレ! 残業代払おうにもいくら払ったら良いか分からず… 労災って言われてもその日に出勤記録が無ければ、労災かどうかも確かめられず… 会社としての義務を果たそうと思っても果たせません! 労働時間の把握は、会社に義務付けられています 労働時間の把握の方法については、労基法には、明確に規定されてはいません。 でも、労働時間を把握していなければ、残業代や深夜労働に対する割増賃金を支払うことは出来ないし、労働時間数が分からなければ、労働時間数等を賃金台帳に記載することも出来ません。 つまり、労働者が働いている時間を正確に把握出来なければ労基法の義務が果たせないのです。 しかしながら、上記のような相談・トラブルが数多くあることから、厚生労働省は『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』(労働時間ガイドライン)を策定しました。(平成29年1月20日策定) 「労働時間ガイドライン」によると、「使用者が労働日ごとに始業・終業の時刻を確認し記録すること」としており、その記録の方法として、原則2つの方法を挙げています。 (1)使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。 (2)タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。 この原則の方法で行わずに、『自己申告制』により始業・終業の時刻の確認、記録を行わざるを得ない場合には、使用者は次の措置を講じなければなりません。 ① 自己申告制の対象となる労働者に対して、「労働時間ガイドライン」を踏まえて、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。 ② 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、労働時間ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。 ③ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間を補正すること。 特に、入退場記録やPCの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。 ④ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。 その際。休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。 ⑤ 自己申告は労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。 また、時間外労働の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。さらに、36協定により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが慣習的に行われていないかについても確認すること。 「自己申告制」による労働時間の把握 「労働時間ガイドライン」を見ると、厚生労働省は「自己申告」による労働時間の把握については信頼性に乏しいと考えているようです。 特に、以下の点については注意が必要です。 「入退場記録」「PCの使用時間の記録」と「自己申告により把握した労働時間」とのかい離 労働時間終了後に社内にいる「休憩」「自主的な研修」「教育訓練」「学習」の時間の実態 「時間外労働削減のための社内通達」「時間外労働手当の定額払」の措置の適正な運用 36協定について「記録上、守っているようにすることが慣習的に行われていないか」 おそらく、労働基準監督署の臨検等で調査の中でも、このような違反が多くあったのでしょう。いずれにしても、「自己申告制」という労働者に「労働時間の申告」をゆだねている場合においても、その正確性の担保は使用者にあるといったところを理解しておかなければなりません。 つまり、「会社は、早く帰れっていっているのに労働者が勝手にやっていることだ!」とか「会社が命令した時間じゃないから、労働時間としては認められない!」といった社長の言い訳は通用しないということになるのです。 労働時間を管理する必要性 単純に、使用者の指揮命令下にある「労働時間」について、会社が把握していないって「無責任」って思いませんか。 「労働時間の管理ができていない」 ⇒ 「長時間労働」 ⇒ 「ブラック企業」 こういった図式は定着しているといえます。 労基署の臨検の際にもタイムカード上は、残業時間が少なく表示されているにもかかわらず実際に調べてみると、「把握できていない労働時間」「隠れた(隠された)労働時間」が発覚して多額の未払賃金の支払いとなった例は数多く経験しました。 今や「労働時間管理」は、労働時間を適正に把握するだけにとどまらず、「労働時間を抑制 (コントロール)」することが目的と考えなければなりません。本当に働いた時間が把握できなければ、労働時間をコントロールすることはできません。 適正に労働時間を把握して、メリハリのある働き方ができるように労働時間をコントロールすること、これが「働きやすい職場」づくりの第一歩ではないでしょうか。 もちろん、必要な残業はやってもらわなければなりません。ときには、徹夜で業務を行ってもらわなければならないこともあるかも知れません。 その場合に、遅くまで仕事をしていたことを「正しく申告できない」のであれば、会社に働いていたことさえも認識してもらえず、当然、その分の賃金も支払われず、労働者にとって”泣きっ面に蜂″です。『こんな会社に辞めてやる!』ってなってもおかしくないですよね。 この人手不足の折、不本意な理由で労働者が辞めてしまうことは良いことではありません。 少なくとも、上司は、 ①残業をしなければならない状況にあること ②残業をする必要性があること ③他の者に手伝わせることができるか については確認しながら残業をさせることが必要です。 こんな効果も 労働時間を正確に把握することで、「残業時間」や「欠勤日数」「遅刻、早退」などの労働者の勤怠の実態が分かります。こういった労働者の勤怠の実態を見て、必要に応じて労働者に声掛けをすることも重要です。 社内におけるトラブルの多くは「社内のコミュニケーション不足」を原因となっています。 「昨日、だいぶ遅くまで残っていたけど何かあったのか。」とか「先週、休んでいたけど体調は大丈夫か」、こういった声掛けが『社内のトラブル』を未然に防ぐことにもつながるのです。 もちろん、私も使用者として、職員の労働時間を管理しています。「勤怠管理システム」で出社の処理を行うと、「勤怠管理システム」から「おはようございます。」のメッセージ、終業時には、「お疲れさまでした。」とメッセージが聞こえてくるのです。その音声が聞こえるとみんな「ニコッ」としています。中には、「勤怠管理システム」に返事をしちゃったりすることも… 当事務所の社内の雰囲気づくりの一端を勤怠管理システムが担ってくれています。 「労働時間の適正な把握」 ⇒ 「適切な労務管理」 ⇒ 「働きやすい職場環境」 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/
初めて勤怠管理システムを導入しようとすると、勤務時間の自動集計、リアルタイムな勤務状況の把握、給与ソフトへの連携など、一見メリットしかないように思えます。しかしシステムということはエクセルや紙のタイムカードとは違って、導入後に「やっぱりこうだった」「これも必要かも」となった場合に自由に変更することができないというリスクを抱えています。 そこで今回は、勤怠管理システムの導入で後悔しないためにはどんなことに注意すればいいかを6つのポイントでご紹介します。 ポイント1:自社の勤務体系にシステムが合うか ポイント2:打刻方法について ポイント3:社員が使いやすいシステムか ポイント4:クラウド型かパッケージ型か ポイント5:サポート体制について ポイント6:無料お試しの有無 ポイント1:自社の勤務体系にシステムが合うか 勤怠管理システム導入前にまず確認したいのが、自社の勤務体系に検討中のシステムが合うかどうかです。業者や会社規模ごとに就業規則や勤務体系は大きく異なります。 例えば、様々な自社独自の就業ルールに対応できるか 導入してから自社の就業ルールに合わなかったといったことがないように、導入前に無理なく対応できるか確認することをオススメします。 また、勤怠管理システムの導入を機に無駄な運用がないか見直してみるのもいいかもしれません。 ポイント2:打刻方法について 勤怠管理システムには様々な打刻方法が用意されています。 例えば、ICカードをかざすだけで出退勤を記録できるタイムレコーダーや、パソコンのブラウザから各自がログインして打刻、あるいはスマホに専用アプリケーションをインストールして打刻する方法などが用意されています。 スマホやパソコン操作に慣れている人であれば、どんな打刻方法でも簡単につかいこなせるでしょうが、不慣れな人の場合はそうもいきません。その他にも指紋や静脈による打刻など不正打刻を防止できる打刻方法やスマホアプリのGPS機能を使って位置情報を打刻時に記録する方法などもあります。 どんな打刻方法が用意されていて、自社の社員が使いこなせる打刻方法を選択することがポイントです。 ポイント3:社員が使いやすいシステムか 多くの社員が毎日使うシステムですので、使いやすく手軽に導入できることも勤怠管理システムを選ぶ上で大切になります。 勤怠管理システムを導入する際には、使い始めるまでに自社向けの設定や従業員の登録が必要になります。 また、導入後は全社員に使い方や運用を説明(教育)しなければいけません。誰でも使いやすい勤怠管理システムだと社員への教育コストもかからずにスムーズに導入することができるなどのメリットがあります。 誰でも使いやすい勤怠管理システムを導入することが大切 各担当者目線で使いやすさを確認したり、必要のない機能が多く、オーバースペック故に複雑になっていないかを確認することをオススメします。 ポイント4:クラウド型かパッケージ型か 勤怠管理システムには大きく2つの種類があります。 1つはパッケージ型でパソコンに専用のソフトをインストールして使う勤怠管理ソフト。もう1つはネット環境さえあれば利用できるクラウド型の勤怠管理システムで、年々クラウド型を選択される方が増えてきています。 パッケージ型に比べてクラウド型のメリットは多くあります。 クラウド版 パッケージ版 ソフト管理 不要 必要 利用シーン ネットとPC、スマホがあればどこでも使える 特定のデバイスに限られる バージョンアップ 無償でバージョンアップ 新たに買い直す必要がある スマホとの相性 非常に良い 対応されてない場合が多い 自社に運用体制がしっかり整っている場合は、パッケージ型もオススメですが、コストや利便性を考えるとクラウド型が有利で、すでにクラウドが時代の潮流となっています。 ポイント5:サポート体制について サポートの体制についても事前に確認しておくことが大切です。 サポート対応が有料の勤怠管理システムもあり、導入後に思わぬコストがかかる場合もあります。導入後はもちろんのこと、導入前から無料で丁寧にサポートしてくれるサービスもあり特に初めて勤怠管理システムを導入する際は心強いサポートになります。 運用や就業ルールにあわせた設定方法の相談にのってくれるか。 あるいは操作方法のサポートはしてもらえるのか。 導入前にサポート体制がどうなっているか確認することをオススメします。 ポイント6:無料お試しの有無 これまでにご紹介したように勤怠管理システム導入時には確認すべきポイントが幾つかあります。 事前にホームページや資料で確認しておいても、いざ導入して使ってみると「自社の就業ルールにあわない」や「設定が複雑な上に使いにくい」などの問題が発生する場合があります。 導入後に自社に合わず失敗するケース 事前に自社と合っているかしっかり確認して、導入が成功するケース 多くの勤怠管理システムは導入前に「無料お試し」を用意していますので、実際に使ってみて、自社にあったシステムか確認することをオススメします。 まとめ:初めて勤怠管理システムを始めて導入する際の6つのポイント ポイント1:自社の勤務体系にシステムが合うか ポイント2:打刻方法について ポイント3:社員が使いやすいシステムか ポイント4:クラウド型かパッケージ型か ポイント5:サポート体制について ポイント6:無料お試しの有無 勤怠管理システムは導入後に大きなメリットをもたらしてくれますが、一度導入すると全社員が使うシステムのため、運用を変えることは非常に難しいようです。ですので、導入した後に後悔することがないよう事前にこれらのポイントをしっかりと確認して、ぜひ自社に最適な勤怠管理システムを選んでください。 最後に:クラウド勤怠管理システム「レコル」のご紹介 「レコル」は豊富な機能を一人100円で利用できるクラウド勤怠管理システムです。これまでご紹介したポイントを押さえながら、無料お試しで自社の運用に合うか是非ご確認ください。
労働基準法は労働条件の最低基準のルール 労働基準法(以下「労基法」という。)は、職場における様々なルールを定めたもので、労働条件に関する『最低基準』を規定している法律です。この『最低基準』の意味合いは、労基法に違反する労働条件は、たとえ会社と労働者の同意があったとしても、無効でありその部分については、労基法の基準に置き換えられるということになります。 X社に入社するAのお話し… 社員A 僕は、働くのが大好きなので年次有給休暇はいりません。権利を放棄したいと思っています。 社長B それはありがたい。そうは言っても全く無しって訳にもいかないでしょうから、 労基法の基準の半分を付与するということでどうだろうか。つまり、入社後6か月で5日付与することにしよう。 それでよければ、その内容で労働契約書を締結しよう。 社員A ご配慮ありがとうございます。もちろん、その内容で契約させて下さい。 といったやり取りの上、AはX社に入社することになりました。 その数日後、〇〇労働基準監督署の監督官がX社を訪れました。 監督官 〇〇監督署から参りました。 今日は、御社で締結している労働契約書の内容を確認しに来ました。直近のご入社の方の契約書を見せていただけますか。 社長B もちろんです。当社は労働者に労働契約の内容を説明し、 納得してもらった上で契約を締結していますので何も問題無いはずですよ。 監督官 わかりました。では、契約書を確認させて下さい。 あれっ?Aさんの労働契約書に「年次有給休暇は労基法の基準の半分を付与する」となっていますが、これはどういうことですか。 社長B あー、それはAが年休はいらないと言ってきたのですが、 そうもいかないだろうということで基準の半分を付与することで双方合意した事項ですので契約書にもその通り記載しました。 いらないって言ったのに半分くれるなんてと言ってAは喜んでましたよ。 監督官 それはダメですよ。Aさんからの申出があったとしても労基法のルールは最低基準となっていますのでそれを下回るルールは労基法の基準となります。 ですから、入社後6か月経過した場合に付与しなければならない年休は10日となります。 といった形でX社は指導されてしまいました。 いくら労働者との間で合意した労働条件であっても労基法の基準を下回ることは許されず、 万が一、下回る労働条件で労働契約を締結したとしても、下回る部分は、無効となり労基法の基準が適用されことになっています。 労基法にはどんなことが定められているのか? 全文で13章、138条から成る法律となっています。その概要は、次の通りです。 第1章 総則 労基法の目的やその適用範囲、「労働者」「使用者」の用語の定義などについて 第2章 労働契約 労働契約の期間の制限や労働条件の明示、解雇や退職後の証明などについて 第3章 賃金 賃金の支払いに関する原則や休業手当などについて 第4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇 法定労働時間・変形労働時間等の労働時間制度、休憩・休日・年次有給休暇や割増賃金の支払いなどについて 第5章 安全及び衛生 労働者の安全および衛生について(詳細は労働安全衛生法の定めによる) 第6章 年少者 働くことができる最低年齢の定めや18歳未満の年少者が働くに当たっての深夜業その他の保護規定などについて 第6章の2 妊産婦等 妊産婦(妊娠中または産後1年を経過していない女性)の就業制限や労働時間の制限など女性が働くための保護規定などについて 第7章 技能者の養成 技能習得者の保護、職業訓練などに関する規定について 第8章 災害補償 業務上の負傷・疾病に対する療養補償、障害補償などの補償について 第9章 就業規則 就業規則の作成、変更、届け出義務などについて 第10章 寄宿舎 寄宿労働者に対する私生活の自由の保障や寄宿舎の設備、安全衛生などについて 第11章 監督機関 労働基準監督官の権限や監督機関の組織や権限などについて 第12章 雑則 就業規則などの周知義務や労働者名簿・賃金台帳の法定帳簿の作成・保存などについて 第13章 罰則 労基法に違反した場合の罰則規定や両罰規定などについて 付則 法律改正に伴う経過措置などについて 労基法に違反すると、罰則が… 労基法は、違反すると懲役や罰金刑が科せられる強行法規となっています。 罰則については、第13章第117条から121条までに規定されており、1番重い処罰は、「強制労働を行わせていた場合(労基法第5条違反)」で、「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」が科せられます。 例えば、解雇予告手当を支払わずに即時解雇した場合には、労基法第20条の違反となりますが、この場合は、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に科せられます。 なお、この場合に処罰される対象は、労基法10条でいう『使用者』となっています。この『使用者』の範囲は結構広く、取締役・工場長等は言うまでもなく、支店長・課長・現場監督も含まれる可能性が有ります。通達(昭22.9.13発基17号)によると「部長、課長等の形式にとらわれることなく、各事業場において、本法(労基法)各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによるが、かかる権限が与えられておらず、単に上司の命令の伝達者にすぎぬ場合は使用者とみなされないこと」となっています。 つまり、必ずしも「使用者=事業主」とはなっておらず、この場合に「使用者」のみを処罰し、事業主が全く処罰されないとなると妥当とはいえないでしょう。 こういった場合に事業主も処罰の対象とするために、労基法121条1項が規定されています。このような規定を両罰規定といいます。この規定により行為者である「使用者」と最高責任者である「事業主」ともに罰せられることがあるのです。 労基法を守って、会社を守る 総務省統計局が行っている労働力調査(平成29年(2017年)3月分)によると日本の就業者は、6,433万人となっています。日本の総人口が1億2,693万人ですからおよそ半分以上の人が就業していることとなります。労基法とは、前述の通り「働くルール」が規定されているわけですから、日本の人口の半分以上は何らかの形で労基法に関わっていると言えます。それだけ重要な法律であるにも関わらず労基法の内容をご存知ない方が多いのではないでしょうか?オフサイドを知らないサッカー選手はいませんよね。 しかし、労基法はこれだけ多くの人が関わっている重要な法律なのに、認知度が低い…そして毎日のように、労基法違反が報道されており、知らなかったからでは、取り返しのつかない事件も発生しています。厚生労働省によると、平成27年度業務上災害として認定された脳・心臓疾患を原因(主に過重労働が原因)とするものの死亡件数は96件、精神障害によるものによる自殺(未遂も含む)件数は93件となっています。生活の糧を得るための職場であってはならない事故がこれだけの数発生しているのです。 「こういった事故をなくすために」「決まり事だから」「最低限の基準だから」守らなくてはしょうがない、といった考えのもと、労基法を守ることももちろん大切なことです。しかし、企業として、積極的に労基法を守り、労働者が継続して勤務出来るための「安心感」を提供していくことが、結果として会社を守ることにつながるということを理解して頂きたい。これからの労務管理は「攻めの労務管理」を目指していかなければ、企業の継続的な発展はないといえます! 今後、このコラムでは、職場のルールである労基法とその関連する法律を「攻めの労務管理」といった視点に立ってお話ししていきます。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/