
給与計算は、企業運営における根幹を担う業務の一つです。 特に、パート勤務者やシフト勤務者など多様な働き方に対応するには、労働時間や各種手当、割増賃金、社会保険料などを正確かつ効率的に計算する必要があります。 しかし、給与計算業務は複雑で法改正にも左右されやすく、担当者にとって大きな負担となるケースも少なくありません。 本記事では、実際の給与計算に役立つ具体的なケーススタディをもとに、計算方法や注意点、効率化のポイントをわかりやすく解説します。 パートタイム労働者の労働時間の取り扱い、割増賃金の計算、社会保険・税の控除、各種手当の支給条件など、実務で頻出するテーマを網羅しています。 給与計算の精度を高め、従業員からの信頼を築くためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。 給与計算の実践例とケーススタディ パート勤務者の給与計算例 労働時間の計算方法 労働時間の正確な計算は、適切な給与支払いを実現するために不可欠です。本節では、労働時間の基本的な計算方法から、休憩時間や時間外労働の取り扱い、さらに労働時間記録ツールの活用方法まで詳しく解説します。 労働時間の基本的な計算方法 労働時間の計算は、開始時刻から終了時刻までの差し引きに基づきます。例えば、9:00に出勤し、17:30に退勤した場合、総労働時間は8時間30分となります。ただし、これは休憩時間を考慮しない計算です。 休憩時間の取り扱いと時間外労働の計算方法 労働時間から休憩時間を差し引く必要があります。例えば、8時間働く場合、一般的には1時間の休憩が取られるため、実働時間は7時間となります。また、法定労働時間を超えた場合は時間外労働となり、割増賃金が適用されます。具体例として、法定労働時間である8時間を超えて9時間働いた場合、1時間分が時間外労働として計算されます。 労働時間記録ツールの活用方法と記録時の注意点 労働時間を正確に記録するためには、タイムカードや電子システムの活用が有効です。これにより、手動での計算ミスを防ぎ、リアルタイムでの労働時間の管理が可能となります。しかし、ツールを使用する際には、従業員が正確に打刻することや、システムの設定ミスがないか定期的に確認することが重要です。 労働時間を正確に計算するためには、以下のポイントを押さえることが重要です 定期的な勤怠データの確認 月末や給与計算前に、勤怠データを確認し、誤りがないかチェックします。 自動化ツールの導入 エクセルなどの手動計算から、専用の勤怠管理システムへの移行を検討します。 従業員への教育 正確な打刻方法やシステムの使い方について、従業員への教育を実施します。 定期的なシステムの見直し 使用しているツールやシステムが最新の法令に準拠しているか定期的に確認し、必要に応じてアップデートします。 これらのガイドラインを実践することで、労働時間の計算ミスを減少させ、従業員との信頼関係を築くことができます。 時給と控除額の計算例 時給制に基づく給与計算は、基本的な給与計算の基本式を理解することから始まります。基本式として、「総支給額 = 時給 × 実働時間」が挙げられます。例えば、時給1,200円で月に160時間働いた場合、総支給額は192,000円となります。 次に、控除額の計算です。控除額には主に社会保険料や税金が含まれます。具体的な計算例として、社会保険料が総支給額の15%、所得税が10%と仮定すると、控除額は28,800円(192,000円 × 15%)となります。これにより、手取り額は163,200円(192,000円 - 28,800円)となります。 各種控除項目の計算方法について詳しく見ていきましょう。社会保険料には厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険が含まれ、それぞれ法定の料率に基づいて計算されます。例えば、厚生年金保険料は標準報酬月額に対して9.15%、健康保険料は9%など、 それぞれの 料率を適用します。所得税や住民税は、従業員の所得や扶養人数に応じた税率を適用して計算します。 時給制の給与計算を正確に行うためには、最新の法改正情報を常に把握し、正確な勤怠データを収集することが重要です。また、給与計算ソフトウェアの活用や定期的なチェックリストの導入により、計算ミスを防ぎ、効率的な業務運営を実現することができます。これにより、従業員の満足度向上や信頼関係の構築にも繋がります。 割増賃金の適用例 給与体系において、割増賃金は特定の労働条件下で適用されます。主な適用条件には、時間外労働、深夜労働、および休日労働があります。時間外労働は、法定労働時間を超えて勤務する場合に発生し、深夜労働は午後10時から午前5時までの間に行われる勤務、休日労働は法定休日に勤務する場合に適用されます。 割増賃金の計算方法は、各労働条件に応じて異なります。例えば、時間外労働の場合、基本時給の25%以上の割増率が適用されます。具体的な計算例として、基本時給が1,000円の従業員が1時間の時間外労働を行った場合、割増賃金は1,000円 × 0.25 = 250円となります。これにより、時間外労働1時間あたり1,250円が支給されます。 割増賃金を適用する際には、法的要件を遵守することが重要です。また、割増賃金の計算ミスを防ぐために、正確な勤務時間の記録と計算方法の徹底が求められます。 給与計算業務を円滑に行うためには、 まずは勤怠管理システムを活用し、正確な労働時間の記録を行います。次に、割増賃金の適用条件を明確にし、従業員への周知を徹底します。また、定期的な給与計算の見直しや外部専門家への相談を通じて、計算の正確性を維持することが推奨されます。これらの対策により、割増賃金を正確かつ適切に計算・適用することが可能となります。 正社員の給与計算例 月給制の基本給計算 月給制における基本給は、従業員に対する固定的な給与の基盤となる部分であり、職務内容や責任の程度に応じて設定されます。 適切な 基本給の設定は、従業員の満足度を高め、長期的な雇用関係の構築にも寄与します。 基本給の設定方法には、主に職位や経験年数などの基準が用いられます。例えば、同じ職種でも管理職と一般職では責任範囲が異なるため、基本給にも差異を設けることが一般的です。また、新入社員と経験豊富な社員では、スキルや知識の差異を考慮して基本給を設定します。具体的な例として、営業職の基本給を職位に応じて「主任:25万円」「課長:35万円」と段階的に設定することで、公平性と透明性を確保します。 基本給に基づく総支給額の算出には、各種手当が加算されます。例えば、通勤手当や住宅手当、役職手当などがこれに該当します。基本給が25万円の場合、通勤手当が1万円、住宅手当が2万円であれば、総支給額は28万円となります。さらに、時間外労働や休日労働に対する割増賃金が発生する場合もあり、これらを正確に計算することで総支給額を確定させます。 月給制の基本給を 適切に 設定・計算するためには、まず各職位ごとの市場相場を調査し、競争力のある基本給を設定することが重要です。また、従業員のスキルや経験を的確に評価し、公平な給与体系を構築することで、給与計算ミスを防止し、従業員の満足度を向上させることができます。さらに、給与計算ソフトウェアの導入や定期的なプロセスの見直しを行うことで、計算の正確性と効率性を高めることが可能です。 社会保険料と税金の控除例 給与計算において、社会保険料と税金の控除は不可欠な要素です。これらの控除は従業員の給与から正確に差し引かれる必要があり、法的な遵守も求められます。以下では、および所得税、住民税の具体的な控除方法について詳しく説明します。 まず、社会保険料の控除方法を具体例とともに見ていきましょう。 厚生年金保険料は、従業員の標準報酬月額に基づいて計算されます。例えば、標準報酬月額が30万円の場合、保険料率が18.3%であれば、厚生年金保険料は30万円 × 18.3% = 54,900円となります。 このうち、従業員負担分は2分の1の金額なので、27,450円が給与から控除されます。 健康保険料および介護保険料健康保険料も標準報酬月額に基づき計算され、例えば保険料率が10%であれば、30万円 × 10% = 30,000円が健康保険料となります。 このうち、従業員負担分は2分の1の金額なので、15,000円が給与から控除されます。 介護保険料は40歳以上の従業員に適用され、保険料率が1.8%の場合、30万円 × 1.8% = 5,400円が介護保険料 となります。 このうち、従業員負担分は2分の1の金額なので、2,700円が給与から控除されます。 雇用保険料は標準賃金日額に基づき、例えば保険料率が0.6%であれば、30万円 × 0.6% = 1,800円が雇用保険料として控除されます。 次に、所得控除について解説します。 所得控除とは、個人の年間所得から一定の金額を差し引くことができる制度です。たとえば、1年間で500万円の給与を得たとしても、すべての金額に対して税金がかかるわけではありません。所得控除によって、実際に課税される金額(課税所得)が減り、その結果として支払う所得税や住民税も軽減されるのです。 この制度は、納税者の生活状況や社会的な事情に応じて、公平に税負担を調整するために設けられています。家族を養っている人や、保険料や医療費などの支出が多い人などに配慮するため、さまざまな控除項目が存在します。所得控除には複数の種類があり、それぞれに異なる趣旨や適用条件があります。どの控除が適用されるかによって、最終的な課税所得は大きく変わってきます。 まず、すべての人に一律で適用されるのが「基礎控除」です。これは年収に関係なく、一人あたり48万円が所得から差し引かれます。ただし、所得が2,400万円を超えると控除額が段階的に減少し、2,500万円を超えると適用されません。 次に、家族構成に関連する控除として、「配偶者控除」や「扶養控除」があります。たとえば、配偶者の収入が一定以下(103万円以下など)であれば、38万円の配偶者控除が受けられます。また、16歳以上の子どもや親を扶養している場合には、扶養控除として最大63万円(特定扶養親族の場合)までが控除対象になります。 さらに、年間の支出に応じて適用される控除としては、「社会保険料控除」や「生命保険料控除」、「医療費控除」などがあります。これらは実際に支払った金額に基づいて計算され、所得から差し引かれます。 たとえば、年間の医療費が10万円を超えた場合、その超過分が医療費控除として認められますし、健康保険や厚生年金の保険料は、全額が社会保険料控除の対象になります。 控除額を正確に算出するためには、最新の法令や料率表を常に確認し、給与計算システムを適切に設定することが求められます。また、控除額の記録方法としては、給与明細に明確に項目別に記載し、万が一のトラブルに備えて詳細な記録を保持することが推奨されます。 最後に、社会保険料と税金の正確な控除を実現するための具体的なガイドラインとして以下のポイントを押さえておきましょう 最新の社会保険料率や税率を定期的に確認する。 給与計算システムを適切に設定し、手動計算のミスを防ぐ。 給与明細に控除項目を明確に記載し、従業員にわかりやすく伝える。 定期的な内部監査を実施し、控除の正確性をチェックする。 これらの手順を踏むことで、人事担当者は給与計算における社会保険料と税金の控除を正確かつ効率的に行い、給与計算ミスを防止しつつ従業員の満足度向上に寄与することができます。 各種手当の計算例 各種手当の計算は、従業員に対する正確な支払いを実現するために欠かせません。通勤手当、住宅手当、家族手当、役職手当など、さまざまな手当の定義とその役割を理解することで、適切な計算方法を適用することが可能です。以下に、各手当の具体的な計算方法と適用条件について具体例を交えて解説します。 まず、通勤手当は、従業員が職場に通うための交通費を補助する手当です。公共交通機関を利用する場合、通勤定期券の1ヶ月分相当額を支給するのが一般的です。 マイカー通勤の場合、ガソリン単価・燃費方式と距離単価方式の大きく2つのパターンに分かれます。 ガソリン単価・燃費方式では、往復通勤距離にガソリン単価を燃費で割った数値を掛け、さらに通勤日数を掛けて算出します。 距離単価方式では、通勤距離に企業ごとに設定した距離単価(例:1kmあたり10~15円)を掛け、さらに通勤日数を掛けて算出します。 次に、 住宅手当について解説します。 住宅手当とは、従業員の家賃負担を軽減することを目的に支給される手当です。企業によっては、一定の支給条件を設けたうえで、住居費の一部を補助する形で支給されます。 この手当を受け取るためには、たとえば「本人名義で賃貸契約を結んでいること」「世帯主であること」「会社から一定の距離以内に居住していること」などが条件になるケースが一般的です。企業の制度設計によっては、配偶者や扶養家族の有無、勤務地の地域区分によっても支給額が変わることがあります。 実際の計算方法としては、家賃の50%を補助するパターンが多く見られますが、その場合でも支給額に上限を設けている企業が大半です。たとえば、家賃が8万円の従業員に対して「家賃の半額、ただし上限3万円」といった規定がある場合、計算上の補助額は4万円となりますが、上限に達するため実際の支給額は3万円となります。 家族手当(あるいは扶養手当)は、扶養している家族がいる従業員に対して支給される手当で、企業が従業員の家庭生活を支援するための制度です。法的な義務はないため、あくまで任意で制度設計されていますが、多くの企業で導入されている一般的な手当のひとつです。 支給対象となる家族の範囲は企業によって異なりますが、一般的には「配偶者」「子ども」が対象となり、それぞれに異なる金額が設定されています。たとえば、配偶者に対して月1万円、子ども1人につき月6,000円を支給するといった形です。また、子どもに関しては18歳未満または就学中に限定するなど、年齢による制限が設けられていることもあります。 実際の支給額の例を挙げると、配偶者と子ども2人を扶養している従業員の場合、配偶者手当として1万円、子ども手当として6,000円×2人分=1万2,000円が加算され、合計で2万2,000円が月額の家族手当として支給されることになります。 役職手当は、主任、係長、課長、部長などの職位にある従業員に対して、その 業務上の責任や管理的な役割を加味して支給される手当 です。マネジメント業務や部下の指導、目標管理など、職位ごとに異なる責任の大きさを給与に反映させるために設けられます。 支給額の相場は企業や業界により大きく異なりますが、たとえば主任には5,000円〜1万円、課長には2万〜5万円、部長には5万円以上といった段階的な設定が一般的です。これにより、職位が上がるごとに給与全体が上昇するインセンティブが形成されます。 なお、役職手当は「固定残業代」と誤解されがちですが、別物です。ただし、企業によっては役職手当に一定の残業代を内包する形(=みなし残業)で制度設計している場合もあり、その場合は労働契約書や就業規則に明確な記載が求められます。制度設計には注意が必要です。 これらの手当を正確に計算・支給するためには、具体的な計算方法を理解し、適用条件や制限事項を遵守することが不可欠です。例えば、手当の上限を設けたり、特定の条件を満たした従業員にのみ支給するなどのルールを明確にすることで、給与計算ミスを防ぎ、従業員の満足度を向上させることができます。 人事担当者は、これらの手当を正確に計算・支給することで、給与計算の効率化と正確性の向上を実現し、従業員との信頼関係を築くことができます。具体的には、給与計算ソフトの活用や定期的なチェックリストの導入など、実務的な対策を講じることが推奨されます。 複雑な勤務形態の給与計算例 シフト勤務者の給与計算 シフト勤務は、従業員が異なる時間帯や日程で働く柔軟な勤務形態です。この勤務形態は、業務のニーズに合わせて労働時間を調整できるため、飲食業や小売業、医療機関などで広く採用されています。シフト勤務者の給与計算は、標準的な給与計算に加えて、シフトごとの勤務時間や特定の手当を正確に反映させる必要があります。 シフト勤務者の労働時間計算方法では、各シフトの開始時刻と終了時刻、そして休憩時間を正確に把握することが重要です。例えば、ある従業員が午前9時から午後5時までシフト勤務し、休憩時間が1時間の場合、実働時間は7時間となります。シフトが異なる場合や、開始時刻が終了時刻を超える場合は、翌日として計算するルールを適用することが求められます。 シフト勤務に伴う割増賃金や手当の計算方法については、時間外労働、深夜労働、休日労働に対する割増賃金や各種手当を正確に計算する必要があります。例えば、時間外労働には基本給の25%の割増賃金が適用され、 月60時間超の残業の場合は、50%以上の割増賃金が発生します。深夜の時間帯に働いた場合には、労働時間が通常内か時間外かにかかわらず25%以上の割り増しが発生します。 時間外労働と深夜労働が重なった場合は、両方の割り増し分を合計した賃金が発生します。 これらの計算は、労働基準法に基づいて正確に行われるべきであり、給与計算ソフトの活用が推奨されます。 シフト勤務者の給与を正確に計算するためには、まずシフトごとの労働時間を正確に記録し、それに基づいて基本給や割増賃金、各種手当を計算することが重要です。また、給与計算システムの導入や定期的な確認作業を通じて、計算ミスを防ぎ、効率的な給与処理を実現するための具体的なガイドラインを遵守することが求められます。 時間外労働が多い従業員の計算例 時間外労働とは、従業員が法定労働時間を超えて働くことを指し、これには残業や休日出勤が含まれます。時間外労働が適用されるためには、事前に従業員の同意を得ることや、労働基準法に基づいた手続きを遵守する必要があります。適切な時間外労働の管理は、従業員の健康維持と企業の法的リスク回避に繋がります。 時間外労働が多い従業員の給与計算は、基本給に加えて時間外労働の時間数を元に割増賃金を計算する必要があります。例えば、基本時給が1,000円の従業員が月に20時間の時間外労働を行った場合、割増賃金として25%増しの1,250円が適用されます。この場合、時間外労働分の支給額は20時間 × 1,250円 = 25,000円となります。正確な計算を行うことで、従業員に適切な報酬を提供し、信頼関係を築くことができます。 割増賃金の計算方法は、時間外労働に対して基本給の25%増し、休日労働には35%増し、深夜労働には25%増しの割増率が法的に定められています。これらの割増率を適用する際には、労働時間の正確な記録と法定上限を遵守することが求められます。また、割増賃金の計算には、タイムカードや勤怠管理システムを活用して正確なデータを取得することが重要です。法的要件を満たすことで、企業は法的リスクを回避し、従業員の満足度を向上させることができます。 時間外労働が多い従業員の給与を正確に計算するためには、以下の実務的な対策が有効です。まず、勤怠管理システムの導入により、労働時間の正確な記録と自動計算を実現します。次に、給与計算ソフトを活用して割増賃金の自動計算機能を利用することで、計算ミスを防ぎます。さらに、定期的な給与計算のレビューを行い、法改正に対応することで、継続的な正確性を確保します。これらの対策を講じることで、時間外労働の多い従業員の給与を効率的かつ正確に管理し、従業員の信頼を維持することが可能となります。 複数の手当が適用される場合の計算例 給与計算において、複数の手当が適用されるケースは一般的です。例えば、通勤手当と住宅手当が同時に支給される場合、それぞれの手当をどのように計算し、適切に管理するかが重要になります。 複数の手当が適用される場合、各手当の重複計算や適用順序を明確に理解することが必要です。以下に具体例を挙げて解説します。 例えば、従業員Aさんには毎月の通勤手当として5,000円、住宅手当として20,000円が支給されるとします。この場合、まず基本給に各手当を加算し、総支給額を算出します。その後、控除項目を差し引いて差引支給額を計算します。 項目 金額(円) 基本給 250,000 通勤手当 5,000 住宅手当 20,000 総支給額 275,000 手当間の関係性や相互作用も給与計算に影響を与える要素です。例えば、住宅手当が基本給に含まれる場合と含まれない場合では、社会保険料や税金の計算に違いが生じます。このため、手当の設定や適用条件を事前に明確に定めておくことが重要です。 複数の手当を正確に計算・管理するためのポイントをまとめます。 手当の種類と支給基準を明確にする 各手当の目的や支給条件を明確にし、従業員に対して透明性を持たせる。 計算順序を統一する 手当の加算順序を統一し、計算ミスを防止する。 給与計算ソフトの活用 複数の手当を自動的に計算・管理できる給与計算ソフトを導入し、作業効率を向上させる。 定期的なレビューと更新 手当の支給条件や金額について定期的に見直し、最新の労働法や企業方針に適合させる。 これらの方法を実践することで、給与計算の正確性を高め、従業員の信頼を得ることができます。また、効率的な管理体制を構築することで、給与計算にかかる時間と労力を大幅に削減することが可能です。 まとめ:給与計算のポイントと効率化の未来 正確な給与計算のための重要なポイント 勤怠情報の正確な収集 勤怠情報は、従業員の労働時間や勤務状況を正確に把握するために欠かせないデータです。正確な勤怠情報 を収集することは、 給与計算の基礎となるだけでなく、労働基準法の遵守や適切な労務管理にも直結します。正確さを欠いた勤怠データは、給与ミスや法的トラブルの原因となりかねません。 勤怠データの収集方法には、主に以下のような手段があります タイムカード方式 従業員が出勤時と退勤時にカードを打刻する従来の方法です。シンプルで導入コストが低い一方、手動での集計が必要となり、ミスが発生しやすいという課題があります。 クラウド勤怠管理システム クラウド上で勤怠データを管理し、どこからでもアクセスできるシステムです。リモートワークや多拠点での勤務にも対応でき、データの一元管理が容易です。 ICカードやPCブラウザ、スマートフォンアプリでの打刻により勤怠情報を記録し、リアルタイムでのデータ管理を行うことで、手動入力によるミスを大幅に減少させることができます。 収集した勤怠データを正確に整理・確認するためには、以下の手順を踏むことが重要です データの整理 エクセルなどのスプレッドシートを用いてデータを一元管理するか、専用の勤怠管理ソフトウェアを使用して効率的に整理します。 データの確認 従業員ごとに労働時間を集計し、異常値や入力ミスがないかを確認します。定期的なチェックリストを設けることで、ミスの早期発見と修正が可能となります。 定期的なレビュー 月末や給与支給前にデータをレビューし、最終的な確認を行います。また、従業員からのフィードバックを受け付け、勤怠データの精度向上に努めます。 中小企業の人事担当者として、勤怠情報を正確に取りまとめるための実務的なアドバイスとしては、まず適切な収集ツールを選定し、従業員への使用方法を明確に周知することが重要です。また、定期的なデータチェックを行い、システムや手順に改善の余地がないかを検討することも大切です。さらに、給与計算ソフトや勤怠管理システムと連携させることで、データの一貫性と精度を高め、効率的な業務運営を実現することが可能です。 法的遵守と従業員への透明性確保 法的遵守と従業員への透明性確保は、給与計算において極めて重要な要素です。まず、法的遵守の重要性について理解することが必要です。労働基準法や税法などの関連法規を遵守することで、企業は法的なトラブルを避け、信頼性を高めることができます。具体的な実践方法としては、最新の法改正情報を常にチェックし、給与計算システムや手順を適宜更新することが挙げられます。 次に、給与計算における透明性の確保方法についてです。給与明細には支給額や控除額を詳細に記載し、従業員が自分の給与の内訳を容易に理解できるようにします。また、定期的な給与説明会を実施することで、従業員からの質問や不明点に対して迅速に対応し、透明性を高めます。これにより、従業員は自分の給与が正確に計算されていることを確認でき、安心感を得ることができます。 透明性の確保は、従業員との信頼関係を強化する上で重要な役割を果たします。給与計算が透明であることで、従業員は自分の労働に対する適切な報酬を受け取っていると感じ、モチベーションの向上や離職率の低下につながります。逆に、給与計算に不透明な点があると、従業員の不信感を招き、企業全体の士気にも悪影響を及ぼします。 最後に、人事担当者が法的遵守と透明性を確保するための ポイントをまとめます。 まず、定期的な法令研修を実施し、最新の法規制を把握することが重要です。次に、給与計算ソフトウェアを活用して、法令に基づいた正確な計算を自動化することを推奨します。また、従業員に対しては、給与明細の内容を丁寧に説明し、疑問点があればいつでも相談できる環境を整えることが信頼関係の構築に繋がります。 給与計算の効率化と未来の展望 給与計算業務のさらなる効率化への道 給与計算業務のさらなる効率化は、中小企業の人事担当者にとって重要な課題です。業務時間の短縮や正確性の向上により、従業員満足度を高め、労働法規の遵守を確実にすることが可能となります。 最新の技術、例えばAIやクラウドシステムを活用することで、給与計算プロセスの自動化が進みます。これにより、手動での計算ミスを減少させ、迅速な給与支給が実現できます。具体例として、クラウド型給与計算ソフトの導入は、リアルタイムでのデータ共有や更新が可能であり、遠隔地でも業務を管理できます。 さらに、プロセスの自動化やアウトソーシングの活用は、業務負担の軽減に寄与します。自動化ツールを使用することで、勤怠データの収集から給与支払いまでの一連の流れが効率化されます。アウトソーシングを利用すれば、専門知識を持つ外部の専門家に給与計算を任せることができ、人事担当者はより戦略的な業務に集中できます。 給与計算業務をさらに効率化するためには、まず現在の給与計算プロセスを詳細に分析し、 ボトルネック となっている部分を特定することが重要です。次に、適切な給与計算ソフトの選定や、AI技術を活用した自動化ツールの導入を検討してください。 必要に応じて、社労士等への業務委託を検討しましょう。これらにより、 業務の効率化と正確性の向上を同時に実現することが可能です。 従業員満足度向上に繋がる給与計算の重要性 給与計算の正確性と透明性は、従業員の満足度向上に大きく影響します。正確な支払いは従業員の信頼を築き、モチベーションの維持・向上に寄与します。例えば、給与の遅延や計算ミスがなくなることで、従業員は安心して業務に専念できる環境が整います。また、透明性の高い給与体系は、従業員が自身の報酬に納得しやすくなり、不必要な不満や疑念を減少させます。 従業員からのフィードバックを積極的に取り入れることで、給与計算プロセスの改善が可能です。具体的には、定期的なアンケートやヒアリングを通じて、給与明細や支給方法に関する意見を収集し、それを基にシステムの見直しや手続きの簡素化を図ります。例えば、給与明細に詳細な内訳を追加することで、従業員が自分の給与をより理解しやすくなり、透明性が高まります。 給与計算を通じて従業員への感謝や報酬を適切に表現することも重要です。例えば、業績に応じたボーナスやインセンティブを明確に設定し、公正に支給することで、従業員の努力や貢献に対する評価を具体的に示すことができます。また、定期的な昇給や手当の見直しを行うことで、従業員のキャリアパスや生活の安定をサポートし、長期的な満足度を高めることができます。 給与計算の正確性と透明性を保つことで、 人事担当者は、給与計算を従業員満足度向上のツールとして活用することができます。具体的なアドバイスとしては、まず給与計算プロセスの正確性を確保するために、最新の給与計算ソフトウェアを導入し、自動化を進めることが挙げられます。また、従業員とのコミュニケーションを密にし、給与に関する疑問や不安を迅速に解消する仕組みを整えることも重要です。さらに、定期的な給与見直しや手当の追加を行うことで、従業員のニーズに柔軟に対応し、働きがいのある職場環境を築くことができます。 給与計算の正確さが企業の信頼を築く 給与計算における正確な勤怠管理、法令に準拠した控除処理、各種手当の適用ルールの明確化は、従業員の信頼と企業の健全な運営に直結します。 また、シフト制や時間外労働が多い職場環境では、割増賃金や特殊手当の計算が複雑化しがちです。 こうした業務を効率よく、かつミスなくこなすためには、給与計算ソフトの活用やクラウド型勤怠管理システムの導入が有効です。 さらに、定期的な法改正への対応や、従業員への透明性ある説明の徹底により、企業の信頼性を高めることができます。 人事担当者としての業務の質を高めるためにも、給与計算の精度・効率・法的適合性を意識した運用が不可欠です。 今後の業務にぜひお役立てください。

企業の人事・労務担当者にとって、給与計算は毎月の業務の中でも特に手間と神経を使う領域です。 従業員の勤怠情報の収集から、各種手当や控除の適用、法令に基づいた正確な計算処理まで、多くの工程を経る必要があります。 加えて、働き方改革や法制度の変更などにより、給与計算業務は年々複雑化しています。 そのような背景の中、給与計算システムの導入は、業務の効率化と正確性の向上を図るうえで大きな味方となります。 給与計算ソフトを活用すれば、勤怠データの自動集計や明細作成、法令に基づく計算処理が自動化され、ミスの削減と作業時間の短縮が実現できます。 また、外部の専門家への委託や勤怠管理との連携、セキュリティや法的遵守の観点からも、多様な選択肢と対策が求められる今、最適な給与計算の体制を構築することは企業経営において不可欠です。 本記事では、給与計算業務を効率化し正確性を高めるための方法について、給与計算システムの活用法、導入のポイント、外部委託の活用、法的な注意点など多角的に解説します。 給与計算の効率化と正確性向上の方法 給与計算システムの活用 給与計算ソフトの導入メリット 給与計算ソフトの導入は、人事業務の効率化と正確性の向上に大きく貢献します。基本的な機能として、従業員の勤怠情報の自動集計、各種手当や控除の自動計算、給与明細の作成などが挙げられます。これにより、手動での計算ミスを防ぎ、業務負担を軽減することが可能です。 具体的な効果として、給与計算ソフトの導入により業務時間の大幅な短縮とエラーの減少が期待できます。例えば、従来の手動計算では毎月数時間かかっていた作業が、ソフト導入後は数十分で完了することが可能です。また、計算ミスが減ることで、再計算や従業員からの問い合わせ対応に費やす時間も削減されます。 給与計算ソフトを選定・導入する際のポイントとしては、自社のニーズに合った機能性、使いやすさ、コストパフォーマンスを考慮することが重要です。具体的には、導入後のサポート体制やアップデートの頻度、他の人事システムとの連携性なども確認する必要があります。これにより、長期的に安定して利用できるソフトを選ぶことができ、給与計算の複雑さを効果的に解消する手助けとなります。 勤怠管理システムの活用方法 勤怠管理システムの活用方法について解説します。 勤怠管理システムを使うと、 従業員の出退勤時間や休暇情報を正確に把握し、労務管理を効率的に行うことができます。 勤怠データを自動収集し給与計算ソフトに連携すると、 作業による入力ミスを防ぎ、給与計算の精度とスピードを向上させることが可能です。 給与計算システムの選び方 適切なシステムを選定することで、業務の効率化と正確性の向上が実現し、給与計算にかかる時間や手間を大幅に削減することが可能です。 給与計算システムを選定する際には、以下を考慮する必要があります: 機能性 自社の給与計算業務に必要な機能が備わっているかを確認します。例えば、時間外労働の自動計算や、各種手当の管理機能などが含まれているかどうかが重要です。 使いやすさ システムの操作が直感的で、導入後のトレーニングが容易かどうかを評価します。ユーザーインターフェースが分かりやすいことは、業務のスムーズな遂行に直結します。 コスト 初期導入費用や月額使用料、追加機能の費用など、総費用を比較検討します。予算内で最大限の機能を提供するシステムを選ぶことが重要です。 サポート体制 導入後のサポートが充実しているか、トラブル発生時の対応が迅速かどうかを確認します。信頼できるサポート体制は、システム運用の安定性を保証します。 システム比較のポイントとしては、実際の業務フローに適合するかどうかを具体的な事例を交えて検討することが有効です。また、 以下の要件に関しても見極めが必要です。 現在の給与計算プロセスとの互換性 将来的な業務拡大や変更に対応可能な柔軟性 データのセキュリティ対策 社会保険労務士や税理士への給与計算代行依頼 給与計算業務の負担を軽減し、正確性を確保するために、社会保険労務士や税理士への給与計算代行依頼は有効な手段です。本セクションでは、給与計算代行の基本概要とその必要性、さらに専門家へ依頼時のポイント・注意点について詳しく解説します。 給与計算を社会保険労務士や税理士といった外部の専門家への依頼は、さまざまなメリットがありますが、注意点もあります。まずコストの増加が考えられます。外部委託には専門家への報酬が必要となり、これが企業の予算に直接影響を与える可能性があります。特に中小企業においては、予算の制約が大きな課題となるため、コスト面での負担は無視できません。 さらに、外部専門家とのコミュニケーション不足や情報漏洩のリスクもデメリットとして挙げられます。例えば、給与情報や従業員の個人データを外部に提供する際に、適切な情報管理が行われないとデータ漏洩の危険性があります。また、専門家との連携がスムーズに行かなかった場合、誤った情報伝達や指示の不一致が発生し、給与計算ミスにつながる可能性もあります。 さらに、自社内でのノウハウの蓄積が欠如し、専門家に依存しすぎることで、企業内部の給与計算能力が低下する恐れがあります。これにより、専門家が不在の場合や契約を終了した際に、迅速かつ正確な給与計算が困難になるリスクが生じます。 これらの注意点を理解した上で、検討する必要があります。 外部委託を利用せずに、自社内での給与計算能力を向上させる研修を実施したり、情報漏洩リスクを最小限に抑えるための契約条件やセキュリティ対策を強化する等の施策と比較しましょう。 また、外部専門家とのコミュニケーションを円滑にするための定期的なミーティングや情報共有の仕組みを整えることも重要です。 給与計算を依頼する際の料金の相場 給与計算代行の料金体系は、基本料金、従業員数に応じた料金、オプション料金など、様々な要素で構成されています。基本料金には通常、初期設定や基本的な給与計算サービスが含まれます。従業員数に応じた料金は、会社の規模や従業員数に応じて変動し、多くのサービスプロバイダーは一定の従業員数まで定額料金を設定しています。また、カスタマイズされたレポート作成や特定の法的要件への対応など、追加のオプションサービスには別途料金が発生する場合があります。 市場における一般的な料金相場は、サービス内容や提供会社によって異なりますが、一般的には 月額数万円から数十万円 が相場とされています。例えば、従業員数が20人の中小企業向けには、 月額40,000円から50,000円程度のプランが多く見られます 。より大規模な企業や高度なカスタマイズが必要な場合、料金はこれを超える傾向があります。 料金に含まれるサービス内容や追加費用については、各社のサービスパッケージによって異なりますが、基本的な給与計算の他に、年末調整、社会保険手続き、労働保険の申請代行などが含まれることが一般的です。一方、特殊な要件やカスタマイズが必要な場合には、追加費用が発生することがあります。事前にサービス内容と料金体系を詳細に確認し、必要なサービスのみを選択することが重要です。 適正な料金を判断し、コストパフォーマンスの高いサービスを選択するためのガイドラインとしては、まず自社の給与計算ニーズを明確にし、必要なサービスを洗い出すことが重要です。次に、複数のサービスプロバイダーの料金体系と提供内容を比較検討し、料金だけでなくサービスの品質やサポート体制も考慮に入れることが推奨されます。また、口コミや評判を参考にすることで、価格以上の価値を提供するサービスを選ぶことが可能です。最後に、契約前に料金の透明性と追加費用の有無を確認し、明確な見積もりを取得することで、信頼できる選択を行うことができます。 給与計算における法的遵守とリスク管理 労働基準法に基づく賃金支払いの原則 企業が従業員に対して公正かつ適切な賃金を支払うための5つの原則を説明します。 これらの原則を遵守することで、従業員の信頼を得るとともに、労働環境の改善や企業の持続的な成長に寄与します。 1. 全額支給は、従業員に支払うべき全ての賃金を欠かさず支給することを意味します。これには基本給だけでなく、各種手当や割増賃金も含まれます。例えば、時間外労働を行った場合には、法定の割増率に基づいて正確に残業代を計算し、全額を支給する必要があります。これにより、従業員の不満を防ぎ、信頼関係を築くことができます。 2. 現金支給は、賃金を現金または現金に準じた形で支払うことを指します。現金支給により、従業員は自らの給与を直接管理でき、透明性が確保されます。 3. 直接支給は、賃金を従業員本人に直接支払うことを意味します。第三者を介さずに支給することで、賃金の遅延や誤配を防ぎます。 4. 期限内支給は、賃金を法定の支払期日までに支給することを求めます。例えば、月末締めで翌月10日までに給与を支払うなど、明確な支払いスケジュールを設定し、これを確実に守ることが重要です。 5. 労働内容に基づく支給は、従業員の実際の労働内容や成果に基づいて賃金を支払うことを意味します。基本給に加えて、成果や能力に応じた手当やボーナスを適切に支給することで、従業員のモチベーションを高め、業務効率の向上に繋げることができます。例えば、営業成績に応じたインセンティブを設けることで、従業員の目標達成意欲を促進します。 これらの5原則を遵守することで、企業は法的なリスクを回避し、従業員との信頼関係を強化することができます。また、正確かつ透明な賃金支払いは従業員の満足度を高め、長期的な定着率の向上にも寄与します。人事担当者は、これらの原則を実践するために、給与計算システムの導入や定期的なプロセスの見直しを行うことが推奨されます。 労働時間の記録と保存義務 労働時間の記録と保存義務は、企業が遵守すべき重要な法的義務です。この義務を適切に果たすことで、企業は労働基準法を遵守し、従業員との信頼関係を築くことができます。 まず、労働時間の正確な記録は法的に義務付けられており、これを怠ると法的リスクや罰則の対象となる可能性があります。正確な記録は、従業員の労働条件を明確にし、賃金計算の基礎となります。また、監査や労働基準監督署の調査においても、適切な記録が求められます。 労働時間の記録方法としては、従来のタイムカードや最近では電子システムの導入が一般的です。タイムカードはシンプルで導入コストが低い一方、電子システムは自動集計やリアルタイムでのデータ管理が可能であり、効率的な運用が期待できます。具体例として、クラウドベースの勤怠管理システムを利用することで、リモートワーク環境でも正確な労働時間の記録が可能です。 記録データの保存期間は、労働基準法により 5年間の 保存が義務付けられています。保存方法には、紙媒体のファイル保存や電子データとしての保存がありますが、電子データの場合はセキュリティ対策を十分に施すことが求められます。安全なクラウドサービスの利用や、アクセス権限の管理を徹底することで、データの漏洩や改ざんを防止できます。 労働時間を正確に記録・保存するためには、信頼できる勤怠管理システムを選定し、社員全員に適切な使用方法を教育することが重要です。また、定期的に記録データを確認し、誤りがないかをチェックする仕組みを導入することで、給与計算ミスの防止に繋げることができます。さらに、法律の最新情報に常に目を向け、必要に応じてプロセスを更新することで、法的遵守を維持しつつ、効率的な給与計算を実現することが可能です。 情報管理と給与明細の取り扱い 個人情報保護という観点での給与情報の取り扱い 給与情報には、従業員の個人情報が多数含まれており、その機密性を保つことが極めて重要です。具体的には、基本給、各種手当、支給額、控除額、税金情報などが該当します。これらの情報が漏洩すると、従業員のプライバシー侵害や企業の信頼失墜につながる可能性があります。 企業は、個人情報保護法などの法的要件を遵守し、給与情報を適切に管理する責任があります。例えば、アクセス権限の限定やデータの暗号化など、技術的および組織的な対策を講じる必要があります。また、従業員への情報取り扱いに関する教育や、定期的なセキュリティチェックも重要です。 給与情報の適切な管理方法としては、アクセス制限を設け、必要な担当者のみが閲覧・編集できるようにすることや、データの暗号化を実施することが挙げられます。さらに、給与情報をクラウド上で管理する際には、信頼性の高いサービスプロバイダーを選定し、セキュリティ対策が十分に施されていることを確認することが求められます。 これらのガイドラインを遵守することで、給与計算ミスの防止や従業員満足度の向上に寄与できます。 給与計算記録の保存期間と法的義務 給与計算記録の適切な保存は、企業が法的義務を遵守し、労働基準法などの関連法規に基づいて運営されていることを示すために不可欠です。ここでは、給与計算記録の保存期間と法的義務について詳しく解説します。 給与明細、源泉徴収票、年末調整の資料などの給与計算記録は 最低5年間の保存が義務付けられています。 これらの記録は、従業員ごとに整理し、税務署や労働基準監督署からの問い合わせがあった場合に対応できるよう、適切な状態で保管することが求められます。 紙媒体での保存の場合は、防火・防水対策が施されたキャビネットに保管し、電子データでの保存の場合は、パスワード保護や暗号化を行うことが重要です。また、アクセス権限を限定し、必要な担当者のみが閲覧・操作できるようにすることで、情報漏洩のリスクを低減します。 法的義務を遵守し、給与計算記録を適切に管理するためには、 まず、給与計算記録の保存スケジュールを作成し、定期的に見直すことが推奨されます。次に、保存方法に関する社内ポリシーを明確化し、従業員に周知徹底させることが重要です。さらに、定期的な監査やチェックリストの活用を通じて、記録管理の精度を維持し、法的義務を確実に履行する体制を整えることが求められます。 給与計算の最適化は企業成長の土台に 給与計算業務は、企業の信頼性と従業員満足度を左右する重要な業務です。 人為的ミスの防止、業務時間の短縮、法令遵守、個人情報の保護といった観点からも、適切なシステムや体制の整備が求められます。 給与計算ソフトの導入により、日々の作業負担を軽減しながら、迅速かつ正確な処理を実現することが可能です。 さらに、勤怠管理システムとの連携や、専門家による外部委託の活用、法的義務を遵守した記録管理といった取り組みを組み合わせることで、企業全体としての人事労務管理の質を高めることができます。 今後も法改正や多様な働き方への対応が求められる中で、自社にとって最適な給与計算体制を構築することは、単なる業務改善にとどまらず、経営基盤の強化にもつながります。 今回紹介したポイントを参考に、自社の現状と将来を見据えた給与計算の最適化をぜひご検討ください。 実務ではどう活かされている?給与計算のリアルな現場事例 今回解説した通り、システムを活用することは正確で効率的な給与計算を実現するための大変有効なツールです。 とはいえ、「実際の現場ではどのように活用されているのか?」「実際のケースで当てはめるとどのような形で機能するのだろうか?」という疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。 次回は、企業の実例をもとに、給与計算の流れや工夫、活用されているツールなど、 実務に役立つ情報をわかりやすくご紹介します。 ▶ 続きを読む:実例でわかる!給与計算の基本と実務ポイントを解説

給与計算は、企業活動における重要な業務のひとつです。 従業員の労働に正しく報いるためには、勤務時間の記録や賃金計算のルールを正確に理解し、適切に運用することが不可欠です。 特に、労働時間の計測や休憩時間の管理、時間外労働や休日労働の取り扱いなどは、法令遵守の観点からも厳密な対応が求められます。 これらの管理が不十分であると、賃金の過不足や法的トラブルにつながるリスクが高まります。 一方で、勤怠管理や給与計算の業務は煩雑で、管理者にとって大きな負担となることも事実です。 そこで本記事では、給与計算の正確性と効率性を高めるために必要な基礎知識として、「労働時間と賃金計算の基本」について詳しく解説します。 勤務開始・終了時刻の記録方法から、時給・日給・月給の違い、各種手当や割増賃金の計算、そして社会保険料や税金などの控除の仕組みまで、実務に即した情報を整理しました。 これから給与計算を担当される方はもちろん、業務改善を検討しているご担当者の方にも、ぜひご一読いただきたい内容です。 労働時間と賃金計算の基本 労働時間の計測方法 勤務開始時刻と終了時刻の計算ルール 勤務開始時刻と終了時刻の正確な計算ルールは、給与計算の基礎となる重要な要素です。以下では、 労働時間の正確な計測方法、 開始時刻と終了時刻の記録方法 ついて詳しく解説 します。 労働時間を正確に計測することは、従業員の働きに対する正当な報酬を保証するために不可欠です。不正確な労働時間の記録は、給与計算ミスや法的トラブルの原因となります。労働時間の計測には、タイムカードや電子勤怠システムの活用が推奨されます。これにより、出退勤時間の記録が自動化され、ヒューマンエラーを最小限に抑えることができます。 開始時刻と終了時刻の記録方法について、時刻の記録ではなく日付と合わせて記録することが必要です。例えば開始時刻が22:00で終了時刻が06:00の場合、06:00-22:00の勤務として集計されないよう、終了時刻を翌日の06:00として記録する必要があります。 実務上の対応策として、システムを利用することで勤務開始と終了の時刻を明確に区別し、自動的に翌日に記録される仕組みを導入することがおすすめです。 これらの記録 ルール を正確に実施することで、給与計算の正確性と効率性が向上し、労働時間計測に関する悩みを解消することが可能になります。 休憩時間の取り扱い 給与計算において「休憩時間の適切な取り扱い」は、法令遵守と従業員満足度の向上に直結する重要な要素です。まず、法定休憩時間の基準を正確に理解し、これを厳守することが企業の信頼性を高める基盤となります。 法定休憩時間は、労働基準法により定められており、一般的には「労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩」が必要とされています。この基準を遵守することで、労働者の健康維持や作業効率の向上に寄与し、結果として従業員のモチベーションや企業への信頼感を高めることが可能です。 次に、休憩時間の記録方法についてですが、正確な記録は給与計算への影響を避けるために不可欠です。具体的には、タイムカードや電子勤怠システムを活用し、従業員が実際に取得した休憩時間を正確に反映させることが求められます。例えば、シフト勤務者の場合、各シフトごとに休憩時間を明確に記録し、総労働時間から自動的に差し引くことで、手動計算によるミスを防ぐことができます。 さらに、休憩時間に関するトラブルを未然に防ぐためには、従業員への周知徹底が重要です。具体的には、就業規則や給与規定において休憩時間の取り方を明確に記載し、定期的な研修や説明会を実施することで、従業員全体の理解を深めることが効果的です。また、休憩時間に関する問い合わせや問題が発生した際には、迅速かつ適切に対応する体制を整えることも重要です。 これらのポイントを踏まえた上で、給与計算プロセスにおける休憩時間の管理を効率化し、正確性を高めるための具体的な対策を講じることが求められます。例えば、最新の勤怠管理システムを導入することで、休憩時間の自動記録と給与計算の連携を実現し、業務負担の軽減とミスの防止を図ることができます。 時間外労働や休日労働の計算方法 時間外労働や休日労働の計算方法を正確に理解することは、従業員に適切な割増賃金を支払うために欠かせません。正確な計算は、従業員の信頼を維持し、法的リスクを回避するためにも重要です。 以下に、時間外労働および休日労働の計算方法について詳しく解説します。 時間外労働(残業)および休日労働の定義と適用条件時間外労働とは、法定労働時間を超えて働く時間を指し、休日労働は法定休日に労働することを意味します。法定労働時間は一般的に1日8時間、週40時間と定められており、これを超える労働が時間外労働に該当します。また、法定休日に行われる労働が休日労働とされます。これらの労働には、通常の賃金に加えて割増賃金が適用されます。 割増賃金率の計算方法 割増賃金率は、時間外労働や休日労働に対して支払う追加の賃金率を指します。例えば、時間外労働の場合、通常の賃金の25%以上の割増が義務付けられています。休日労働に関しては、35%以上の割増賃金が必要です。具体的な計算方法は以下の通りです 時間外労働賃金 = 通常賃金 × 1.25 休日労働賃金 = 通常賃金 × 1.35 例えば、時給1,000円の従業員が2時間の時間外労働を行った場合、時間外賃金は1,000円 × 1.25 × 2時間 = 2,500円となります。 実際の給与計算における時間外労働や休日労働の取り扱い方法、注意点 給与計算において時間外労働や休日労働を正確に反映させるためには、以下の点に注意が必要です 正確な労働時間の記録: 労働時間を正確に記録することで、割増賃金の計算ミスを防ぎます。 法定割増率の遵守: 労働基準法に基づき、適切な割増率を適用することが求められます。 計算方法の一貫性: 一貫した計算方法を採用し、従業員ごとに異なる計算が行われないようにします。 最新の法改正への対応: 労働基準法の改正に伴い、割増率や適用範囲が変更されることがあるため、常に最新情報を確認します。 賃金計算の基本式と具体例 時給制の場合の計算方法 時給制は、従業員に対して働いた時間に基づいて賃金を支払う給与形態です。基本的な概念として、時給制では従業員が実際に働いた時間に応じて報酬が決定されるため、フレキシブルな労働形態に適しています。特にアルバイトやパートタイムの従業員、プロジェクトベースで働く契約社員などに広く適用されています。また、時給制は労働時間の柔軟性が高く、業務量に応じた効率的な人員配置が可能であるため、多様な業種や職種で採用されています。 労働時間の計算方法について説明します。まず、勤務開始時刻と終了時刻を記録します。例えば、開始時刻が9:00、終了時刻が17:00の場合、勤務時間は8時間となります。次に、休憩時間を差し引きます。通常、1時間の休憩を取る場合、労働時間は7時間となります。このように、労働時間の正確な計算には開始時刻、終了時刻、および休憩時間の管理が不可欠です。 支給額の算出方法について詳述します。時給制では、基本給は契約時に定められた時給に実働時間を掛け合わせて計算します。例えば、時給1,000円で7時間働いた場合、基本給は7,000円となります。さらに、時間外労働が発生した場合は、法定割増率を適用して割増賃金を計算します。例えば、残業時間が2時間で割増率が25%の場合、割増賃金は1,000円 × 1.25 × 2時間 = 2,500円となります。総支給額は基本給と割増賃金を合計した金額になります。 時給制給与計算の複雑さを解消するための具体的なステップを提供します。まず、正確な勤怠管理システムを導入し、労働時間の記録を自動化します。次に、給与計算ソフトウェアを活用して、基本給や割増賃金の計算を自動化し、ヒューマンエラーを減少させます。さらに、定期的な確認作業を実施し、計算ミスを早期に発見・修正する体制を整えます。これにより給与計算の複雑さを効果的に解消し、効率的かつ正確な給与計算を実現することが可能となります。 日給制の場合の計算方法 日給制とは、従業員の給与を日単位で計算・支給する給与体系のことを指します。主に臨時的な業務や短期間の契約社員、アルバイト・パートタイム労働者に適用されることが多く、働いた日数に応じて給与が決まるため、働く日数が不定期な場合に柔軟に対応できます。日給制の適用対象としては、季節労働者やイベントスタッフ、プロジェクトベースの従業員などが挙げられます。 日給制の給与計算は、労働日数と日給額の設定が基本となります。例えば、日給が10,000円で1ヶ月に20日働いた場合、総支給額は200,000円となります。計算の際には、出勤日数を正確に把握することが重要です。具体的には、出勤簿や勤怠管理システムを活用して労働日数を記録し、日給額との掛け合わせで総支給額を算出します。正確な労働日数の把握は、給与計算の基礎であり、従業員とのトラブルを防ぐためにも欠かせません。 日給制における割増賃金や各種手当の計算も重要なポイントです。時間外労働や深夜労働、休日労働が発生した場合には、通常の給与に対して法定の割増率で賃金を支払う必要があります。また、通勤手当や住宅手当などの各種手当についても、日給に追加して計算・支給します。日給制特有の注意点としては、労働時間の管理が曖昧になりがちであり、正確な計算を行うために勤怠管理システムの導入や定期的な確認が求められます。割増賃金や手当の適切な計算は、従業員の満足度を高め、法令遵守を確実にするために不可欠です。 効率的に日給計算を行うための実務的なアドバイスとして、まずは信頼性の高い勤怠管理システムを導入し、労働日数や時間を自動的に記録・集計することが挙げられます。これにより、手動での計算ミスを防ぎ、時間を大幅に節約できます。また、給与計算ソフトを活用することで、割増賃金や手当の自動計算が可能となり、正確性が向上します。さらに、従業員とのコミュニケーションを密にし、給与明細の内容を丁寧に説明することで、信頼関係を築きやすくなります。これらの方法を取り入れることで、給与計算の効率化と正確性の向上を実現し、従業員の満足度向上にも繋げることができます。 月給制の場合の計算方法 月給制とは、従業員に対して毎月一定額の給与を支給する給与体系であり、その安定性と予測可能性が大きな利点です。月給制の主な利点としては、企業側が給与計算を簡素化できる点や、従業員にとって収入が安定することで生活設計がしやすくなる点などが挙げられます。また、基本給を基に各種手当や割増賃金が計算されるため、給与体系が明確で透明性が高いことも特徴です。 月給制の場合、まず基本給を設定します。基本給は従業員の職務内容や経験、能力に基づいて決定され、例えば月額30万円とします。そこに各種手当(通勤手当、住宅手当など)や割増賃金(時間外労働手当、深夜手当)を加算して総支給額を算出します。例えば、基本給30万円に通勤手当1万円、役職手当2万円を加えると、総支給額は33万円となります。 さらに、時間外労働や休日労働が発生した場合には、これらの追加労働に対して別途計算を行います。時間外労働の場合、法定割増率に基づいて追加の支給額を計算します。例えば、基本給に基づく割増基礎単価が1,500円の場合、時間外労働の割増率25%を適用すると、時間外労働1時間あたりの支給額は1,875円となります。このように、時間外や休日労働が発生した際には、正確な計算方法を用いて追加の給与を支給することが重要です。 月給制の給与計算を正確に行うためには、以下の具体的なステップを踏むことが推奨されます。まず、各従業員の基本給と各種手当の設定を明確にし、給与明細に正確に反映させます。次に、時間外労働や休日労働の発生を適時記録し、法定割増率に基づいた正確な計算を行います。最後に、給与計算ソフトの活用や定期的なチェックリストの導入により、計算ミスの防止と業務の効率化を図ることで、従業員満足度の向上につなげることができます。 支給額の計算:基本給、手当、割増賃金 基本給の計算方法 基本給の計算方法は、従業員に対する公正で正確な給与支払いの基盤を築くために欠かせない要素です。本節では、基本給の定義とその重要性を解説し、契約内容や職務内容に基づいた基本給の設定方法、さらに最低賃金ルールの遵守方法や法的要件について詳しく説明します。これにより、給与計算の正確性を確保し、従業員との信頼関係を築くための実務的なアドバイスを提供します。 基本給の定義と契約内容の確認 基本給の正確な定義と契約内容の確認は、給与計算の基盤となる重要な要素です。適切に設定・管理することで、従業員との信頼関係を築き、労働法規を遵守した運営が可能になります。以下では、基本給の具体的な定義から契約書への明示方法、変更時の手続きまで詳しく解説します。 基本給の具体的な定義とその役割基本給とは、従業員が労働に対して受け取る固定的な給与のことを指します。これは、職務内容や責任、経験年数などに基づいて設定され、給与体系の基礎となる要素です。基本給は、各種手当や賞与の計算基準となるため、その正確な設定は給与計算全体の正確性に直結します。 労働契約書や雇用条件通知書における基本給の明示方法労働契約書や雇用条件通知書には、基本給の金額を明確に記載する必要があります。具体的には、月額または年額での金額を記載し、支給日や支払い方法についても詳細に記述します。また、基本給に含まれない各種手当や賞与についても別途明示することで、従業員との誤解を防ぎます。 基本給の変更時に必要な手続きや従業員への通知方法 基本給を変更する場合は、労働基準法に基づき、従業員に対して適切な手続きと通知を行う必要があります。変更前には書面での通知を行い、変更後の基本給額や変更理由を明確に伝えることが求められます。また、従業員の同意を得るためのミーティングや説明会を開催し、変更内容に関する質問や疑問に丁寧に対応することが重要です。 基本給の正確な設定と管理を行うための具体的なガイドライン基本給の設定と管理を正確に行うためには、以下のポイントに注意することが必要です 市場調査を行い、同業他社の給与水準を参考にする。 従業員の職務内容や責任範囲に応じた適正な金額を設定する。 定期的に基本給の見直しを行い、経済状況や企業の業績に応じて調整する。 給与計算ソフトを活用し、基本給の管理や変更履歴を正確に記録する。 これらのガイドラインを遵守することで、基本給の設定ミスを防ぎ、効率的かつ正確な給与管理を実現することができます。 最低賃金ルールの遵守 給与計算において「最低賃金ルールの遵守」は極めて重要です。最低賃金法は、労働者が適正な賃金を受け取る権利を保障するものであり、これを遵守することは企業の社会的責任でもあります。 まず、最低賃金法の基本概要とその適用対象について理解することが必要です。最低賃金法は、全ての労働者に対して最低限の賃金を保証するものであり、正社員やパートタイムを問わず適用されます。具体的には、労働基準法に基づき、地域ごとや特定の産業や職種に対して設定された最低賃金額を下回る給与を支払うことは禁止されています。 次に、地域別最低賃金の確認方法とその反映方法について解説します。日本では、最低賃金は都道府県ごとに異なります。各都道府県の労働局や公式ウェブサイトで最新の最低賃金を確認し、給与計算システムに正確に反映させることが重要です。例えば、東京都の最低賃金は毎年改定されるため、最新情報を定期的にチェックし、システムを更新する習慣をつけましょう。 最低賃金を下回らない給与計算を実施するための手順やチェックポイントも押さえておく必要があります。具体的には、以下のステップを踏むことで遵守を確実にします。 労働契約書の確認:各従業員の最低賃金が確実に反映されているか確認します。 定期的な監査:給与計算プロセスを定期的に見直し、最低賃金遵守をチェックします。 従業員への説明:給与明細に最低賃金を基にした計算方法を明示し、透明性を確保します。 次に、最低賃金を確実に遵守するための実務的なアドバイスを提供します。まず、最新の最低賃金情報を常に把握するために、定期的に労働局の情報を確認し、給与計算ソフトを最新の状態に保ちましょう。また、給与計算におけるダブルチェックの体制を整えることで、ミスを未然に防ぐことが可能です。さらに、従業員からの給与に関する問い合わせに迅速かつ正確に対応できるよう、明確な給与計算マニュアルを作成し、関係者全員に共有しておくことが重要です。 各種手当の計算方法 通勤手当や住宅手当の取り扱い 給与計算における通勤手当および住宅手当の取り扱いは、従業員の福利厚生を充実させる重要な要素です。これらの手当は、従業員の通勤費用や住居費用を補助することで、働きやすい環境を提供し、従業員の満足度を向上させる目的があります。 通勤手当は、従業員が職場までの交通費を補助するために支給される手当です。通常、公共交通機関の利用費や自家用車のガソリン代などが対象となります。計算方法は、実際にかかった交通費をもとに支給額を決定するか、定額で支給する場合があります。支給基準としては、距離や利用交通機関の種類に応じて異なる場合が多く、具体的な例として以下のような計算方法があります。 例えば、片道の通勤距離が10キロメートルの場合、公共交通機関を利用する従業員には実際の交通費を支給し、自家用車を利用する従業員にはガソリン代相当額を支給することが一般的です。 住宅手当は、従業員の住居費用を補助するために支給される手当です。これは、特に転勤や勤務地が遠方にある場合に支給されることが多く、従業員の生活安定を図る目的があります。住宅手当の計算方法は、住居費の一定割合を支給する方法や、実際にかかった住宅費を基に支給額を決定する方法があります。例えば、月額家賃の30%を支給する場合や、上限を設定して支給するケースがあります。 これらの手当は、税務上の取り扱いにも注意が必要です。通勤手当については、一定の範囲内であれば非課税となりますが、支給額が基準を超えると課税対象となります。例えば、 2025年現在 、電車・バス通勤者の通勤手当は最も経済的かつ合理的な経路および方法による通勤手当や通勤定期券などの金額が1か月当たり15万円以内であれば非課税となり、マイカー・自転車通勤者は片道の通勤距離によって非課税となる限度額が決まっていますまた、住宅手当も一定の条件下で非課税となる場合がありますが、詳細な要件を満たす必要があります。 これらの手当を正確に計算・管理するためには、以下の実務的なガイドラインを参考にしてください。 手当の支給基準を明確に定める 通勤距離や住居費の上限を設定し、支給額の計算方法を統一する。 最新の税法を確認する 非課税限度額や税務上の取り扱いについて定期的に見直し、法令遵守を徹底する。 従業員とのコミュニケーションを図る 手当の計算基準や支給額について、従業員に対して明確に説明し、不明点がないようにする。 給与計算ソフトの活用 手当の計算を自動化することで、計算ミスを防ぎ、効率的な管理を実現する。 これらのガイドラインを実践することで、通勤手当や住宅手当の正確な計算・管理が可能となり、従業員の満足度向上や給与計算ミスの防止に繋がります。 家族手当や役職手当の計算ポイント 家族手当および役職手当の計算ポイントについて詳しく解説します。これらの手当の定義と役割、計算方法や支給基準、および適用条件や対象者の確認方法について触れ、正確な手当の計算・支給を支援します。 特別手当(例:年末年始手当)の計算方法 特別手当とは、従業員のモチベーションを高めるためや特定の時期に支給される追加の給与を指し、その主な目的は従業員の労働意欲の向上や企業の福利厚生の一環として機能します。特に年末年始手当は、年末の繁忙期や新年のスタートに際して従業員に対する感謝の意を示すために支給されることが一般的です。 具体的な特別手当の計算方法について、以下に例を挙げて説明します。例えば、年末年始手当を基本給の1ヶ月分として支給する場合、基本給が30万円の従業員であれば、特別手当として30万円が追加支給されます。また、業績に応じたインセンティブとして手当を設定する場合、個々の成果に基づいて支給額を決定することも可能です。このような計算方法を正確に行うことで、従業員に対する公平な報酬が実現できます。 特別手当の税務上の取り扱いや支給条件についても重要なポイントです。特別手当は通常の給与と同様に課税対象となりますが、非課税となる範囲や条件も存在します。例えば、福利厚生として支給される一定の手当は非課税扱いとなる場合があります。また、手当の支給条件として、一定の業績基準や勤続年数を満たすことが求められることもあります。これらの税務上の要件を正確に理解し、適切に対応することが求められます。 特別手当を正確に計算・支給するためには、以下の実務的なアドバイスが有効です。まず、手当の計算基準や支給条件を明確に定め、従業員に対して透明性を持って説明することが重要です。また、給与計算ソフトウェアを活用して自動化を図ることで、計算ミスを防ぎ、効率的な手当支給が可能となります。さらに、最新の税法に関する情報を常にアップデートし、適切に対応することで、法令遵守を確実に行うことができます。 割増賃金の計算方法 時間外労働の割増率と計算方法 時間外労働の割増率と計算方法について詳述します。まず、時間外労働とは、法定労働時間(通常1日8時間、週40時間)を超えて労働することを指し、これに対しては法定の割増賃金が支払われます。日本の労働基準法では、時間外労働に対して25%の割増率が適用されることが一般的です。 次に、実際の給与計算における時間外労働の計算方法を具体例を用いて解説します。例えば、従業員Aさんの時給が1,000円であり、1ヶ月に20時間の時間外労働が発生した場合の計算方法は以下の通りです。 基本の時給: 1,000円 時間外労働時間: 20時間 割増率: 25% 割増賃金: 1,000円 × 25% = 250円 時間外賃金: (1,000円 + 250円) × 20時間 = 25,000円 以上の計算により、Aさんの時間外労働に対する賃金は25,000円となります。 労働時間の正確な記録方法についても重要です。労働時間の記録には、タイムカードや電子勤怠管理システムの活用が推奨されます。これにより、実際の労働時間を正確に把握し、割増賃金の計算に誤りが生じるリスクを最小限に抑えることができます。 具体的な計算手順は以下の通りです 従業員ごとに月間の総労働時間を確認する。 法定労働時間を超えた時間を時間外労働時間として計上する。 時間外労働時間に対する割増率を適用し、割増賃金を算出する。 基本給に割増賃金を加算し、総支給額を確定させる。 これらの手順を踏むことで、時間外労働の正確な計算を実現し、給与計算ミスを防止することができます。また、正確な時間外労働の支払いは従業員の信頼関係を強化し、満足度の向上にも繋がります。 最後に、正確な計算を行うためのポイントをまとめます。 定期的な勤怠データの確認と更新 最新の労働基準法の遵守と法改正に対応する 給与計算ソフトウェアの導入による自動化の活用 これにより、時間外労働の割増賃金計算の正確性を高め、従業員との信頼関係を維持・向上させることができます。 深夜労働の割増率と計算方法 深夜労働に対する割増賃金は、従業員の健康と生活の質を保護するために法的に定められています。ここでは、「深夜労働の割増率」と「計算方法」について詳しく解説します。 深夜労働の定義と法定割増率: 深夜労働とは、一般的に午後10時から午前5時までの間に行われる労働を指します。日本の労働基準法では、深夜労働に対しては通常の賃金の25%上乗せが義務付けられています。これは従業員の夜間の労働負担を補償するための措置です。 深夜労働に対する割増賃金の計算方法: 深夜労働の割増賃金は、基本給を基に計算します。例えば、基本時給が1,000円の場合、深夜労働時の時給は1,250円(1,000円 × 1.25)となります。具体的な計算例として、深夜に2時間働いた場合の割増賃金は、1,250円 × 2時間 = 2,500円となります。 深夜労働の記録方法や計算時の注意点: 深夜労働を正確に計算するためには、従業員の労働時間を正確に記録することが不可欠です。システムを使用して労働時間を自動的に記録することが推奨されます。また、深夜労働と通常労働の区別を明確にし、割増率の適用を正確に行うことが重要です。 深夜労働を正確に計算するための実務的なアドバイス: 深夜労働の計算を正確に行うためには、給与計算ソフトウェアの活用が有効です。これにより、割増賃金の計算ミスを防ぎ、効率的に給与計算を行うことができます。また、定期的なシステムの見直しやスタッフの教育を行うことで、継続的な正確性を保つことが可能です。 休日労働の割増率と計算方法 休日労働とは、法定休日に従業員が働くことを指し、通常の賃金に対して法定割増率が適用されます。労働基準法では、休日労働に対して最低でも35%以上の割増賃金の支払いが義務付けられています。 休日労働に対する割増賃金の計算方法は、基本的な賃金に割増率を掛けて算出します。例えば、基本時給が1,000円の場合、35%の割増率を適用すると、休日労働時の時給は1,350円となります。この計算方法は、従業員の支給額が法定基準を下回らないようにするために重要です。 休日労働の記録方法としては、正確な勤務時間の記録が不可欠です。具体的には、出勤時刻と退勤時刻をしっかりと記録し、休憩時間を正確に差し引く必要があります。また、休日労働が発生した場合には、その理由と時間を明確に記載することで、後日の計算ミスやトラブルを防ぐことができます。 休日労働を正確に計算するためのポイントをまとめます。 労働契約書や就業規則に休日労働の条件を明確に定める。 勤怠管理システムを活用して、休日労働時間を正確に記録・管理する。 定期的に給与計算のプロセスを見直し、法定割増率が適切に適用されているか確認する。 従業員への給与明細で、休日労働に対する割増賃金が明確に記載されていることを確認する。 これらの対策を講じることで、休日労働の計算ミスを防ぎ、従業員との信頼関係を維持しつつ、法令遵守を徹底することが可能です。 控除額の計算:社会保険料、税金、その他 社会保険料の計算方法 給与計算における社会保険料の正確な計算は、従業員の福利厚生を適切に管理し、法的義務を遵守するために欠かせません。社会保険料には主に 厚生年金 保険、健康保険、介護保険、雇用保険の4種類が含まれ、それぞれ異なる計算方法と料率が適用されます。 厚生年金保険は、従業員が老後に備えるための公的年金制度であり、給与額に応じた一定の料率で計算されます。健康保険は、従業員が病気やケガをした際の医療費を補助するための保険で、加入している健康保険で定められた料率が適用されます。 次に、介護保険ですが、これは40歳以上の従業員を対象にした保険制度であり、介護保険料率は別途定められています。最後に、雇用保険は、失業者の生活保障や雇用促進を目的とした公的保険で、加入には一定の基準があります。 これらの保険料は、給与から自動的に控除され、企業が代わりに各保険機関へ納付します。給与計算ソフトを使用することで、各保険料の計算と控除は自動化され、ミスを防ぐことができます。また、定期的な料率の確認と更新も重要です。 社会保険料の計算に関して、以下を注意しましょう。 給与計算ソフトの活用 最新の社会保険料率に対応した給与計算ソフトを導入することで、計算ミスを防ぎ、効率的に管理できます。 定期的な料率の確認 法改正や料率の変更に伴い、定期的に料率を確認し、システムに反映させることが重要です。 従業員情報の正確な管理 従業員の扶養状況や年齢など、社会保険料に影響を与える情報を正確に管理し、給与計算に反映させましょう。 専門家への相談複雑な計算や法的な疑問が生じた場合は、社会保険労務士や税理士に相談することを検討してください。 これらの対策を講じることで、社会保険料の計算・管理を正確かつ効率的に行い、従業員の信頼を維持することができます。 厚生年金保険料の計算方法と保険料率 厚生年金保険料の計算方法と保険料率について詳しく説明します。 厚生年金の基本概要とその役割を解説します。厚生年金は、労働者の老後の生活を支えるための公的年金制度であり、基礎年金に加えて加入者と事業主が負担する保険料により運用されています。 厚生年金保険料の計算方法(標準報酬月額に基づく)を具体例を用いて説明します。標準報酬月額とは、従業員の給与を基に設定されるもので、これに保険料率を掛けることで保険料が決定されます。例えば、標準報酬月額が30万円の場合、保険料率が18.3%であれば、保険料は54,900円となります。 2017年以降、保険料率は据え置きとなっていますが、年度ごとに見直されることがあり、最新の情報を把握することが重要です。 厚生年金保険料を正確に計算するための具体的なガイドラインを提供します。まず、標準報酬月額の確認、次に最新の保険料率の適用、さらに計算ツールやソフトウェアの活用を推奨します。また、定期的な見直しと確認を徹底することで、計算ミスを防ぐことができます。 健康保険料と介護保険料の計算方法 健康保険料と介護保険料は、従業員の福利厚生を支える 重要な制度です。 これらの保険料は、従業員が安心して働ける環境を整えるための社会的なセーフティネットとして機能しています。 健康保険は従業員が病気やケガをした際に医療費の一部をカバーする制度であり、介護保険は高齢化社会において必要となる介護サービスの費用を支援するためのものです。これらの保険料は、標準報酬月額に基づいて計算され、給与から自動的に控除されます。 具体的な計算方法としては、標準報酬月額を基に健康保険料率 または 介護保険料率を乗じて算出します。例えば、標準報酬月額が30万円の場合、健康保険料率が10%、介護保険料率が1.73%であれば、健康保険料は3万円、介護保険料は5,190円となります。 保険料の給与からの控除手順は、以下のステップで行われます。まず、従業員の給与から標準報酬月額を確認し、次に各保険料率を適用して保険料額を算出します。その後、計算された保険料を給与から差し引き、従業員に支給する手取り額を決定します。適用条件としては、従業員が一定の年齢や雇用形態を満たしている必要があります。 給与計算担当者として、健康保険料と介護保険料を正確に計算・管理するためには、最新の保険料率や法改正情報を常にチェックすることが重要です。また、給与計算ソフトの活用や定期的な確認作業を行うことで、計算ミスを防止し、従業員との信頼関係を維持することができます。効率的な管理を実現するために、定期的な研修やシステムのアップデートも検討しましょう。 雇用保険料の計算方法と注意点 ここでは、まず雇用保険の基本的な仕組みとその社会的な役割について解説します。次に、給与額に基づいた雇用保険料の計算方法を、実際の数値例を用いて具体的に説明します。さらに、雇用保険の適用対象となる労働者の条件や、計算時に注意すべきポイント(料率の変更や控除のタイミングなど)についても触れます。これにより、給与計算担当者が雇用保険料を正確に算出・処理するための実践的なガイドラインを提供します。 税金の計算方法 源泉所得税の計算方法 源泉所得税とは、雇用者が従業員の給与からあらかじめ所得税を差し引き、国に納付する税金のことです。この税金は、従業員が年間を通じて支払うべき所得税の一部を前もって納める役割を果たします。 源泉所得税の計算方法には、「給与所得の源泉徴収税額表」を使用します。この税額表は、従業員の給与額や扶養家族の数などに基づいて税額が決定されるため、具体的な計算例を以下に示します。 月額給与 扶養家族数 源泉所得税額 300,000円 1人 5,000円 450,000円 2人 10,000円 上記の例では、月額給与が300,000円で扶養家族が1人の場合、源泉所得税額は5,000円となります。同様に、月額給与が450,000円で扶養家族が2人の場合は10,000円の源泉所得税が差し引かれます。これにより、従業員の手取り額が正確に算出されます。 また、所得税控除の適用方法や税率の変動にも注意が必要です。控除には基礎控除や扶養控除、社会保険料控除などがあり、これらを適切に適用することで正確な税額を計算できます。税率は年度ごとに改定されることがあるため、最新の税率情報を常に確認することが重要です。 源泉所得税を正確に計算するためのポイントをまとめます。 最新の給与所得の源泉徴収税額表を常に参照し、年度ごとの税率変更に対応する。 従業員の扶養家族の状況や控除対象を正確に把握し、適用漏れがないようにする。 給与計算ソフトを活用して、自動的に源泉所得税を計算させることでミスを防ぐ。 定期的に給与計算のプロセスを見直し、法令遵守を徹底する。 これらの対策を講じることで、源泉所得税の計算ミスを防ぎ、従業員の信頼を確保するとともに、法的リスクを回避することができます。 住民税の計算方法 住民税とは、前年の所得に基づいて各自治体が課す税金であり、企業にとっては従業員の給与 から適切に控除し、納付 する義務があります。住民税は、地域社会のインフラ整備や公共サービスの財源として重要な役割を果たしています。 住民税の計算方法は、前年の所得を基に行われます。具体的には、総所得金額から各種控除を差し引いた課税所得に対して、自治体ごとの税率を適用して算出します。例えば、前年に所得が500万円で、控除後の課税所得が400万円の場合、自治体の税率が10%であれば、住民税は40万円となります。 住民税は、社員の給与から毎月一定額を控除し、通常は翌年度の6月から翌々年の5月までの12回に分けて納付します。正確な控除手順とスケジュールを確実に管理するために、給与計算ソフトの活用や最新の税率情報の更新が重要です。 税金控除の基準と計算例 「税金控除」は、 課税対象となる所得や税額から一定額を差し引いて税負担を軽くする仕組みのことです。 具体例として、扶養控除や基礎控除などがあります。 次に、各種税金控除の基準と計算方法について具体例を交えて説明します。例えば、扶養控除は従業員が扶養する家族の人数や年齢に応じて異なります。基礎控除は所得に関係なく一律で適用され、現在の基礎控除額は48万円です。具体的な計算方法として、従業員の総所得からこれらの控除額を差し引くことで課税所得が算出されます。 控除の適用条件や必要書類について 解説します。 扶養控除を適用するには、扶養家族の証明書類の提出が必要です。また、基礎控除を受けるためには、従業員の所得状況を正確に把握することが求められます。これらの条件を満たすために、適切な書類の管理と確認が欠かせません。 税金控除を正確に計算するためのポイントをまとめます。 まず、最新の税法を常に確認し、変化に対応することが重要です。次に、給与計算ソフトの活用を検討し、計算ミスを防ぐためのダブルチェック体制を整えることを推奨します。また、従業員からの質問に迅速かつ正確に対応できるよう、税金控除に関する知識を深めるための研修を定期的に行うことも効果的です。 その他の控除項目 労働保険料の計算方法 労働保険料とは、日本の労働保険制度である労災保険と雇用保険の運営に必要な費用をまかなうために、事業主が納める保険料のことです。 これらの保険は、従業員が労働中に事故や病気により収入が途絶えた場合や、失業した際の生活を支えるため の制度です。労災保険と雇用保険 の計算方法は異なります。労災保険料は、事業主が全額を負担し、業種や事業内容によって料率が異なります。例えば、製造業では高い料率が適用される傾向にあります。一方、雇用保険料は、従業員と事業主がそれぞれ一定の割合で負担し、給与額に基づいて計算されます。具体的な料率は政府の定める基準に従い、年ごとに見直されることがあります。 給与計算ソフトウェアや専用システムの導入は、従業員の給与額に基づいて正確に計算し労働保険料を控除するプロセスを効率化し、ミスを防ぐ有効な手段となります。 労働保険料の正確な計算と管理を行うためには、最新の法令情報を常に更新し、給与計算ソフトウェアを活用することが有効です。システムの自動計算機能を利用することで、手作業による計算ミスを防ぎ、効率的に業務を遂行できます。また、定期的なチェックや専門家への相談も労働保険料の正確な管理に役立ちます。 従業員からの借入金返済や積立金の控除 従業員からの借入金返済や積立金の控除は、給与計算において重要な項目です。 正確に処理することで、信頼関係の維持や法的トラブルの防止につながります。 借入金返済や積立金の種類とその目的従業員からの借入金返済には、社内ローンや給与天引きによる個人貸付金の返済が含まれます。また、積立金には退職金積立や住宅積立金などがあり、従業員の将来の経済的安定を支援する目的があります。 控除の計算方法や控除額の計算は、従業員の給与総額から借入金や積立金の返済額を差し引く形で行います。具体例として、月給30万円の従業員が毎月5万円を借入金返済に充てる場合、控除後の手取り額は25万円となります。手続き方法としては、給与計算システムに返済額を設定し、自動的に控除が反映されるようにします。 法的な制限や従業員への通知方法法的には、控除は従業員の同意が必要です。また、控除額は労働基準法に基づく上限を超えてはなりません。従業員への通知方法としては、給与明細に詳細を記載し、事前に書面で合意を得ることが推奨されます。 借入金返済や積立金の控除 を正確に行うためには、給与計算システムの設定を見直し、自動化することが有効です。また、定期的に控除額を確認し、従業員からの問い合わせに迅速に対応できる体制を整えることも重要です。さらに、法改正に対応するために、最新の法規情報を常にチェックし、必要に応じてプロセスを更新することをお勧めします。 法定外控除の取り扱い 法定外控除とは、労働基準法で定められていない給与からの控除のことであり、 社内ローンの返済や商品購入代金の控除など、様々な種類があります。 法定外控除の計算方法や適用条件は、その種類によって異なります。例えば、社内ローンの返済の場合、返済額や返済期間に基づいて計算されます。また、商品購入代金の控除は、購入金額や分割払いの条件に応じて控除額が決定されます。具体的な計算例として、社内ローンの月々の返済額を定額で設定するケースや、商品の購入金額を複数回に分けて控除する場合などが挙げられます。 従業員との契約内容や同意を得る手続きも重要です。法定外控除を適用する際には、まず従業員との間で正式な契約書を交わし、控除の内容や金額、期間について明確に合意する必要があります。これにより、後々のトラブルを避けるとともに、従業員との信頼関係を維持することができます。 法定外控除を適切に管理・実施するためのポイントをまとめます。 明確な契約書の作成 控除内容を具体的に記載した契約書を作成し、従業員に理解してもらう。 正確な計算方法の導入 控除額の計算方法を標準化し、エラーを防ぐためのチェック体制を整える。 従業員との定期的なコミュニケーション 控除に関する質問や不明点に迅速に対応し、透明性を確保する。 システムの活用 給与計算システムを活用して法定外控除を自動化し、業務の効率化を図る。 これらのポイントを抑えることで、法定外控除の管理・実施をスムーズに行い、給与計算の正確性や効率性を向上させることができます。 給与計算における最も基本的かつ重要な要素は、正確な労働時間の記録と、法令に基づいた賃金の計算です。 勤務時間の管理、休憩時間の差引き、割増賃金の算出、さらには各種手当や控除額の処理まで、いずれもルールを正しく理解し、確実に実行することが求められます。 とりわけ、時間外労働や休日労働、深夜勤務といったケースでは、法律に定められた割増率を正確に適用することが従業員との信頼関係を築く上でも不可欠です。 また、通勤手当や住宅手当などの支給条件、社会保険料や税金の控除についても、最新の法令やガイドラインに沿って対応することが大切です。 これらの作業を効率的かつ正確に進めるには、勤怠管理システムや給与計算ソフトの導入が非常に有効です。 自動化によってヒューマンエラーを減らし、業務負担を軽減するだけでなく、法令改正にも柔軟に対応できます。 本記事の内容を参考に、給与計算業務の見直しや改善を進めていただくことで、貴社の人事労務管理の質を一段と高めることができるでしょう。 正確かつ効率的な給与計算を実現するには? 正しい労働時間の把握と、法令に基づいた賃金計算の基本を理解することは、給与業務の出発点です。 そして「計算の正確性」と「業務の効率化」を両立するためには、給与計算システムの導入や、社労士や税理士への給与計算代行委託が大変有効です。 ですが、最適な手法を選択するためには様々な事を理解する必要があり、個々のケースに合わせて検討すべきことがあります。 次回は、給与計算の精度を保ちつつ、業務の効率化を目指すために、システム導入や外部委託がいかに寄与するか 実務の視点から解説します。 ▶ 続きを読む:給与計算の正確性と効率を両立!システム導入・外部委託を徹底解説

労働保険料の年度更新のポイント 労働局から緑色の封筒が届くと、「もう、この季節か?」と感じる人事総務担当者の方は多くいらっしゃることでしょう。この労働局から送られてくる緑の封筒(業種によっては、青の場合も)に労働保険料の申告書が封入されています。 私たち、社会保険労務士にとって、お客様から緑の封筒が集まってくると、これから業務繁忙期が始まるぞ!のサインです。 労働保険料の年度更新とは 労働保険料は「4月から翌年3月末」までを保険年度としており、前年度支払った保険料「概算保険料」と、保険年度終了後、実際に支払った賃金を基に計算した「確定保険料」を精算することによって申告・納付します。これを「年度更新」といいます。 「年度更新」の際に、注意すべきポイントについて解説します。 ポイント1 賃金集計表の作成 労働保険料は、労災保険料と雇用保険料、一般拠出金を合わせて支払います。これらを計算するために、「賃金集計表」を作成します。 賃金集計表は、緑色の封筒に同封されていますが、厚生労働省HPからもダウンロードが可能です。 厚生労働省Webサイト 年度更新申告書計算支援ツール(継続事業用)(リンク) 賃金集計表を作成するに当たって、押さえておかなければならないのは、「労災保険と雇用保険の対象者が違う」ということです。前者は、パート、アルバイト等の臨時労働者を含む「全ての労働者」が対象となっており、後者は、週20時間以上勤務する等の要件を満たしている「雇用保険被保険者」が対象となります。 賃金集計表は、「労災保険(一般拠出金)」と「雇用保険」の対象者を分けて月ごとに集計します。当然、対象となるメンバーが違っていれば、保険料の対象となる賃金総額も異なります。 賃金集計表「労災保険」には臨時労働者の欄があります。ここには、臨時労働者であって、「雇用保険」に加入していない人の人数と賃金を記入します。通常、この欄以外は、労災保険も雇用保険も同じ数字となります。違いがある例を挙げると、出向者の受け入れがある会社(出向先)は、労災保険の対象となる賃金総額が高くなりますし。出向者を送り出す会社(出向元)は、労災保険の賃金総額は低くなります。 ポイント2 業務ソフトの設定 昨今、賃金計算はレコルの給与計算オプションなどの「業務ソフト」で行っている企業が多いと思われます。 社会保険の算定基礎届と違って、労働保険料は、各人ごとに報告するのではなく、事業所全体で計算します。雇用保険に加入されていない臨時労働者の集計、正社員の集計、役員の集計などができるように設定しておくことで、賃金集計表の作成が容易になります。 レコルの給与計算オプションでは、利用者情報の画面から労災・雇用保険とも個人ごとに設定が可能です。その設定に基づき、事業所全体の人数と賃金が自動で集計され、画面で確認することができます。 レコルの給与計算オプションの詳細についてはこちら ポイント3 概算保険料の計算 「ポイント1」で計算した賃金総額に労災保険料率、雇用保険料率をそれぞれ乗じることで、確定保険料が計算されます。この保険料率は、業種ごとに定められています。 新年度に支払われる賃金の見込み額が前年度の100分の50(半分)以上、100分の200(2倍)以下の場合は、前年度の確定賃金総額を新年度の賃金総額として保険料を計算することになっているため、「確定保険料=新年度の概算保険料」となります。 なお、新年度において、大幅な人員の変動が予想される場合など、上記要件に該当しない場合は、新年度の賃金総額をあらためて見積もって概算保険料を算出します。 ポイント4 保険料率の確認 今年度の労災保険料率は、前年度から変更はされませんが、雇用保険料率は、変更されています。保険料率については、申告書に印字されているものですが、変更の有無については、必ず事前に確認するようにしてください。 令和7年労災保険料率(リンク) 令和7年度雇用保険料率(リンク) ポイント5 納付金額の計算 前年度に納付している「申告済概算保険料」と「ポイント3」で算出した「確定保険料」とを精算し、納付額を計算します。 (1)「申告済概算保険料」-「確定保険料」が+の場合 「充当額」が生じています。したがって、新年度の概算保険料から「充当額」を控除して、保険料を納付します。なお、「充当額」が、新年度の概算保険料よりも高い場合は、還付請求をすることが出来ます。 (2)「申告済概算保険料」-「確定保険料」が-の場合 「不足額」が生じています。したがって、新年度の概算保険料に「不足額」を加えて、保険料を納付します。 (3)一般拠出金 一般拠出金とは、「石綿健康被害救済法」に基づき、平成19年4月1日から石綿健康被害救済のための「一般拠出金」の申告・納付が必要となっています。労災保険適用事業主の全事業主が対象で、労働保険料と併せて申告・納付することになります。 一般拠出金率は全業種同一で1000分の0.02となっています。 一般拠出金は、労災保険分の賃金総額に「1000分の0.02」を乗じて算出します。 ポイント6 提出・納付期限は6月1日から7月10日まで 「概算・確定保険料申告書」の提出・納付期限は毎年6月1日から7月10日までとなっています。労働保険料は、口座振替による納付が可能です。労働保険料を口座振替すると下表の通り、納付期限が延長されます。特に、第1期については、大幅に延長されますので是非ご活用ください。 口座振替を希望する場合は、所定の申込用紙を、金融機関の窓口に提出します。 申込用紙等は以下のサイトからダウンロードできます。 厚生労働省Webサイト 労働保険料等の口座振替納付(リンク) 納期 全期または第1期 第2期 第3期 口座振替納付日 9月8日 11月14日 2月16日 通常の納期限 7月10日 10月31日 1月31日 注:納期限が土日祝日の場合は、土日祝日明けまで。 申込み手続きが完了すると、振替が開始される納付日の2カ月程度前までに登録情報の確認通知が届きます。その後、口座振替日の2週間程度前に振替納付額等の通知が、納付日から1カ月程度で振替結果通知が送られてきます。 なお、概算保険料が40万円(注)以上の会社は、1年分の労働保険料を3期に分けて納めることが可能です。第2期以降の納付書は各納期限の概ね10日前に都道府県労働局から送付されます。 注: 労災保険または雇用保険のいずれか一方のみの保険関係が成立している場合は20万円以上 ポイント7 最終チェック 私が、労働保険料を申告する際に最後に必ず確認するのは、「充当額」です。一般的に、賃金総額は、前年度より増額していくものです。特に昨今のように、賃金の大幅な上昇が行われている中では、特にその傾向が強いと思われます。したがって、その企業に人員削減があったなど、何か理由がなければ、「充当額」が発生しづらい状況にあります。 最後に納付額を確認して、多額の「充当額」が生じている場合には、「〇〇会社、人員整理などあったかな?」などと理由の確認をします。前述の通り、労働保険料は、事業所全体の賃金総額が基になっており、最終チェック時に、労働者一人一人の額を確認するのは負担となります。 この理由を確認することによって、「桁間違い」「出向者算入漏れ」などの大きなミスを防ぐことにつながります。 プロフィール 飯野 正明(特定社会保険労務士) 社会人歴34年間、社労士業界一筋。2010年いいの経営労務管理事務所、東京都日本橋で開業。2018(平成30)年Be Ambitious社会保険労務士法人に改称し、代表社員に就任。現在、役員3名、スタッフ10名、テレワークスタッフ5名の18名で、顧問先だけでなく自分の事務所においても「働くをたのしめる」職場づくりを実践している。 https://www.sr-iino.com/

テレワークのメリット・デメリット テレワークとは ①在宅勤務:労働者の自宅で業務を行う ②サテライトオフィス勤務:労働者の属するメインのオフィス以外に設けられたオフィスを利用して業務を行う ③モバイル勤務:ノートパソコンや携帯電話等を活用して臨機応変に選択した場所で業務を行う といった分類がされています。会社以外のあらゆる場所を「働く場所」とすることが可能となり、多様な働き方の一つとして注目されています。 テレワークは、労働者にとって通勤時間の短縮、育児や介護と仕事の両立が図りやすい等々メリットがあります。また、企業においても育児や介護による離職の防止、遠隔地の優秀な人材の採用を可能とするなど、労使双方にメリットがある制度といえるでしょう。 一方で、労働時間の管理の問題、長時間労働になりがち、業務時間とプライベートの切り分けが難しい等の課題があるのも事実です。 企業にとっては、テレワークであっても、いつもの会社ではない場所で業務を行っているだけで、労働諸法令に定められている使用者としての義務は変わらないことも抑えておかなければなりません。 特に、労働時間を適正に把握する義務があることは忘れてはいけない事項です。 ※「テレワークにおける労務管理上の留意点」参照 少し遡りますが、厚生労働省が平成30年2月22日「情報通信技術を利用した事業場外勤務(テレワーク) の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下、ガイドライン)を策定しています。こちらについて、いくつかポイントを挙げて解説します。 テレワークに際して生じやすい事象 一定程度労働者が業務から離れる時間 いわゆる中抜け時間 ⇒使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合 ⇒休憩時間や時間単位の年次有給休暇として取り扱うことが可能 通勤時間や出張時間中の移動時間中のテレワークについて ⇒使用者の明示または黙示の指揮命令下で行われるもの ⇒労働時間に該当 勤務時間の一部でテレワークを行う際の移動時間等について <移動について使用者の命令がある場合> ・労働者自らの都合による移動 ・自由利用が保証されている時間 ⇒休憩時間 ただし、当該時間中に使用者の指示を受けて勤務に就いた場合は労働時間 <移動について使用者の命令がない場合> ・自由利用が保証されていない時間 ⇒労働時間 事業場外のみなし労働時間制の適用 ガイドラインにおいて、会社以外の場所(事業場外)での勤務に対する「事業場外みなし労働時間制」の適用については以下の通り示されています。 テレワークにより労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合で、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときは、「事業場外のみなし労働時間制」が適用される この場合の使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときとは、以下のいずれの要件も満たす必要があります。 1 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態に置くこととされていないこと(=情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務が無い状態を指す) 使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的な指示を行うことが可能であり、かつ、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態または手待ち状態で待機している状態にはないこと 例) ①回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れること ②通信可能な状態を切断することが認められている場合 ③会社支給の携帯電話を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかである場合 ⇒「使用者の指示に即応する義務が無い」 2 常時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと ⇒当該業務の目的、目標、期限等の基本的指示をすることは含まれない ※過去のガイドライン(「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」平成20年7月28日 基発第0728001号)においては、在宅勤務に限定されていた「事業場外みなし労働」の適用については、本ガイドラインによりサテライトオフィスやモバイル勤務にも適用されることとなりました。 ※「テレワークにおける労務管理上の留意点」テレワークと『事業場外のみなし労働時間制』参照 テレワークを適切に実施するための注意点 ガイドラインにおいて、テレワークを適切に導入及び実施するにあたっての注意点として以下の5点を挙げています。 1 労使双方の共通の認識 労使双方が、導入の目的、対象業務、対象者の範囲、テレワークの方法について労使間で充分に協議し、共通の認識を持てるようにすることが望ましい。 2 業務の円滑な遂行 業務内容や業務遂行方法を明確にしておくことが望ましい。 3 業績評価等の取扱い 評価者や労働者が懸念を抱くことのないように、評価制度および賃金制度を明確にすることが望ましい。 4 通信費、情報通信機器等のテレワークに要する費用負担の取扱い 通信費等の費用負担について、どちらが負担するのか等労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましい。 5 社内教育等の取扱い 能力開発等において、不安に感じることの内容社内教育等の充実を図ることが望ましい。 当社もやっています! 実は、当社もテレワークを始めました。しかも、福岡にいるスタッフとの間です。最初は、1人で始めた「チーム福岡」ですが、今は3人のメンバーがいます。 福岡ですので、もちろん、出勤は前提にしていません。時間は、フレックスタイムでフレキシブルタイムを5:00~22:00として、コアタイムなし。日曜日の勤務は禁止というルールで始めました。業務中の連絡や情報の共有がポイントと考えて、何かあればZoom(無料のWeb会議ソフト)を利用して、都度打ち合わせを行っています。週に一度の打ち合わせも、時間が合うときには、Zoomで参加してもらっています。 労働時間の把握に使用しているのは、もちろん、「レコル」です。レコルを使えば、仕事中なのか仕事をしていないのか、東京でもリアルタイムで把握できるため、こちらから連絡を取りたいときにも便利に使えています。また、「チーム福岡」の働き方は、朝、早起きして「30分」、子どもたちを送り出して「60分」、夜「30分」といった感じで、一日何度も出退勤の記録をつけているのですが、これにも対応しています。 ほかにもセキュリティが守れる体制作りということで、「チーム福岡」は在宅勤務でということでお願いしています。カフェなどでやるのも可能とすると、資料を忘れたりとなりに話が聞こえたり…といった懸念がありますので。 このように、小規模な企業であっても「テレワーク」を行うことは可能です。しかも、費用はそんなに掛かっていません。いかがでしょうか、御社でもチャレンジしてみませんか!? 少なくとも、「チーム福岡」の3人は出勤を前提にしていたら「雇用」することはできていませんでした。「テレワーク」を可能とすることで、新たな雇用の創出につながったのです。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

さて、2019年4月より、残業時間『時間外労働』の上限規制が始まっています(中小企業は2020年4月から適用)。そこで、このルール(詳細は罰則付き!時間外労働の上限規制)を守るために必要となる労働時間管理のポイントについてお話します。 まずは、労働時間のルールを改めて整理しておきましょう。 1.時間外労働は、36協定を締結したうえで、原則1か月45時間以内・1年360時間が限度時間となっている。 2.特別条項付き36協定を締結すれば、限度時間を超えて時間外労働が可能となるが、その数は、年6回以内に収めなければならない。 3.限度時間を超える時間外労働を行う場合には、事前に特別条項付き36協定で定める所定の手続きが必要となる 4.どんな場合であっても、時間外労働の上限は、1か月100時間未満・1年720時間以内としなければならない。 5.常に「時間外労働」+「法定休日」の上限を1か月100時間未満・2~6か月の各期間における1か月平均を80時間以内としなければならない。 <ポイント1>年間スケジュール・月間スケジュールによる時間外労働等の管理 1年のうちの業務繁忙期(時間外労働が45時間/月を超える可能性がある月)を「6回以内」とする計画を立てておく必要があります。年間の業務スケジュールを立てて、時間外労働が45時間/月を超える可能性がある月を想定・計画しておくのです。 特別条項を適用する場合には、想定・計画した分を合わせて「6回以内」に収まるのかを確認しながら時間外労働を行う必要があります。 「例年であれば、そんなに忙しくないはずなのに…」 例えば、1年のうち、春と秋が忙しいAさんは、例年5か月程度、特別条項を適用して時間外労働を行っています。つまり、あと1回しか特別条項を適する余裕がない訳です。でも、今年は、例年であれば業務が落ち着いているはずの「8月」に臨時の業務が入ってしまい45時間を超える時間外労働を行うことになりました。 計画通りであれば、これで最後の「1回」を使ってしまうことになり、これ以上45時間を超える時間外労働はできないことになります。もし、年末に臨時の業務が入ってしまったら…。同僚や上司に助けを求めるなどによって、Aさんは時間外労働を45時間以内に抑えなければなりません。 時間外労働や休日出勤を行わせる場合には「事前申請」を活用することをお勧めします。事前申請により、本当に必要な業務であるのか? 休日出勤や時間外労働時間は今やらなければならない業務なのか? だれかに協力を仰ぐことはできないのか? についても目を配ることが可能となります。 ※この場合の「1年」は各社で締結している36協定の有効期間の1年となります。 <ポイント2>限度時間を超える前に所定の手続きが必要! 限度時間を超える前に、特別条項付き36協定に記載されている「労使協議の上」「通告の上」等の所定の手続きが必要です。 36協定に定める限度時間(原則:1か月45時間・1年360時間)を超える前に、「超えそうだ」ということに気付く必要があり、かつ、「超える前に」所定の手続きを経ることで限度時間を超える時間外労働が可能となるのです。この一定の手続きを経ない場合には、法違反となってしまいます。 自身による管理もさることながら、管理職も部下の時間外労働時間の現状を定期的に確認するなど、限度時間を「超える前」に動ける体制を整えなければなりません。 <ポイント3>時間外労働だけでなく、法定休日の労働時間も把握する これまで、36協定では「時間外労働」の上限時間と「法定休日」に労働させることのできる日数の上限を定めていました。つまり、法定休日は日数の管理となっていました。 法改正後は、「時間外労働」、「法定休日」ともに時間数で把握する必要があります。その時間は、図表1の通り、特別条項の有無にかかわらず、1年を通して常に、①1か月100時間未満、②2~6か月平均80時間以内に収めなければならないのです。 (図表1)36協定における限度時間 限度時間 法定休日労働時間 原則 1か月45時間 1年360時間 含まず 1か月100時間未満 含む 2~6か月平均で80時間以内 含む 特別条項 年6回まで 1年720時間 含まず 1か月100時間未満 含む 2~6か月平均で80時間以内 含む 例えば、時間外労働が特別条項の適用とはならない「45時間以内」であっても、法定休日の時間を加えて100時間未満としなければ法律違反となってしまいます。 この場合、法律違反に対しては「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられることがあります。 これら労働時間のルールは、すべての社員が知っておかなければなりません。もちろん、管理職が管理するべき事項ですが、何もかも管理職頼みとするのは無理があるでしょう。時間外労働は毎日積み重ねられていくものです。リアルタイムでの時間把握が必要となります。自身の労働時間のことは自身で管理することが、手っ取り早いですよね。 「私の残業、このままだと45時間を超えそうなのですが…」と部下が言ってくれるようになることが理想です。 労働時間はこうやって管理する! 法改正後の労働時間管理をシミュレーションにもとづいて解説します。 図表2が4月から9月までの時間外労働等の実績です。 (図表2)時間外労働時間上限規制のシミュレーション 4月 5月 6月 7月 8月 9月 時間外労働時間 45時間 40時間 50時間 42時間 60時間 46時間 法定休日労働 40時間 30時間 25時間 30時間 26時間 27時間 合計 85時間 70時間 75時間 72時間 86時間 73時間 ①6・8・9月においては、1か月45時間を超えた「時間外労働時間」となっていますので、特別条項の適用を受けなければなりません。つまり、45時間を超える前に所定の手続きが必要となります。 ②各月の時間外労働時間+法定休日労働<100時間ですので法違反ではありません。 ③2~6か月の平均を見ると a(8月、9月の2か月平均):73+86÷2=77.5H≦80H ⇒ 〇 b(7月、8月、9月の3か月平均):73+86+72÷3=77H≦80H ⇒ 〇 c(6月、7月、8月、9月の4か月平均):73+86+72+75÷4=76.5H≦80H ⇒ 〇 d(5月、6月、7月、8月、9月の5か月平均):73+86+72+75+70/5=75.2H≦80H ⇒ 〇 e(4月、5月、6月、7月、8月、9月6か月平均):73+86+72+75+70+85/6=76.83H≦80H ⇒ 〇 すべて、80時間以内となっているので、法律違反とはなりません。 では、10月の「時間外労働時間+法定休日労働」は何時間以内に抑えれば法律違反とはならないのでしょうか。 2~6月の平均(10・9月、10・9・8月、10・9・8・7月、10・9・8・7・6月、10・9・8・7・6・5月)のすべての時間を80時間以内とするには、10月の「時間外労働時間+法定休日労働≦81時間」とする必要があるのです。 このことを10月が始まる前(9月が終了した時点)で、本人と管理職が確認したうえで働くことが法律違反とならないために重要なこととなります。 計画的な業務配分をしましょう! 今後は、管理職が部下の時間外労働の状況をリアルタイムで把握できなければ、時間外労働を指示することさえできなくなります。 図表2の場合、9月に時間外労働時間や法定休日の労働が多く予想されているのであれば、8月の労働時間を抑える工夫が必要だったのです。もちろん、10月も同様に抑える必要あります。忙しい月があるなら、その前後月の時間外労働等は抑えておく必要があるのです。 時間外労働+法定休日労働≦80時間 2~6か月の平均が、常にこの範囲内にしておかなければならないのです。 45時間を超える時間外労働は年6回しかできません。労働時間を月単位、季節単位、年単位などで計画的に業務を配分し、進捗状況を管理することが重要となります。 また、自身も自らの業務の進捗状況を把握して、必要に応じて上司に報告・相談ができる体制が理想的です。 特定の人に業務を集中させない仕組みづくりが求められます。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

皆さんは、1年間でどのぐらい年次有給休暇(以下「有給休暇」といいます)を利用していますか? 厚生労働省「就労条件総合調査」によると、平成29年の有給休暇の取得率は、51.1%、付与日数18.2日に対して9.3日利用をしています。取得率は、例年こんな感じで、1年間にもらった分の半分くらいを取得している状況が続いています。 政府はこの取得率を2020年までに70%とする目標を掲げています。そうすると、前述の付与日数から算出された付与日数は、「12.7日」となり、かなり高いハードルのように感じられます…。そして、2019年4月には労基法が改正されることとなりました。 2019年4月から有給休暇5日取得が義務付けられる! これまで有給休暇は、労働者が「有給休暇使って休みます!」と請求しないまま、時効の2年が経過すると、その権利は消滅していました。「有給休暇なんて一度も使ったことない!」といったベテラン社員たちが居ても何の問題も無かったのです。 しかし、2019年4月以降は違います。そういったベテラン社員たちのおかげで会社が処罰を受けることもあるのです。 2019年4月からは、企業規模に関係なく、1年間に付与される有給休暇のうち、「5日」については、使用者が時季を指定して取得させなければならないこととなります。ただし、労働者が自ら申し出て取得した日数や、計画付与により与えた日数は、5日から控除できることとなります。 つまり、労働者が1日も有給休暇を取らなくても、会社が時期を指定することで最低「年5日」は取得させる必要があるのです。 なお、これに違反した場合には、労働者1人につき30万円以下の罰金に科せられる恐れがあります。即罰金となるかどうかは別にして、年休の取得が5日未満の労働者が10人いれば、300万円の罰金が科せられる可能性があるのです。 会社のためにと思って有給休暇を取得せずに働いている労働者が、かえって会社に迷惑をかけることになるのです。会社も有給休暇に対する意識を大きく変えなければなりません。 対象者は? 1年間に「10日以上」、有給休暇が付与される労働者が対象となります。 パートタイマーやアルバイトであっても、週の所定労働日数が3日以上であれば勤続年数によってその対象となる可能性があります。図表1の黄色の欄に該当する方がその対象です。 所定労働日数が「週3日」であれば「勤続年数5.5年以上」、「週4日」であれば「勤続年数 3.5 年以上」の方については、パートタイマーであってもこの対象となるのです。 パートタイマーにも有給休暇が付与されるの知っていましたか? ※有給休暇の基本的な内容については、「有給休暇を効率的に活用する」を確認してください。 (図表1) 週所定 労働日数 1年間の 所定労働日数 勤続年数 0.5年 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年 4日 169日~216日 付 与 日 数 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日 3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日 2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日 1日 48日~72日 1日 2日 2日 3日 3日 3日 3日 いつ付与された有給休暇からが対象となるの? 2019年4月1日以降に「10日」以上の有給休暇を付与された分からが対象となります。例を挙げて説明します。 入社2年目の社員Aは2019年1月1日に「11日」の有給休暇が付与されました。また、2018年10月1日に入社した中途入社のBには、2019年4月1日に「10日」の有給休暇が付与されました。 2019年4月1日の新入社員Cは、入社半年後の10月1日に有給休暇が「10日」付与されます。 この場合、Aが付与された有給休暇は、法改正前に付与されたものであるため、2019年12月31日までに「5日」有給休暇を取得させなくても法律上問題はありません。 BとCは、有給休暇の付与日が2019年4月1日以降の付与となるため、法改正の対象となります。 このように新入社員の方が先に法改正の対象となるケースもあるのです。 なお、Bは2019年4月1日から2020年3月31日までに「5日」、2020年1月1日から2020年12月31日までに「5日」とることとなります。このように「5日」取得の期間が重なる場合、管理が複雑となることから『比例案分』して取得させれば良いこととなっています。 つまり、2019年4月1日から2020年12月31日を比例案分(月数÷12か月×5日)してこの期間に取得させるべき日数を算出します。 したがって、21÷12×5日=8.75日は、1日単位に繰り上げる必要があるので「9日」となります。したがって、Bには、2019年4月1日から2020年12月31日の間に「9日」有給休暇を取得させればよいのです。 Cも同様の計算をすると「6.25日」となります。この場合、半日有給制度を持っている企業は、「6.5日」の付与で良いのですが、持っていない企業は、1日単位に繰り上げるため「7日」を2019年10月1日から2020年12月31日の間に取得させればよいことになります。 取得しやすい環境づくり 今まで「有給休暇を取得しなさい!」なんて言われたことのある労働者は、ほとんどいないのではないでしょうか。 また、体調が悪いわけでもないのに「会社を休む」ことに罪悪感がある方は多いことでしょう。 有給休暇の取得に「みんなに迷惑がかかるから」とためらいを感じている方が多いことが有給休暇の取得率が上がらない理由とされています。 このような環境を変えていくことがこれからの労務管理に求められるのです。もし、年5日取得できない労働者たちが多くいて、忙しい年度末にまとめて取得をさせなければならない状況となったら…困るのは会社です。 企業として取りやすい時季に取得してもらう仕組みを整備することを検討しましょう。 (1)計画付与の活用や希望日の調整 労働者本人が、自主的に5日以上有給休暇を取得してくれれば良いのですが、これまでの取得率からすると、自主性に任せていては、取得出来なさそう…こんな場合にはどうしたら良いのでしょうか。 有給休暇の計画付与制度を活用する方法があります。これは、労働者代表との協議を経て、「労使協定」を締結することで、有給休暇を一定の時季や期間に取得させることが出来る制度です。 例えば、飛び石連休の谷間の労働日に計画的に取得させることや閑散期の週末、土日にプラス1日の有給休暇を取得させることで3連休が取れるようにするなど工夫して取得を促してみてはいかがでしょうか。 また、有給休暇付与日から四半期ごとや半年経過後など一定の期日ごとに、有給休暇の取得状況を確認して、取得が進んでいない方には、有給休暇の希望日を聞いて会社側から時季を調整するといった手も考えられます。 (2)有給休暇付与日の統一 「5日」取得しなければならない「1年」のスタートは、有給休暇が付与された日が「基準日」となります。 そうなると、中途入社が随時ある中小企業では、「基準日」は各人ごとに異なっています。このような場合には、有給休暇の付与日を「毎月1日」に統一することで、「基準日」の管理が楽になります。 例えば、本来ならば、2月10日に入社した人は「8月11日」、2月25日に入社した人は「8月26日」が有給休暇付与日となります。これを8月中の付与日を全て「8月1日」に統一してしまうのです。こうすれば、起算日は個人ごとの管理ではなくなり、最大12通りとなります。企業にとっては、若干前倒しで与えることとなりますが、この程度であればそれほどの負担とはならないのではないでしょうか。 (3)管理職こそ率先して! おそらく、部下の有給休暇取得を管理するのは、「管理職」の新たな役割となるでしょう。 この役割を果たすためには、管理職自身が、率先して有給休暇を取得して見本を見せることが求められます。 管理職の方々が、有給休暇を取得して「良かった」、「リフレッシュできた」と感じて頂き、「この前、有給休暇を取ってのんびりできたぞ。みんなも取れよ!」なんて言って頂くことが、部下が有給休暇を取得しやすい環境への一歩となるのです。 ある勤務医の方が生まれ始めて有給休暇を取って温泉に行ったときに、「不謹慎かもしれないけど、みんなが働いているときに休むって凄くリフレッシュ出来るし、戻ったら頑張ろうって思えたんだよね。」と言った話をしてくれました。 こういった話をしてくれる上司が増えてこないとなかなか有給休暇を取りづらい環境は変わらないのかなと感じています。 発想を変えて取得してもらう! 今回の法改正、定着するには時間がかかるのかもしれません。しかし、現状退職日が決まってから、退職するまでの間にまとめて取得することが慣習となっている企業も少なくありません。そうであれば、在職中にリフレッシュしてもらって、良い仕事をしてもらう方がよっぽど良いのではありませんか? ちょっと考えてみましょう。体調不良で休む場合は、しょうがないような気もしますが、会社にとっては突然の休暇であり、穴を埋めるのは容易ではありません。しかし、リフレッシュのための有給休暇は、事前の申請に基づくものであり、多くの職場では穴を埋めることは可能ではないでしょうか。 例えば、有給休暇を取る場合…「来週、有給休暇を取るのでもし、●●会社から連絡が有ったら…」といった風にちょっとした業務の引継ぎを行うことは一般的ではないでしょうか。ここで「情報の共有」が出来ていることになります。また、休暇明けには、お土産などを囲んで休み中の楽しかった話しなども行われます。ここでは、「社員間のコミュニケーション」が促進されているともいえます。企業にとって有給休暇の取得が負担となるといったマイナス面だけを見るのではなく、プラス面があることにも着目する必要があります。 なお、有給休暇の時季指定義務に伴い、「年次有給休暇の管理簿」の作成・保存(3年間)が義務付けられます。管理簿には取得した時季、日数及び基準日を記載することとされています。また、付与日の統一・計画年休制度の導入については、就業規則の改定を伴いますのでお忘れなく。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

人材確保の鍵は、労務管理の改善 企業経営の3要素である「ヒト、モノ、カネ」のうち、「ヒト」が最も大切です。「ヒトを大切にする経営」の実践は、労働者がいきいきと働ける職場環境をつくり、生産性の高い職場、ひいては好業績の企業をつくることにつながると考えます。特に、中小企業においては、これからはこの点を重視した経営に取り組む必要があります。 働き方改革は、この「ヒトを大切にする経営」を実現するためのものといえます。 しかし、「働き方改革」と言えば、時間外労働の削減、年次有給休暇の時季指定義務など、『労働者にとっては良いことなのだろうが、中小企業にとっては、負担となることばかりで、実現するメリットは、感じられない!』と考えている経営者は多く、実際中小企業の経営者からは「うちは、中小企業だからとても実現できない」といった声も聞くことがあります。 確かに中小企業にとっては、「働き方改革」を実現させることは負担となることも多いのは事実でしょう。しかし、今、一度考えてみてください。中小企業における喫緊の課題は「人材不足」の問題です。大企業と比較して、賃金等の処遇に差がある中小企業にとって自社の働き方を見直し、『魅力的な職場』にすることが、これからの企業経営においては、重要な要素となるのではないでしょうか。 大企業は、法令順守の観点からも『働き方改革』を推進していくでしょう。そうなると益々、中小企業との格差が広がっていくことが考えられます。今、このタイミングで中小企業が魅力的な企業づくりのために「働き方改革」を実現し、「魅力的な企業」とならなければ、「人材不足」の解消どころか『人手不足倒産』となりかねません。 実際、人材確保が出来ないために新規店舗の出店の見直し、営業時間日数の短縮等、企業運営に支障が出ているケースは数多く報道されています。「人手不足倒産」と言ったことが現実味を帯びてきているのです。 以前は、「労働者にとって良い環境を整えることばかりで、企業がつぶれてしまったら一番困るのは労働者だ。」と話す事業主もいました。しかし、今では、自分の働いている会社が良い環境でなければ、別の環境の良いところに喜んで転職してすることでしょう。会社があるから労働者が存在するのではなく、労働者に選ばれるから会社が存続することが可能となるのです。 働き方改革の実現に向けて取り組むべきこと 2019年4月から「働き方改革関連法案」が順次施行されます。働き方改革のスケジュールは次の通りとなっています。 働き方改革のスケジュール 大企業 中小企業 年次有給休暇の時季指定義務 2019年4月施行 労働時間の把握の実効性確保 フレックスタイム制の拡充 勤務間インターバルの努力義務 高度プロフェショナル制度新設 産業医・産業保健機能の強化 時間外労働の上限規制 2019年4月施行 2020年4月施行 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止 2020年4月施行 2020年4月施行 (一部) 月60時間超の時間外労働の割増賃金率引き上げ 適用済 2023年4月施行 これらを実施することは、中小企業にとって相当にハードルが高いと考えられます。したがって、一部の法律の施行が中小企業において、時間的に猶予されているものもあります。ここでいう、中小企業の範囲は以下の通りとなっています。 中小企業の範囲 業種 資本金の額または出資の総額 または 常時雇用する労働者数 小売業 5,000万円以下 または 50人以下 サービス業 5,000万円以下 100人以下 卸売業 1億円以下 100人以下 上記以外 3億円以下 300人以下 働き方改革に取り組み中小企業の事例 働き方改革を実現するに当たって、法令順守の観点からだけでなく、「働きやすい環境づくり」といった視点で実施し、好業績につながったA社の事例を紹介します。 1.課題・背景 地方都市にあるオフィス家具製造業 (従業員規模60名) A社は、新卒者や業務繁忙期における臨時従業員の採用が難航したため、これまでの男性をターゲットとしていた採用を見直し、女性を積極的に採用することとしました。人事担当者が、近隣の高校を回って話をしに行ったところ、ある高校から女性を1名採用することが決まったのです。 しかし、それまで製造業ということで女性の採用を躊躇していたため、製造部門に女性社員はほぼいない状況にあったため、男性主体の職場である現状が、女性にとって働きやすい環境となり得るのかについて疑問を抱いていました。 2.取組み内容 工場を見学すると、力仕事はほぼなく、女性が働くことは充分可能であると考えられました。しかし、「女性専用トイレ」は事務所内にあるものの、工場内のトイレは男女共用となっている点、また「女性用の更衣室」が設置されていない点が、女性が働くうえでの課題となることが考えられました。まずはこれらを整備することとしました。なお、こちらの整備については、厚生労働省が実施している助成金を活用することができました。 このような取組みと並行して、県が実施している「男女共同参画推進宣言企業」の認定を受けることにもチャレンジしました。 主な宣言内容は、以下の内容です。 ①残業時間の削減に向けた取組み(勤務間インターバル制度の導入) ②就業時間中に外出(中抜け)できるよう時間単位有給休暇の設定 ③女性社員の管理職への積極登用 ④社員がコミュニケーションを図りやすくするためのレクリエーション等の実施 3.成果 新規高卒女性を1名ずつではあるが、2年連続で採用することができました。送り出し先の高校で「男女共同参画推進宣言企業」の認定を受けたことを伝えると、「安心して生徒を送り出せます。」とのコメントをもらうことができ、その後、同校からは男性の採用も決まり、学校との信頼関係が高まったことが実感できました。 また、業務繁忙期において、近年採用が困難となっている女性派遣労働者の採用にもつなげることができて、製造部門で勤務する女性労働者は、4年前は0名であったのだが、現在は7名となっています。 現在、そのうちの1名は、溶接の業務にもチャレンジしており、職場の活性化につながっています。その結果として、社員間のコミュニケーションが円滑になり、活気あふれる職場となり、社員旅行の参加率まで向上しました。もちろん、業績も増益が続いています。 まとめ A社の事例を見ると、職場改善の必要性があることに事業主が懸念していたことが改善の一歩につながったと考えます。事業主が職場改善の意思を持ち、女性の働きやすい職場づくりを実現した結果、労働者満足度が高まり、好業績につながったのです。 確かに職場環境を整えることが、直接業績の向上につながるわけではないが、結果として、企業の好業績につながっているのは事実です。 「働き方・休み方改善ポータルサイト」には、数多くの事例が挙げられています。 働き方改革の実現が企業にとって負担であると感じている事業主は、自社の職場環境が、「働きやすい環境」であるのかといった視点に立って、今一度見つめ直し、「出来ることから手を付けてみる」ことで中小企業の働き方改革は実現するのではないでしょうか。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

インターバル制度とは 皆さん、こんにちは特定社労士の飯野正明です。 2019年4月以降、企業規模に応じて、順次時間外労働に上限規制がかかることは、前回のブログ「罰則付き!時間外労働の上限規制について」 でお話したところです。 なかなか難しいことを「要求されるているな…」と思われている経営者の方も多いのではないでしょうか。時間外労働については、やはり、やらない、やらせないのが一番ということになるのですが、どうしても時間内に終わらずに残業となってしまうことは十分に考えられます。ときには、夜遅くまで…となってしまうこともあるでしょう。 この場合、翌日の朝、いつもと同じ時間に会社に出社するとなるとゆっくり身体を休ますことが出来ないといったことがあります。前日遅くまで働いた上に、ゆっくり休めていないとなると翌日の仕事ぶりに影響が出ることも考えられます。このような時に有効となるのが、「インターバル制度」です。 インターバル制度とは 「インターバル制度」とは、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を設定することです。前述の例のように夜遅くまで働いたので、「明日の朝は、いつもよりゆっくり出社していいよ!」ということです。 この制度は、労働者の生活や睡眠時間を確保することが目的です。どうやら、日本人の睡眠時間は先進諸国の中で最下位とのこと。寝不足は、うつ病や認知症のリスクを増加させると考えられています。私が通院している病院の医師は、「その日の内には寝るようにして、睡眠時間は、1日7時間が目標!」といつも言われています。 寝不足が、うつ病や認知症のリスクを増加させるとなると、翌日の仕事ぶりに影響が出るレベルの話ではありません! 睡眠時間の確保は労働者の健康を守るためにも重要なこととなるのです!! 例えば、通勤時間が1時間と考えると「2時間残業」して、退社時間は20時。1時間かけて自宅に着くと21時。寝るまでに3時間程の時間を過ごすことが出来ます。これくらいあればゆっくりとお風呂も入れるし、1日7時間の睡眠時間を確保することができそうですね。 これが、退社時間が1時間遅くなり、2時間遅くなり…となってくるとどうしても睡眠時間を削ることになります。また、通勤時間がもっと長い方もいらっしゃいます。うちの事務所には、1時間半以上掛けて通勤している職員もいます。 自宅でゆっくり休むとなると、退社時間の目安は「20時」といったところでしょうか。 しかしながら、いつも早く帰れるとは限りません。もちろん、残業せずに帰る時もあるでしょうが、退社時間が遅くなったときに、「インターバル制度」の出番となるのです。図をご覧ください。 例えば、インターバル(=休息時間)を「11時間」と設定すると、21:00まで勤務した場合には、翌日の始業時間9:00までの間は、12時間となっているので「11時間」の休息時間は確保できています。(図1) (図1) しかしながら、23:00まで勤務をした場合には、翌日の始業時刻9:00までの間は「10時間」しかないため、「11時間」の勤務時間を確保できません。(図2) (図2) この場合には、出社時間を1時間繰り下げて「10時」とすることで11時間の休息時間を確保することとなります。(図3) (図3) 2019年4月1日からは、インターバル休暇の導入が企業の努力義務となります。 なお、労基法改正後に「特別条項付き36協定」を締結する場合には、何らかの健康確保措置を取らなければなりません。この健康確保措置の一つとして、インターバル制度は挙げられています。 助成金を活用して制度の導入を 休息時間を9時間以上とするインターバル制度を導入した場合、「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」によって、「最大50万円」の助成金を受給することが可能です。 この助成金は、社会保険労務士などの外部専門家によるコンサルティング、就業規則・労使協定等の作成・変更、勤怠管理システムの導入等に要した費用の一部を助成するものです。インターバル制度の導入を検討している企業はこちらの活用をぜひご検討下さい。 時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース) なお、労働社会保険諸法令に基づく助成金の申請書の作成及び行政機関への提出等は、社労士法により社労士の業務と定められており、社労士又は社労士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、それらの業務を業として行えないこととなっています。ご注意ください。 インターバル制度の留意点 1.正確な始業・終業時刻の把握 そもそも、始業、終業の時刻が把握できなければ、何時間の休息時間を与える必要があるのかが明確になりません。正確な始業・終業時刻の把握が必須となります。インターバル制度の導入を機に勤怠システムの導入する場合、前述の助成金が活用出来ます。 2.休息時間の目安は? 休息時間については、特に定められていません。ちなみに、この「インターバル制度」はEUでは既に導入されている制度で、EUにおいては24時間につき最低連続11時間の休息が定められています。また、上記助成金においては「9時間以上」が対象となっています。 自社で勤務する労働者の平均的な通勤時間+7時間(睡眠時間の理想)。この辺りが休息時間の目安となるでしょう。 3.連続での適用には問題が… インターバル制度を適用し続けると、極端な話かもしれませんが出勤時間がどんどん遅くなってお昼過ぎに出社なんてことにもなり兼ねません。 特定の労働者にだけ残業をさせない仕組みづくりが望まれますが、業務繁忙期などの特定の時期においてはインターバル制度の適用をしないなどの対応が必要なケースも考えられます。 いずれにしろ、労働者に良いパフォーマンスを求めるのであれば、休息、睡眠時間を確保することが必要であることを意識する必要があります。 4.確保した休息時間の取扱い 確保した休息時間が通常の勤務時間にかかった場合には、その時間帯についての労働は、免除となります(休息時間となります)。 この場合の、その時間帯に対する賃金の支払いは労使間で取り決めることとなっています。つまり、無休でも構わないということになります。 最後に 残業はいつもするものではなく、やらなきゃならないときだけやるものなのです。やらなきゃならないときなので、長い時間残業せざるを得ない状況が生じることがあるでしょう。 やるときにはやってもらう為にも『インターバル制度』は必要となるのです。 しっかりやってもらった後は、しっかり休む。休息時間を確保し、翌日以降に疲労を残させない働き方が「労働者の健康」を守ることにつながるのです。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

罰則付き!時間外労働の上限規制 前回、お話ししました36協定。ここでは、時間外労働の上限を原則1か月45時間・1年360時間としています。 この原則を超える時間外労働については、「臨時的なもの」(特別延長時間)に限って認められていますが、現在は上限となる時間数は示されていません。 今回の法律改正により、上限となる時間数が法律上示されることになり、これに違反をすると罰則が科せられることとなります。 労働基準法の改正(労基法第36条) 従来、労基法第36条において、延長できる労働時間の限度は規定されていませんでした。今回の改正で、時間外労働の上限を原則1か月45時間・1年360時間※として上で、『通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴う臨時的』に原則の延長時間を超えて労働させる必要がある場合に延長できる時間外労働働時間(特別延長時間)の上限を『1年720時間(=月平均60時間)』と定めました。 また、その場合においても以下の要件を満たすものとしなければなりません。なお、1か月45時間を上回ることができる月数は、1年について6か月を上限とします。 ①1か月で、休日労働を含んで、100時間未満を満たさなければならない。 ②2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均でいずれにおいても、休日労働を含んで、80時間以内を満たさなければならない。 ※1年単位の変形労働時間制(3か月を超える期間)の対象となっている場合は、1か月42時間・1年320時間 図表1 法改正後の残業規制のイメージ 現状の36協定の見直し 現行の36協定においては、法定労働時間を超えて行わせる時間外労働の時間(延長時間)は ①1日 ②1日を超え3か月以内の期間 ③1年間 について協定しなければならないことになっています。 法改正後は、②の部分が「1か月」に限定されます。 今までは、「2か月」で「81時間」や「3か月」で「120時間」といった形で締結することも可能でした。例えば、年度末が業務繁忙時期の企業において、延長時間を「2か月」で「81時間」と締結しておけば、3月の時間外労働が「50時間」であったとしても、4月の時間外労働を「31時間以内」に抑えることで、36協定の範囲内となっていました。 しかしながら、法改正後はあくまでも「1か月」を基準とすることになりますので、翌月または翌々月で調整することはできなくなるので、要注意となります。 なお、36協定の有効期間については「1年間」と明確に定められることとなりました。 厳格な労働時間管理の必要性 現行の36協定においては、「法定外時間外労働」についての上限時間と「法定休日」に働くことでのできる日数の上限を定めています。 今回の法改正後も原則は同様なのですが、『特別延長時間』を適用した場合には、『法定休日』の労働時間も含めて考えなければなりません。 前述の、①1か月100時間未満、②2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均80時間以内の要件には、いずれも『休日労働』を含むということになります。 つまり、こんな感じです。 原則:1か月の時間外労働≦45時間 例外 ① 1か月の総労働時間(時間外労働時間+法定休日及び所定休日の労働時間)<100時間 ② 複数月平均総労働時間(時間外労働時間+法定休日及び所定休日の労働時間)≦80時間 今までは、『法定休日』の労働については、『出勤日数』が36協定の範囲内となっているかを管理している企業が多かったと考えます。しかしながら、法改正後は、『特別延長時間』を適用した場合には、「法定休日の労働時間」も含めて特別延長時間の上限時間に抵触しないように管理する必要があるのです。これまで以上に厳格な労働時間管理が求められます。 なお、これらの法改正が適用されるのは、大企業においては2019年4月1日、中小企業においては2020年4月1日からの適用とされています。 中小企業は注意!時間外労働1か月60時間超の割増率が50%に 既に大企業においては、1か月『60時間を超える時間外労働』に対する割増賃金率が『50%以上』とされています。これが2023年4月1日からはこれまで猶予されていた中小企業に対しても対象とされます。 ちなみに中小企業の範囲は以下のいずれかの要件を満たす企業です。 ①資本金の額が、3億円(小売業またはサービス業については、5,000万円、卸売業については、1億円)以下である。 ②常時使用する労働者の数が、300人(小売業については、50人、卸売業サービス業については、100人)以下である。 まとめ 昨今、「働き方改革」ということで多くの企業においては、「時間外労働の削減」に取組んでいることでしょう。中小企業においては、1年遅れの適用とは言え残された時間は多いとは言えません。 まずは、時間外労働を前提とする風土を改める必要があります。確かに、仕事を覚えるのに『時間』が必要です。自分自身も長い時間やることでものにしてきた知識・経験は多くあります。しかしながら、時代は変わったのです。 長い時間働くことでカバーしていたことは許されないのです。たとえ、労働者が納得していたとしても、労働者の望みであっても長時間労働は会社が罰せられてしまう時代となったのです。このことを経営者も労働者も肝に銘じる必要があります。 業務を仕分けする必要もあります。 必要な業務と不必要な業務、今やらなければならない業務とそうでない業務など優先度をつけて業務を行うことが必要です。社内でとどめておく必要のない業務はアウトソーシングすることも検討する必要があります。 働き方の見直しも必要となるでしょう。 労働基準法にある制度、変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制を駆使して効率的な労働時間の配分を行う必要があります。業務繁忙期には集中して業務を行い、業務が落ち着いている時期には、短く働いてもらうということです。 また、昨今話題のテレワークや勤務間インターバル制度の導入も検討に値するでしょう。 これらの課題は口で言うほど、簡単なことではないのは重々承知しています。しかしながら、これをクリアしない企業には、未来はないこともまた事実ではないでしょうか。もちろん、私の事務所においても悩みながら実践しています。皆さんも一緒に取組んでみませんか! プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

36協定って何だ? 「法定労働時間」を超えて労働させてはならないと労働基準法第32条に規定されています(詳しくは、知ってますか?所定労働時間と法定労働時間の違い)。つまり、時間外労働は『原則禁止』となっているのです。 となると、「この仕事、どんなに遅くなっても今日中に仕上げてね!」と言った業務命令は労働基準法違反となってしまうのでしょうか。 ここで『36協定(サブロク協定)』の出番となります。 「36協定」で時間外労働、休日労働が可能になる! 36協定とは、簡単に言うと、企業が残業や休日労働をさせる場合に、会社と労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者)とが取り交わす約束事=労使協定のことをいいます。なお、ここでいう休日労働とは、原則週1日の休日、いわゆる法定休日の労働のことをいいます(詳しくは、知ってますか?所定休日と法定休日の違い)。 この「36協定」は、所轄労働基準監督署に届出た場合に、初めて有効となります。 つまり、「時間外労働」「休日労働」を行わせる場合には、「36協定」の締結及び所轄労働基準監督署への届出が必須となり、このことによって協定の範囲内で「時間外労働」「休日労働」を行っても労働基準法第32条違反とはならなくなるのです。 なお、36 協定は、事業場単位で締結し届け出る必要があります。1つの会社に工場・支店がある場合は、原則、その工場・支店がそれぞれ 1つの事業場になりますので 工場・支店等ごとに 36 協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届出なければなりません。 36協定の内容 「36協定」の協定は、以下の事項について労使間で協定をします。 (1)時間外労働をさせる必要のある具体的な事由 (2)時間外労働をさせる必要のある業務の種類 (3)時間外労働をさせる必要のある労働者の数 (4)1日について延長することができる時間 (5)1日を超える一定の期間について延長することができる時間 (6)有効期間(1年間とするのが望ましい) なお、(5)については、厚生労働省より延長時間の限度が示されております(図表1)。 ここでいう「1日を超える一定の期間」とは、「1日を超え3か月以内の期間」及び「1年間」とすることとされており、企業の実態に応じて労使間で決定することになっています。 例えば、年度末前後が繁忙期であるため、この時期の時間外労働を「1か月」でカウントすると「45時間」の延長時間を超えてしまうおそれがあるため、「3か月」として「120時間」とすればその範囲内に収めることが可能であるような場合には、「1日を超え3か月以内の期間」を「3か月」とし、延長することができる時間を「120時間以内」と設定すればよいのです。 なお、休日労働については、原則1 週間に 1 日の休日(法定休日)に対して「労働させる場合に労働させることのできる休日(法定休日のうち1か月に○回、第2,4日曜日等)」「始業及び終業の時刻(労働時間数でも可)」を協定します。 図表1 延長時間の限度 期間 限度時間 一般の労働者 1年単位の変形労働時間制対象者 1週間 15時間 14時間 2週間 27時間 25時間 4週間 43時間 40時間 1か月 45時間 42時間 2か月 81時間 75時間 3か月 120時間 110時間 1年間 360時間 320時間 労働時間延長の切り札 「想定外のトラブルが発生したので1か月45時間の時間外労働じゃとても足りない」という場合も考えられます。図表1の「延長時間の限度」を超える労働は一切認められていないのでしょうか。実は、超えることができる方法があるのです。 この労働時間延長の切り札を、「特別条項付き36協定」といいます。 なお、ここでいう「特別の事情」とは「臨時的なもの」に限られ、一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要があるものであり、全体として年の半分を超えないことが見込まれるものとされています。つまり、常態で「延長時間の限度」を超えることは許されず、36協定において、「1か月の延長時間」を定めている場合は、年6回、「3か月の延長時間」としている場合は、年2回までの範囲で生じる「特別な事情」に限られているのです。したがって、延長時間の限度を超えて時間外労働を行わせなければならない「特別の事情」は、限度時間以内の時間外労働をさせる必要のある具体的事由よりも限定的であることが求められているのです。 「特別条項付き36協定」の協定事項 (1)延長時間を延長する場合に労使の手続 この場合の手続については、特に制約はありません。通常は、労使当事者が合意した協議、通告などの手続が挙げられます。また、この手続は、一定期間ごとに特別な事情が生じたときに、必ず行わなければなりません。所定の手続を経ることなく、延長時間を超えて労働時間を延長した場合は、法違反となります。 なお、労使当事者間において取られた所定の手続の時期、内容、相手方等を書面等で明らかにしておくことも求められています。 (2)延長時間を延長する一定の時間(特別延長時間) 特別延長時間については、限度となる時間は示されていませんので、労使当事者の自主的協議にゆだねられますが、過重労働による健康障害を防止する観点から、長時間労働とならないよう求められています。 (3)限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率 限度時間を超えて働かせる一定の期間(1日を超え3箇月以内の期間、1年間)ごとに、割増賃金率を定めます。その際、法定割増賃金率の下限(2割5分)を超えるように努めるよう求められています。(努力義務) 「特別条項付き36協定」の協定事項 特別条項による延長できる時間の見直し -労基法改正- 特別条項により延長できる時間外労働働時間の上限を年720時間(=月平均60時間)とし、一時的に業務量が増加する場合についても「最低限上回ることのできない上限」は以下の条件を満たすものに限ることが検討されています。 ① 2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均でいずれにおいても、休日労働を含んで、80時間以内を満たさなければならない。 ② 単月で、休日労働を含んで、100時間未満を満たさなければならない。 ③ 上記に加えて、時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間を上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする 図表2 法改正後の残業規制のイメージ まとめ なんて言っても、労使間の約束ですから、労使ともに守らなければなりません。 会社は、36協定に定めた時間を超えないように業務を行わせる義務があるし、労働者も36協定以内で働くことを意識しなければなりません。なんて言っても、労使間の約束ですから。 もちろん、使用者の指示命令の基、時間外勤務等が行われるものと考えると、使用者に命令されたら、『やらざるを得ないしとても逆らえないよ!』となるのも一理あります。 しかしながら、一人一人の労働者が意識することが重要なのです。それには、36協定の内容をすべての働く人たちが理解していなければなりません。1か月何時間残業ができるのか、今現在何時間の累積時間となっていて、あと何時間できるのか。こういったことが、リアルタイムで把握できるシステムが必要となってきます。 36協定や特別条項があることを前提にした働き方でなく、原則は法定労働時間内に収めることである、と言った感覚を持つことも必要です。図表3の様なイメージとなります。 一度発生した時間外労働は、減ることはありません。例えば、今日3時間の時間外労働を行なったので、翌日の勤務時間を3時間短くしたとしても、今日の時間外労働は無くならないのです。つまり、時間外労働を削減するにはやるときはやってやらない時はやらないと言った発想が必要となります。 図表3 労働時間のイメージ プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

『事業場外労働に関するみなし労働時間制』とは 前回の裁量労働制以外にも、実際に働いた時間「実労働時間」を働いた時間とせずに、「みなし労働時間」をもって働いた時間とする制度がもう一つあります。それが『事業場外労働に関するみなし労働時間制』です。 労基法第38条の2に「労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」と定められています。 直行直帰が多い『営業職』に対して残業代の支給をしないといった対応をしている会社は、おそらくこの条文を根拠としているのではないでしょうか… しかし… 営業職=事業場外みなし労働時間制の適用ではない! この条文が適用される前提は、『労働時間を算定し難いとき』に対象となるということです。必ずしも、『営業職=事業場外みなし労働時間制』の適用とはならないということです。 そもそも、労働時間を把握する義務は会社にあります。また、その把握の方法の原則として、以下の2つの方法が挙げられています(詳細は、『労働時間管理』はなぜ必要?)。 ①使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。 ②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。 もちろん、外出していればこれらの方法によって、労働時間を把握するのは難しいかもしれません。しかし、昨今は外出先であっても労働時間を把握することが可能な勤怠管理システムは多くあります。もちろん、レコルでは外出先からも勤怠管理は可能です。 長時間労働とならないように労働時間を管理することが求められている現状からすれば、『労働時間を算定し難いとき』ではなく、効率的に業務が行えるよう様々なツールを用いて管理することが望ましいのではと考えます。 『労働時間を算定し難いとき』とは… 私見ではありますが、働き方の実態を鑑みると、営業職に従事する方で「労働時間を算定しがたい」働き方をしている方の数は、そう多くはいないのではと考えています。 私が就職した25,6年前の話です。当時私の友人は某自動車販売会社に勤務していました。当時その友人は、「平日のデイタイムにスポーツクラブの会員になった」ことや行ってきますと外出して「パチンコ屋や温泉に行っていた」ことを話していました。さすがに「床屋」に行ったら上司に気付かれて怒られたなんて話をしていましたが… このように当時の営業職は、営業成績、結果だけを求められていたため、労働時間を管理されることなく(これが算定しがたいに該当するかは別として)業務を行っていることが多かったのではないでしょうか。 昨今では、携帯などのモバイル機器や勤怠管理システムで行動を把握し、より効率的に業務を行わせているやり方が増えています。少なくとも労基署の監督官は、これだけモバイル機器が発達している今の時代、「労働時間を算定しがたい」働き方はほとんどないと考えているような気がしています。 いずれにしろ、『営業職=事業場外みなし労働時間制』とはならないことは認識しておく必要があります。 事業場外みなし労働時間制の対象となるのは、「事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務であること」としており、次のような場合は労働時間の算定が可能であり、みなし労働時間制の適用は出来ないとしています(昭63.1.1基発1号)。 ①何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合 ②無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合 ③事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場に戻る場合 会社内では業務を行わずに、直行直帰で外回り業務を行い、かつ、訪問先での業務内容などの具体的な業務指示を行わない、こういったケースが『事業場外みなし労働時間制』の対象であるといえます。 みなし労働時間の対象は外勤時間のみ 事業場外みなし労働時間制の対象となった場合の労働時間は、次のとおりとなります。なお、事業場内での労働時間は当然、算定することが可能なため、その時間は把握しなければならず、みなすことはできません。みなすことができる時間は、『事業場外労働時間』のみとなっています。 ①事業場外業務の遂行に必要とされる時間 + 事業場内業務の労働時間 ≦ 所定労働時間 ⇒ 所定労働時間 ②事業場外業務の遂行に必要とされる時間 + 事業場内業務の労働時間 > 所定労働時間 ⇒ 通常必要とされる時間 + 事業場内の労働時間 ③労使協定がある場合には「労使協定で定める時間」 ⇒ 通常必要とされる時間 つまり、内勤時間も含めて『所定労働時間内』で業務が終了するのであれば、所定労働時間労働したとみなされるが、通常は、所定労働時間内で収まりきらないという場合には、そもそも、「労働時間を算定しがたい」状況にあるのですから、いちばん実態を把握している労使で業務遂行に「通常必要とされる時間」を決めてその時間をもって「労働時間」としょうということです。 まとめ そもそも、『労働時間を算定がし難い』か、どうか疑問ではありますが、実際、事業場外のみなし労働時間を適用している会社は数多くあります。また、営業手当を支払うことで残業代を支払っていないといった対応をしている会社も多くあるのではないでしょうか。 この場合、少なくとも、日常の業務が『所定労働時間内』に収まっているのか、収まっていないのであれば『通常必要となる外勤時間』がどの程度なのかを調査する必要があります。 その上で、明らかに所定労働時間では収まらないのであれば、労使協定により「みなし労働時間」を定めるべきでしょう。また、営業手当を残業代の代わりに支払うのであれば、その対象額が何時間分でいくらなのかを給与規程等に定義づけることが必要です。もちろん、内勤業務が長くなるなどその対象となる時間を超えた場合には追加で超過勤務分についての支払いが必要となります。 こういった点も踏まえて、『事業場外のみなし労働時間制』を運用しなければなりません。何度もいいますが、『営業職=事業場外みなし労働時間制』とはなりませんので。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員6名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

裁量労働ってどんな働き方? 『裁量労働』とは、どんな働き方なのでしょうか? 研究開発職やデザイナーの働き方・・・ 出退社が自由な働き方・・・ 何時間働いても残業が発生しない働き方・・・ 休日でも、深夜でも好きなときに仕事ができる働き方・・・ 結局は、長時間労働となってしまう働き方・・・ これらは、裁量労働の一部を表現しているだけに過ぎません。それでは、裁量労働とはどんな働き方なのでしょうか。 裁量労働とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分を大幅にその業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に労働者を就かせたとき、実際に働いた時間を労働時間とするのではなく、あらかじめ労使協定等により定められた労働時間とみなす制度です。 つまり、「仕事のやり方を労働者にゆだねた方が、効率的に仕事が進むであろう業務」である必要があるのです。必ずしも、研究開発職やデザイナーが、出退社を自由にして働けるわけではないのです。 裁量労働には2つの制度がある 裁量労働には研究開発職やデザイナー等のいわゆるスペシャリストを対象とする「専門業務型裁量労働制」(労基法第38条の3)と事業運営の企画、立案、調査、分析に携わる労働者を対象とする「企画業務型裁量労働制」(労基法第38条の4)の2つの制度があります。なお、その対象となる業務は厳格に決められています。 (1)専門業務型裁量労働制 専門業務型裁量労働制は、以下の19の業務が特定されており、その対象の業務に該当しなければ、専門業務型裁量労働制の対象とはなり得ません。 専門業務型裁量労働制対象業務 ① 新商品もしくは新技術の研究開発又は人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務 ② 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ)の分析又は設計の業務 ③ 新聞もしくは出版の事業における記事の取材もしくは編集の業務または放送番組の制作のための取材もしくは編集の業務 ④ 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務 ⑤ 放送番組、映画等の政策の事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務 ⑥ 広告、宣伝等における商品等の内容、特徴等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務) ⑦ 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握またはそれを活用するための方法に関する考案もしくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務) ⑧ 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現または助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務) ⑨ ゲーム用ソフトウェアの創作の業務 ⑩ 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務) ⑪ 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務 ⑫ 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事する者に限る) ⑬ 公認会計士の業務 ⑭ 弁護士の業務 ⑮ 建築士(1級建築士、2級建築士および木造建築士)の業務 ⑯ 不動産鑑定士の業務 ⑰ 弁理士の業務 ⑱ 税理士の業務 ⑲ 中小企業診断士の業務 また、単に研究開発職だからと言って、必ず、裁量労働に該当するわけではありません。裁量労働に該当するかどうかは、その業務を実際に遂行するに当たって、遂行の手段・時間配分について使用者から具体的な指示を受けておらず、労働者の裁量にゆだねられている必要があります。 例えば、何人かでプロジェクトチームを組んで研究開発業務を行っている場合に、チームリーダーの管理の下に業務を遂行しているメンバーやそのプロジェクトの付随業務や補佐をしているメンバーは裁量労働制の対象とは言えないのです。 (2)企画業務型裁量労働制 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を行う労働者が対象となります。こちらについても、厳格な要件があります。対象となる業務例、ならない業務例を以下に示しておきます。 対象者は、業務を適切に行うだけの知識、経験を有していることが前提となるため、「少なくとも3~5年くらいの業務経験があることが前提となります。 企画業務型裁量労働制の対象となる業務 ① 経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務 ② 経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務 ③ 人事・労務を担当する部署における業務のうち、現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務 ④ 人事労務を担当する部署における業務のうち、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務 ⑤ 財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務 ⑥ 広報を担当する部署における業務のうち、効率的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務 ⑦ 営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、営業成績や営業活動上の問題点等について調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務 ⑧ 生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及び分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務 企画業務型裁量労働制の対象とならない業務 ① 経営に関する会議の庶務等の業務 ② 人事記録の作成及び保管、給与の計算及び支払、各種保険の加入及び脱退、採用・研修の実施等の業務 ③ 金銭の出納、財務諸表・会計帳簿の作成及び保管、租税の申告及び納付、予算・決算に係る計算等の業務 ④ 広報誌の原稿の校正等の業務 ⑤ 個別の営業活動等の業務 ⑥ 個別の製造等の作業、物品の買い付け等の業務 裁量労働制における労働時間の考え方 労働時間の計り方は、こんな感じです。 「仕事を始めます!」でストップウオッチをスタートさせます。休憩時間中は、一旦止めて、休憩が終わったら再びスタート、で「仕事終わりました!」でストップ。このときにストップウオッチに表示されている時間が「実労働時間」となります。 しかし、裁量労働制においては、「実労働時間」を働いた時間とはしません。実際に働いた時間ではなく、「みなし労働時間」をもって、働いた時間とします。 「みなし労働時間」は、労使協定又は労使委員会の決議として「1日」の時間を決定することとなっています。労使で良く話し合って適切な労働時間を定める必要があります。 例えば、みなし労働時間を「9時間」と定めた場合には、「実労働時間」が15時間であっても、また5時間であっても、その日の労働時間は「9時間」となります。この場合、8時間を超える1時間分については、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。 労働者の裁量にゆだねているからって… 労働者の裁量にゆだねているので、「実労働時間」が長くなっても労働者が悪い!ってわけにはいきません。 例えば、把握した対象労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、代償休暇や特別休暇を与えるたり、健康診断を実施するなど「対象労働者の健康・福祉確保措置」をとることが求められています。インターバル休暇なども有効な措置でしょう。 また、「対象労働者の苦情処理窓口」を設置することも求められています。担当者、取り扱う苦情の範囲、申出の方法等を明確にし、対象労働者が苦情を申し出しやすい仕組みとする必要があります。なお、苦情の申出があった労働者に不利益な取り扱いを行うことは禁じられています。 休日労働・深夜労働の取扱 裁量労働対象者が休日に労働した場合には、みなし労働時間の適用は「所定労働日のみ」となっていることから、みなし労働時間は適用できず、「実労働時間」に対して休日出勤としての割増賃金を支払う必要があります。なお、所定休日(詳しくは『知ってますか? 所定休日と法定休日の違い』から)については、所定休日に労働した場合の「みなし労働時間」を定めればその時間をもって労働時間とすることはできます。 また、裁量労働制といえども深夜労働(22:00から翌5:00)に関する規定は適用除外とはなりません。したがって、深夜労働の時間を把握し、その時間に対する割増賃金を支払わなければなりません。 さいごに 先般、裁量労働の対象とならない労働者を『裁量労働」として扱って労基法違反を問われた企業が新聞等により報道されていました。 このような行為が論外なのは、言うまでもありません。裁量労働は、「残業ゼロ制度」なんて言われている中で、裁量労働が労働者にとっても魅力的な働き方であることを示すべきなのにがっかりです。 いずれの裁量労働の制度も会社で働くすべての労働者を対象とすることは出来ません。となると、時間管理されている労働者と裁量労働の対象者とは、それぞれに異なる労働時間管理を行う必要があります。労働時間が複雑になってしまいます。 しかしながら、それらの課題を解決し、裁量労働を適切に運用できるようにすることが、「働き方改革」の一歩に繋がるのではと考えています。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

変形労働時間制の活用 変形労働時間制とは 法定労働時間は「1週40時間」、「1日8時間」と規定されており、あくまでも「週」、「日」を単位として定められています。そのため、所定労働時間(就業規則や雇用契約書に記載されている始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を引いた時間のこと(詳しくは『知ってますか?所定労働時間と法定労働時間の違い』)が『1週40時間』『1日8時間』を超えることは原則として認められていません。 この「法定労働時間の原則」を柔軟な労働時間制度とするのが「変形労働時間制」です。変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて所定労働時間を振り分ける制度です。特定の週や日の所定労働時間を短くする代わりに、業務が忙しい週や日の所定労働時間を長めにすることが可能となるのです。所定労働時間を業務の繁閑に応じて効率的に配分することを可能とする制度です。 変形労働時間制の種類 変形労働時間を採用した場合には、あらかじめ各日の所定労働時間を勤務シフト表などで決定します。この場合、特定の週や日に法定労働時間を超える時間を設定することも可能となるのですが、対象期間を平均して『1週当たり40時間以内』としなければいけません。 変形労働時間制は、対象期間が異なる3つの制度があります。 ①1か月単位の変形労働時間制(労基法第32条の2) 「1か月単位の変形労働時間制」は、例えば、月初は繁忙期であるが、月末は比較的業務が落ち着いている等、1か月の中で業務の繁閑が吸収できる企業や飲食店等、早番、遅番、通し勤務など勤務パターンを複数組み合わせて業務を行っている企業に向いている制度といえます。 ②1年単位の変形労働時間制(労基法第32条の4) 季節的な業務の繁閑がある等、一年を通して業務の繁閑を吸収できる企業やあらかじめ生産計画を立てられる工場などに向いている制度といえます。また、完全週休2日制を採用することは難しいが、夏季・年末年始などにまとめて休みが取りやすい企業においても1年単位の変形労働時間制は向いています。 ③1週間単位の変形労働時間制(労基法第32条の5) 常時使用する労働者が30人未満である小売業、旅館、料理店及び飲食店の事業においては、「1週間単位の非定型的変形労働時間制」を導入することで、1日10時間までの労働が可能となります。例えば、週末は忙しいけどウィークデイは落ち着いている等日ごとに業務の繁閑の差がある小規模店舗などが導入に向いている制度です。原則として、その週が始まるまでに1週間の各日の労働時間を書面で労働者に通知しなければなりません。 1か月単位の変形労働時間制の例 図表1の場合、24日から31日までの所定労働時間が1日8.5時間となっており、法定労働時間を超えています。このとき、原則の労働時間制度のままですと、4週目1.5時間(0.5H×3日)、5週目1.5時間(0.5H×3日)の割増賃金が発生します。しかしながら、1か月単位の変形労働時間制を採用した場合には、この月の労働時間の合計177時間となります。これは法定の範囲内(31日÷7日×40H)であるため割増賃金は不要となるのです。 なお、あらかじめ図表1のような勤務カレンダーを作っておく必要があります。あらかじめとは、原則として変形労働時間の対象期間が始まる前までをいいます。したがって、1か月単位の変形労働時間制の場合は、前の月の末日までに勤務カレンダーを作らなければなりません。変形労働時間制は、業務の都合により任意に労働時間を変更する制度ではありません。 図表1 変形労働時間制の労働時間 対象期間である1年単位とは、「1か月超1年以内の期間」のことで、1か月単位とは「1週間超1か月以内の期間」をいいます。つまり、対象期間を「3か月」とする変形労働時間制は、1年単位の変形労働時間制の範囲となり、「4週間」を対象期間とする変形労働時間制は、1か月単位の変形労働時間制となります。 対象期間の労働時間を平均して1週間辺り40時間となるように所定労働時間を設定することが求められます(特例対象事業場(10人未満の商業、映画・演劇、保健衛生業、接客娯楽業)の場合は例外有)。 この変形労働時間制における所定労働時間の上限は、以下の式で算出します。 変形期間の暦日数÷7日×40時間 例えば、対象期間を1年とすると、2085時間42分(閏年2091時間24分)となります(図表2)。つまり、図表1の範囲であれば、週の所定労働時間は40時間以内となるということです。 変形期間の暦日数 所定労働時間の上限 14日 80時間 28日 160時間 29日 165時間42分 30日 171時間24分 31日 177時間6分 92日 525時間42分 181日 1034時間12分 365日 2085時間42分 366日 2091時間24分 1か月単位・1年単位の変形労働時間制の場合の時間外労働の対象となる時間 (1)1か月単位の変形労働時間制を採用した場合 1か月単位の変形労働時間制を採用した場合に時間外労働として割増賃金の対象となる時間は次の通りです。(昭63.1.1基発1号、平6.3.31基発181号) ①1日については、就業規則その他これに準ずるものにより8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間 ②1週間については、就業規則その他これに準ずるものにより40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く) ③変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①又は②で時間外労働となる時間を除く) (2)1年単位の変形労働時間制を採用した場合 1年単位の変形労働時間制を採用した場合に時間外労働として割増賃金の対象となる時間は次の通りです。(平6.1.4基発1号、平9.3.25基発195号) ①1日について、労使協定により8時間を超える労働時間を定めた日はその時間を超えて、それ以外の日は8時間を超えて労働させた時間 ②1週間については、労使協定により40時間を超える時間を定めた週はその時間を超えて、それ以外の週は40時間を超えて労働させた時間(①で時間外労働となる時間を除く) ③変形期間の全期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働させた時間(①又は②で時間外労働となる時間を除く) なお、③については、変形期間終了まで確定しないこととなりますが、この場合の割増賃金については、「一般的に変形期間終了時点で初めて確定するものであり、その部分については、変形期間終了直後の賃金支払期日に支払えば足りる。」とされています。(平6.5.31基発330号、平9.3.25基発195号) プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員6名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

フレックスタイム制の活用 労働者A 今月末のプレミアムフライデー、早帰りして温泉にでも行かない? 労働者B 早帰りって、早退するってこと? それってまずいんじゃない!? 労働者A お前、知らないの?うちの会社フレックスタイムだから、好きな時間に帰っていいんだよ。 労働者B へー、それならフレックスタイム使って温泉に行こう! フレックスタイム制とは この会話を実現させる労働時間制度が『フレックスタイム制』です。 フレックスタイム制とは、「始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねる」(労基法32条の3)と定められています。簡単にいえば『労働者の好きな時間に出社して、好きな時間に退社できる制度』ということになります。 つまり、1日の労働時間は、『労働者自身が決める』ということです。例えば、今日は6時間、明日は9時間といった感じで日々の労働時間を労働者の意思で変えることが可能となるのです。労働者の意思により、柔軟に日々の労働時間を決めることが出来るのが「フレックスタイム制」となります。 もちろん、他の労働時間制度であっても、日々の労働時間を変えることは可能です。しかしながら、それは労働者の意思ではなく、会社の指示(一般的にはシフト)によって、あらかじめ定められた労働時間に従うということになります。労働者の意思によってその日の労働時間を変更する場合には、遅刻や早退ということになってしまうのです。 フレックスタイム制を採用するには フレックスタイム制を採用するには、『始業・終業時刻の決定を労働者にゆだねる』旨を就業規則で定める必要があります。その上で、使用者は、『事業場に過半数労働者を組織する労働組合があればその組合、そうした組合がない場合は過半数代表者と労使協定を締結』しなければなりません。締結する労使協定の内容は以下の通りです。 1. 対象労働者の範囲 2. 1か月以内の清算期間 3. 清算期間の総労働時間 4. 1日の標準労働時間 5. コアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合はその時間帯 清算期間は、1か月以内となっていますが、『1か月』としているケースが多いと思われます。 なお、「清算期間内の総労働時間」とは、その期間を平均して法定労働時間である週40時間を超えてはなりません。その総労働時間の上限は以下の表の通りです。 日々の労働時間を自由に決められるとはいえ、労働者は、この総労働時間を満たすように日々の労働時間を配分するのが原則となります。 1か月の暦日数 時間数 28日 160時間 29日 165時間42分 30日 171時間25分 31日 177時間8分 また、「1日の標準労働時間」とは、フレックスタイム制のもとで労働する労働者が年休を取得した場合に、年休として支払う賃金の算定基礎となる労働時間のことです。 コアタイムとフレキシブルタイム 労働者の意思で日々の労働時間を自由に決められるとなると、会社がいて欲しい時間に社内に誰もいないということになってしまうことも考えられます。 また、夜の方が集中できるといって深夜の時間帯にばかり業務を行う労働者がいても困ってしまいます。そういったことを避けるために、任意にコアタイム、フレキシブルタイムといった制限を加えることができます。 コアタイムとは、「労働者が労働しなければならない時間帯のこと」であり、フレキシブルタイムとは、「労働者がその選択により労働することができる時間帯のこと」をいいます。 コアタイムを『11:00から14:00』フレキシブルタイムを『7:00から20:00』と定めた場合の例です。 この場合、出社時間は『7:00から11:00までの間』としなければなりません。 『11:00から14:00までの間』は必ず出社していなければならない時間帯となり、退社時間は『14:00から20:00までの間』としなければならないということになります。 フレックスタイム制における残業時間 フレックスタイム制においては、労働者が『日々の労働時間を決定すること』もあって日々の労働時間においては『残業時間』といった概念ありません。 つまり、1日8時間超えて働いても『残業時間』とはならないのです。 では、フレックスタイム制においては『残業時間』は生じないのでしょうか。フレックスタイム制のもとでは、1日・1週の労働時間では判断せずに、清算期間における労働時間の合計によって時間外労働の有無を判断します。 その判断の仕方は以下のように考えるとわかりやすいでしょう。 労働時間を入れる大きな箱を用意します。この箱の大きさは、『清算期間における総労働時間』となります。毎日、働いたらその箱に労働時間を入れていくのです。この箱に入りきらない時間が『残業時間』となります。 つまり、日々の労働時間を足していって、清算期間(1か月)が終わった段階で『箱に入りきらない時間』に対して残業代を支払うことになります。逆に、箱一杯になっていない場合には、その分の賃金を控除することができます。 フレックスタイム制を活用するには 「フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねたことにならず、フレックスタイム制の趣旨には合致しないものであること」(昭和63.1.1基発1号、平11.3.31基発168号)といった行政解釈があります。 フレックスタイム制の良さは、労働時間のフレキシビリティといえます。労働者自身が働く時間を決められる範囲を広く持てて、その裁量性が大きい方が望ましいと考えます。 会社は、常に労働者が会社にいるわけではないことを勘案しておかなければなりません。ミーティングを設定する場合は早めに行うなど、労働者が効率的に業務を行えるように支援する必要があります。例えば、『毎朝朝礼を行う』といったルールを改める必要があるということです。 『自分が働きやすい時間帯で業務を行うこと』≠『効率的な働き方』となってしまうことも考えられます。自分が働きやすい時間であるがゆえに、却って『長時間労働』となってしまうようなケースが挙げられます。 長時間労働とならないように、労働者自身が『フレックスタイム制を利用して効率的な時間配分を行うこと』を意識しなければなりません。また、上長は、業務の進捗状況や長時間労働となっていないかについて、気を配ることが必要となります。 あまり、長時間労働が続く場合は、フレックスタイム制の対象から外すことも考えなければなりません。 フレックスタイム制を活用するには、『労働時間を効率的に配分することで、労働時間を短縮すること』が最大の目的であることの理解が重要なポイントとなります。 我々は、子どもの頃から「時間を厳格に守ること」を叩き込まれています。また、朝はみんなそろってスタートし、終わりもみんなでそろって帰るといった職場の慣行にも慣れ親しんでいるような気がします。こういった慣行が『非効率』を生み出していることも否めません。『付き合い残業』なんてまさにその最たるものといえるでしょう。 そういった観点で見ると、フレックスタイムは、日本の職場慣行の概念を覆すものといえるかもしれません。しかしながら、『効率的に働く』ことは労働者の意識に関わることが大きく作用されると考えます。フレックスタイム制により、労働者自身が効率的な時間配分を意識できれば、『理想的な働き方』の一つとなるのではないかと考えます。それには、労働者自身が労働時間を『効率的に働く』という意識を持って配分できることが重要なポイントとなります。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

テレワークにおける労務管理上の留意点 労働者A 俺の乗っている○○線、朝の満員電車かなりきついよ!なんとかならないかなぁ~ 労働者B 通勤時間って、かなりのストレスだよな。 労働者C まさに、”痛勤“だよなぁ~ このように通勤にストレスを感じている労働者の方は多いのではないでしょうか。私自身も『通勤』を『痛勤』と感じている者の一人です。通勤をしないで良い!この夢のような制度が「テレワーク」と言えます。 「働き方改革」のテーマの一つである「柔軟な働き方がしやすい職場環境」を実現するために、今多くの企業で「テレワーク」の導入を検討しているところです。 『テレワーク』とは、労働者が「働く場所」と「働く時間」を自由に選択することを可能とする働き方であり、労働者の「仕事」と「生活」の両立が実現できる魅力的な制度の一つとして、今後益々注目されていくでしょう。 「働く場所」と「働く時間」の裁量 テレワークの導入に当たって、まず考えなければならないのは「働く場所」と「働く時間」の自由度(裁量)です。労働者にどこまで裁量を与えるか?ということを考える必要があります。 労働基準法においては、「働く場所」に関する制限はありません。職場内で仕事をしようが、自宅で仕事をしようが、カフェで仕事をしようが、労基法においては何の問題もないということです。 つまり、働く場所を職場内に限定するか?職場外での業務を認めるにしても自宅のみとするのか?労働者の好きな場所での業務を可能とするのか?については、企業が自由に決めればよいということになります。 しかしながら、「働く時間」についてはそうはいきません。当然ですが、労基法に沿った制度としなければなりません。テレワーク対象者であっても労働契約が成立している以上は、労働基準法等、労働関係法令が適用されます。したがって、企業は、テレワーク対象者の「始業、終業の時刻、休憩時間」を定めなければなりません。 テレワークと『事業場外のみなし労働時間制』 職場外での勤務となると、真っ先に思い浮かぶのが『事業場外のみなし労働時間制』となるでしょう。これについては、厚生労働省からガイドラインが示されています(「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」平成20年7月28日 基発第0728001号)。 このガイドラインによると以下のいずれの要件も満たす「在宅勤務」(労働者が自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態)については、「事業場外のみなし労働時間」の対象となるとしています。 (1)当該業務が起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。 (2)当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。 (3)当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。 つまり、労働者が『好きな場所』を選んで仕事をする場合には、「事業場外のみなし労働時間制」は適用できないのです。この場合は、使用者は「始業・終業の時刻」を把握しなければなりません。 なお、「事業場外のみなし労働時間制」を適用できる場合であっても、労働したものとみなされる時間が、深夜もしくは休日の労働となった場合には法定の割増賃金を支払わなければならないことや健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があるとされています(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(以下、「労働時間ガイドライン」という。平成29年1月20日策定))。 労働時間の適正な把握 テレワーク対象者の「労働時間」を把握する方法としては、メールや電話等により業務開始・終了の時刻を報告させる方法や業務日報により業務時間を把握する方法が挙げられます。 また、最近の勤怠管理システムは、労働者のスマートフォンなどを利用して外出先からも利用できるものもあり、スマホのGPS機能を利用すれば打刻した場所も分かるシステムも普及しています。こういったシステムの活用の検討も必要となるでしょう。 いずれにしろ、労働者の申告に基づく管理、いわゆる「自己申告制」による労働時間の把握に頼らざるを得ません。 「労働時間ガイドライン」によると、自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置として以下の措置を講ずることが求められています。 (1)自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。 (2)自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。 (3)使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。 また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。 テレワーク対象者の労働時間については、効率的な働き方を求めるあまり、テレワーク対象者が、正しい労働時間の申告をしづらくなってしまうことも考えられます。管理者は、少なくともメールの送信が深夜や休日に行われていないかどうか定期的に検証するなどの確認を行う必要があります。 労働者であれば、「安全配慮義務」が使用者に当然課せられているのです。その点を踏まえて、テレワークにおける「労務管理上の留意点」について考えてみます。 テレワーク導入の課題 「テレワークの導入=労働時間短縮」であるかのような議論が少なからずあります。テレワークを導入するだけで、労働時間が短縮するわけではありません。逆に却って増加してしまうことも考えられます。 テレワークは、集中して業務が行える半面、労働時間が長くなってしまう恐れがあります。また、まとまった勤務時間を確保しようとすると、働く時間が深夜や休日に亘ってしまうことが懸念されます。せっかくの制度が労働者の健康を害することになってしまっては、本末転倒と言わざるを得ません。企業はテレワーク対象者に対する「働き方」を健康管理の観点からも配慮しなければなりません。 私自身も月に数日テレワークを行うことがあります。特に自宅で行う場合は、家族が寝静まった深夜がやはり集中して業務を行えることから、深夜の時間を利用することが多いのが現状です。また、業務以外のことに気が向いてしまい、効率的に業務を行えず1日中机の前にいることになってしまっていることもあります。 労働者本人の自律も求められます。労働者自身が、勤務する時間帯や自らの健康に十分注意しつつ、業務効率を勘案して業務を遂行しなければなりません。企業がいくら仕組みを整えたとしても、最終的には、労働者自身の「働き方」に委ねることになるからです。 効率的に業務が進められて生産性が上げられることがこのテレワーク導入の目的であることを労使双方と理解した上で、短い時間で効率的に業務が行うための仕組みづくりと同時に意識改革が求められるところです。 テレワークを導入するということは、当然、社外での業務を認めるということです。 今までのように、部下が管理者の目の届くところで業務をしているのではなく、部下が管理者の「目の届かないところ」で業務に従事することになります。そのため、個別に労務管理を行う必要が出てくるのです。業務の進捗状況の把握、評価等々…。そういったルールも整備しなければならないでしょう。 最後に、セキュリティの問題も懸念されます。例えば、カフェで資料を広げて業務を行うとなると、隣の人に見えてしまうといったことが懸念されます。また、出先で資料を忘れてきてしまった…なんてことも起こるかも知れません。 テレワーク+フレックスタイムで「働く場所」と「働く時間」を自由に! テレワークに「勤務時間」を自由に選択することができる『フレックスタイム制』を適用することで、労働者は「働く場所」と「勤務時間」を自由に選択することが可能となります。このことによって、より効率的な働き方が実現することになるでしょう! フレックスタイム制とは、労働者が働く時間を選択できる制度です。この場合、残業時間のカウントは、1日8時間・1週40時間の労働時間規制に代えて、清算期間(1か月)における労働時間の合計によって時間外労働の有無が判断されます。 例えば、清算期間における所定労働時間を160時間(1日の標準労働時間8時間・1か月の所定労働日数20日)とする場合、日々の労働時間が8時間を超えても残業時間とはならず、1か月の労働時間の合計が160時間を超えた場合に時間外労働の支払いが発生します。つまり、1日10時間の日があっても、1日3時間の日があっても1か月で160時間勤務すればよいということになります。 労働者の都合に合わせて働く時間を自由に設定することが可能となり、最もテレワークのメリットを生かせる制度といえます。 フレックスタイム制についてはの詳細は次回に… プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

年次有給休暇の活用 働き方改革ということで労働者の働き方、休み方が見直しを検討している企業も多くあるのではないでしょうか。企業によっては、新たな休暇制度の導入を検討しているところもあるでしょう。 その前に注目して頂きたいのは『年次有給休暇の活用』です。 昨年1年間に企業が付与した年次有給休暇の日数(繰越分を除く)は、労働者1人平均で「18.1日」、そのうち労働者が実際に取得した日数は「8.8日」となっています。取得率でいうと、「48.7%」となっています。(厚生労働省「平成28年就労条件総合調査の概況」) つまり、半分以上も活用できていない休暇があるにもかかわらず、新たな休暇制度を導入するのはもったいない気がしませんか。ここはまず、年休の効率的な運用を検討するべきではないでしょうか! 政府は、2020年までに年休の取得率を70%に引き上げることを目標に掲げています。また、それに伴い一定の日数の年休消化を義務付ける法改正も検討されています。そういった意味でも「年休の取得率向上」はこれからの労鵜管理にとって重要なことになるでしょう!! まずは、年休のこと、知っておきましょう。 年次有給休暇とは (1)労働基準法第39条に定められている有給の休暇のことで勤続年数に応じて所定の日数が付与されます。 勤続年数 0.5年 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年 付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日 (2)パートタイマー等の短い時間や働く日数が少ない労働者に対しても勤続年数および所定労働日数に応じて付与することとなっています。 週所定 労働日数 勤続年数 0.5年 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年 4日 付 与 日 数 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日 3日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日 2日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日 1日 1日 2日 2日 3日 3日 3日 3日 なお、年休の発生要件は以下の通りとなっています。 ①6か月以上の継続勤務 ②全労働日の8割以上の出勤 年休の時季変更権 年休は、労働者の好きなタイミングで休むことができるものです。たとえば、「来週の週末、温泉にでも行こう!」ということで、年休の請求があった場合には、会社は、「ダメだ!」と言って年休の取得をさせないことはできません。ただし、どうしてもその労働者が休んでしまうと会社の業務が立ち行かなくなってしまうような場合のみ断ることができます。しかし、この場合においても「来週の週末はダメだけど、週明けの月曜日に変えてくれ!」といったように休みの時季を変更してもらうこととなっています。これを、「年休の時季変更権」といいます。 年休の計画的付与 A社の年休取得率向上会議の一場面 社長 社内で年休を取得する人と取得しない人が偏っているな~ 人事担当者A 創立記念日や本人の誕生日などに記念日を年休扱いにして休むようにしてはいかがですか? 人事担当者B それならGWの谷間や飛び石連休のときも年休で休めるようにしても良さそうですね。 社長 それを可能とする方法はないのか! このときに使えるのが年次有給休暇の計画的付与です。 労働者が年休を好きなタイミングで取得する権利と会社側の時季変更権の双方の権利を行使せずに、年休を特定の時期に計画的に取得させる方法のことです。 ポイントは2つ (1)就業規則による規定と労働者代表との労使協定が必要! 年休の計画的付与制度を導入する場合には、まず、就業規則に「5日を超えて付与した年次有給休暇については、労働者の過半数を代表する者との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする。」といった規定が必要となります。 その上で、実際に計画的付与を行う場合に、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で、書面による協定を締結する必要があります。 なお、この労使協定は所轄の労働基準監督署に届出る義務はありません。 労使協定で定める項目は次のとおりです。 a. 計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者) b. 対象となる年次有給休暇の日数 c. 計画的付与の具体的な方法 d. 対象となる年休を持たない者の扱い e. 計画的付与日の変更 (2)年次有給休暇の付与日数すべてについて認められているわけではない! 年休の計画的付与は、付与日数すべてについて認められているわけではありません。そもそも、年休は労働者が好きなタイミングで取得できるのが原則です。そのため、労働者が病気やその他の個人的事由による取得ができるよう指定した時季に与えられる日数を留保しておく必要があります。その留保しておく日数は、「5日」と決められています。最低「5日間」個人が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければならないのです。つまり、労使協定による計画的付与の対象となるのは年次有給休暇の日数のうち、5日を超えた部分となります。 たとえば、年次有給休暇の付与日数が10日の労働者に対しては5日、20日の労働者に対しては15日までを計画的付与の対象とすることができます。 なお、前年度取得されずに次年度に繰り越された日数がある場合には、繰り越された年次有給休暇を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。 年休の計画的付与は、(1)会社もしくは支店や工場など事業場全体の休業による一斉付与方法、(2)班・グループ別の交替制付与方法、(3)年次有給休暇付与計画表による個人別付与方法などさまざまな方法で活用することができます。 A社の人事担当者の提案以外にも、「閑散期に年休を取得させる」「年末年始休暇や夏季休暇にプラスすることでの長期休暇」なども可能となります。年休の取得が個人ごとに偏っている企業や年休の取得率向上を検討している企業においては、是非ご検討下さい。 年休の時間単位付与 B社の昼休みの会話 労働者C うちの会社、年休の半休制度はあるけど…この前、朝病院に寄るのに1時間しかかからなかったのに半休使うのもったいなくて考えちゃった。 労働者D そうそう。半休って午前と午後に区分されているけど、ちょっと1,2時間のときに使うの考えちゃうよね。 労働E 子どものお迎えのときに1時間くらい早く帰れるといいのに。 労働者F 会社の近くには医者に行けるように中抜けができると便利なんだけどな。 計画付与と同様、労働者代表等との労使協定を締結することによって年に5日を限度として、時間単位で年休を与えることができます。この場合の5日とは、前年度以前の繰越があっても、繰越分も含めて5日以内となります。 労使協定には、以下の事項を定めます。 ①時間単位年休の対象労働者の範囲 ②時間単位年休の日数 ③時間単位年休1日の時間数 ④1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数 時間単位年休1日の時間数は、所定労働時間数を基に定めます。時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げてから計算します。たとえば、1日の所定労働時間が7時間45分の場合は、「8時間」となります。 また、1時間以外の時間を単位とすることはできますが、時間単位ですので「1時間30分」等時間未満を単位することはできません。 B社の労働者の会話の中にも出ていたように、半日までは時間はかからないけど、年休を1,2時間利用したいといった要望は、多くの労働者から聞かれるところです。朝1時間ほどで家の用事を済ますことや早帰りが可能となることは労働者にとって効率的な時間の使い方となるでしょう。また、時間単位年休を活用すると、「中抜け」も可能となります。例えば、久々に会った友人とゆっくりランチをすることや会社の近くの美容院にお昼にといった利用方法も考えられます。 このような時間単位年休の管理を容易にするのが、「勤怠管理システム」と言えます。年休の残日数の管理は通常であれば、年休管理簿をつけることで管理は可能です。しかしながら、時間単位で取得するとなると年休の残日数を「9日と7時間」「時間単位年休可能な残日数は4日と7時間」などの管理が必要となり、複雑です。昨今は、適正な労働時間管理が求められています。時間単位年休の管理も可能な勤怠システムの導入をぜひご検討下さい。 まずは、上司から 年休の取得率の向上といった話をすると、そんなに労働者を休ませたら会社が回らないといった声も多く聞かれます。もちろん、何が何でも年休を取得させなさいというつもりはありません。しかしながら、年休を取得することで労働者が心身ともにリフレッシュすることは事実なのです。私も感じたことがありますが、平日に温泉につかってビールを一杯といったことが、自分の新たな仕事のエネルギーとなることを実感できます。 「俺は、今まで年休を取ったことがない!」といった上司の方は多くいらっしゃいます。ぜひ、上司の方が率先して年休取得が自分の新たなエネルギーとなることを実感して頂ければと思います。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

労働基準監督署の調査の概要 社員A この前、部長に有給休暇の申請をしたら、入社したばかりで有給なんて良く言えるなっていわれちゃったよ 社員B 俺だって、残業の事前申請をしたら自分の出来が悪くて残業する癖にちゃんと申請するのか、だってさ… 社員C うちの部署なんて、不夜城って呼ばれてるよ。22:00過ぎてもほとんど帰る人いないから… 全員 俺らの会社ってまさにブラック企業だよな!! これは、たまたま入ったカフェで隣の席から聞こえた実際の会話です。『我が社のブラック企業度自慢』といったところでしょうか!? 彼らの勤めていた会社名までは聞こえませんでしたが、自分の勤めている会社が『ブラック企業』だなんて寂しい話ではありませんか。 労基署調査は「企業を守る」ため! 「労働基準監督官がやって来た!」どの企業にとっても喜ばしい出来事とはいえないでしょう。おそらく好きか嫌いかと問われれば、ほとんどの経営者は、後者を選択するに違いありません。 この労基署の調査は、「労働者の権利」を守るために行われているものでしょうか? 私は、「企業を守る」ために行われていると考えています。 最近は多くの企業で人手不足が言われています。いわゆる「売り手市場」となっており、企業は労働者から選ばれる立場にあります。労働者から選ばれない企業は、経営活動に支障を来たすこととなるのです。実際、人手不足を理由とする新規事業進出の断念、事業縮小をせざるを得ない企業も出て来ています。『人手不足倒産』といった言葉も現実味を帯びて来ているのです。 冒頭のカフェの会話に出てくるような企業にあなたは勤めたいと考えますか? では、企業が労働者から選ばれる為にはどうしたらよいのでしょうか? 真っ先に考えるべきなのは、「わが社は労働者が安心して働ける職場環境にあるのか?」ということです。それには、『労基法の遵守』が必須と言えます。 つまり、貴社の労基法の遵守度を確認する労基署の調査は、企業を守るために重要な場となるのです。 労基法を遵守して「選ばれる企業」に! 例えば、スポーツをするに当たっては、最低限のルールを知らないとプレー出来ません。野球で言えば打ったら一塁に走るし、サッカーでは基本的に手を使えません。これと同様に、人を雇うのであれば知っておかなければならないルールがあります。それが『労基法』といえます。 労務管理にとって重要な労基法を学ぶ場は、大学の法学部など限られた場所しかありません。つまり、重要な法律を学ぶ機会のなかった経営者は多くいらっしゃいます。しかしながら、これからの企業には、労基法を守って会社と労働者を守ることが求められます。 企業における「働き方」が見直される中、労基署調査があることで多くの経営者が労基法を学ぶきっかけとなっています。このことが、今、労基署の調査が注目されている理由と言えます。 労働基準監督署による調査ってどんなもの? 労働基準監督署による調査とは、労働基準監督官が事業場に対して労基法等の違反の有無を調査する立入検査のことです。一定の計画に基づき、業種や規模を任意に選び行われる場合(定期監督)や労働者からの申告に基づいて行われる調査(申告監督)などがあります。 (1) 労働基準監督官の権限 監督官の権限は、労基法で①事業場等の建設物への臨検、②帳簿、書類の提出を求めること、③使用者、労働者に対して尋問できることが保障されています。また、労基法違反について司法警察官の職務を行うことができます。つまり、逮捕することもできるということです。さすがに、調査で労基法違反が見つかり、その場で逮捕といったことは見たことはありませんが、その権限は持っているということです。 (2) 調査の対象は事業所ごと 調査の対象は、事業所ごととなっています。事業所ごととは、その会社で本社のみが対象になるということではなく、営業所や支店、工場や店舖等の全ての事業所が対象となっています。例えば、飲食店であれば店舖も対象となるということです。 (3) どんなことを調べるのか 労働基準監督官が調査に来た場合、以下の書類の提示が求められます。なお、書類の内容を確認するだけでなく、労働者へ直接ヒアリングや業務で使用しているPCなどを確認することもあります。 実際の調査の際に確認する書類はおおよそ以下の通りとなっています。 ① 会社の事業概要がわかるもの ② 組織図 ③ 労働条件通知書あるいは雇用契約書 ④ 労働者名簿 ⑤ 賃金台帳(直近3~6か月分) ⑥ タイムカード,出勤簿,時間外・深夜労働時間を集計したもの(直近3~6月分) ⑦ 就業規則等諸規程 ⑧ 時間外・休日労働に関する協定届(提出控) ⑨ 事業場外労働・裁量労働に関する協定届、1年単位の変形労働時間制に関する協定届、フレックスタイム制に関する労使協定、その他各種労使協定(提出控) ⑩ 年次有給休暇管理簿 ⑪ 総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医・安全衛生推進者の選任報告(提出控)及び巡視記録 ⑫ 安全・衛生委員会規程、委員名簿、議事録 ⑬ 健康診断個人票、健康診断結果報告(提出控) ⑭ 長時間労働者に対する面接指導の実施状況が分かるもの 全体の7割近くの事業場に労基法違反を指摘! 『ブラック企業』を解消するため、厚生労働省では、毎年11月に「過重労働解消キャンペーン」として著しい過重労働や悪質な賃金不払残業などの撲滅に向けた取り組みの一環として集中的に監督指導が行われます。東京労働局によると今年も「長時間の過重な労働による過労死等に関して労災請求が行われた事業場や若者の「使い捨て」が疑われる企業などへ重点調査を行うとのことです。 昨年11月におこなわれた「過重労働防止キャンペーン」期間中には、全国で7,014事業場に対して調査が行われ、このうち4,711事業場(全体の67.2%)で労働基準関係法違反が指摘されています。 【主な違反内容】 (1) 違法な時間外・休日労働があったもの:2,773 事業場(39.5%) うち、時間外・休日労働(法定労働時間+法定休日労働)の実績が最も長い労働者の時間数が 1か月当たり80時間を超えるもの:1,756事業場(63.3%) うち、月100時間を超えるもの:1,196事業場(43.1%) うち、月150時間を超えるもの:257事業場(9.3%) うち、月200時間を超えるもの:52事業場(1.9%) (2) 賃金不払残業があったもの:459 事業場(6.5%) (3) 過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの:728 事業場(10.4%) 【主な健康障害防止に係る指導の状況】 (1) 過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したもの:5,269事業場(75.1%) うち、時間外労働を月80時間以内に削減するよう指導したもの:3,299事業場(62.6%) (2) 労働時間の把握方法が不適正なため 指導したもの:889事業場(12.7%) 労働基準監督署調査は突然、やってくる!? 労働基準監督署調査は、必要な書類を持参の上、会社の担当者が監督署に訪問する形で行われるケースもありますが、通常は、会社に監督官が訪問する形で行われます。 事前に電話連絡や文書により調査することを予告したうえで訪問するケース、何の前触れもなく、監督官が突然訪問するケースもあります。もちろん、突然来られて対応できないといったこともあるかもしれません。以前、ある監督官に、「突然来られるとなかなか対応が大変なので事前に予告してもらえると助かるのですが。」といった話をしたことがあります。その時の監督官は、「突然の訪問でないと確認できないこともあるので。」と言っていました。突然調査をすることで、その事業場の裏表のない実態が把握できるのだそうです。 事前に予告がある場合には、文書で調査の日時、準備する書類を指示されます。事前に予告がある場合には、会社側からすると、例えば、届出を忘れていた書類を事前に提出してしまうなどの対策を取ることができます。また、監督官側からすると、書類を準備しておいてもらうことで全体的な労務管理の状況をしっかりと見ることが可能となります。 調査の日程がどうしても合わない場合、たいていは、調整に応じてくれますが、調査は拒否できないものであると考えてください。 「是正勧告書」と「指導票」 労基署調査により、何らかの労基法違反等が確認された場合には、「是正勧告書」や「指導票」の交付を受けます。 (1) 是正勧告書 「是正勧告書」とは、サッカーでいうとレットカードです。明確な法律違反に対して「所定期日までに是正の上、遅滞なく報告するよう勧告します。」といった文書です。「違反事項及び該当法条項」「是正期日」が記載されており、交付の際、調査に立ち会った担当者の署名捺印を求められます。なお、是正勧告に従わない場合には送検手続きをとられることがあります。 (2) 指導票 「指導票」とは、イエローカードです。明確な法律違反ではないけれども、このままの状態が続くと法律違反となる可能性がある場合や行政通達に関する違反についてについて警告して改善を求めるものです。指導事項についても、期日を指定され改善状況を報告することが求められます。 (3) 是正勧告書・指導票への対応 是正勧告書、指導票いずれにおいても、是正・改善したことを報告します。だいたい1か月程度の日付を是正・改善期日として指定されます。万が一、所定期日までに是正・改善ができない場合は、その理由と経過報告等を行います。監督官が是正・改善したことを認めるまで報告は続けられます。以前、長時間労働の改善を指導されたケースでは、毎月勤怠データの報告が求められ、1年近く報告を続けたこともあります。なお、虚偽の報告は厳禁です。虚偽の是正報告をしたのち、再度調査が行われ、虚偽の報告が発覚して書類送検となったケースがあります。 調査に対する心構え (1) 過去は変えられない 調査は過去の一定期間が対象となっています。通常は、直近3か月から6か月程度の期間に対しての調査となります。過去の出来事ということは、「変えられない」ということになります。事前に違反行為があったことに気付いても、それを無かったことにすることは書類を改ざんすることになります。絶対にやってはならないことです。 (2) 誠意を持った対応を心がける 労働基準監督官が提出を求めた書類が速やかに提示される場合と、なかなか書類が出てこない場合では、前者の方があきらかに印象はよいのではないでしょうか。 36協定や就業規則については労働者に周知義務があります。つまり、監督官が突然来訪して「就業規則を見せてくれ」と言われた場合に「どこに保管されているか分からない」ということが労基法違反の指摘を受ける可能性があるということです。書類を隠すことなく、速やかに提示することを心がけてください。 また、監督官から違反行為を指摘された場合に、あまりにも根拠のない抵抗は慎んでください。指摘された事項については、誠意をもって改善する意思があるのだという姿勢が大切です。 (3) 調査は過去のこと、将来的な視点を持つ 「うちの会社は、ブラック企業なのか…」。自分の勤めている会社で労基法違反があったということに対する労働者のインパクトは想像以上に大きいものです。しかし、調査は、過去のこと。違反行為があったことは、変えられない事実なのです。 過去の清算による影響を考える経営者の方もいらっしゃいます。しかし、『過去のことより将来のこと。』労働者は、過ぎたことよりこれから良い方向に向かっていく会社に期待をしているはずです。「これから」に軸足を置いた労務管理を目指すべきです。 労務管理チェック表 自社の労務管理の実態を把握してみましょう。チェックが3つ以上は要注意です。 就業規則の前回の改定から5年以上経過している。 36協定の中身を把握していない。 先月残業時間が一番長かった労働者を把握していない。 時間外労働の時間数が月の途中で把握できる仕組みがない。 労働時間の把握は、労働者からの申告に基づいている。 賃金の中に「固定残業」が含まれているが、その対象となる残業時間数は不明確である。 過去6か月以内に、1か月の総労働時間(所定労働時間、残業や休日労働も含む)220時間を超えている労働者がいる。 管理監督者の労働時間を把握していない。 事業場における管理監督者の比率が30%以上である。 年次有給休暇の取得率が、50%未満である。 振休、代休が未消化の労働者がいる。 健康診断は行っているが、記録を保管しているだけである。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

割増賃金の話 数多くのトラブルの原因となっているのが「割増賃金」に関する件です。 良くあるご相談はこんな感じです。 社員A 残業や休日出勤をしたのに割増賃金が正しく計算されていないのではないか? 部長B 管理監督者となると割増賃金って一切支払われないの? アルバイトC アルバイトにだって割増賃金が支払われるのでしょ? 割増賃金の割増率 法定労働時間を超える時間外労働や休日労働、深夜の時間帯(22:00~5:00)に労働した場合には、通常の賃金にプラスして割増賃金の支払いが義務付けられています。この場合の割増率は以下の通りとなっています。 労働基準法第15条 労働の内容 割増率 時間外労働 (法定労働時間を超えて労働した場合) 25%以上 50%以下 ただし、大企業(注1)の場合、月60時間を超えて労働した場合は50%以上 休日労働 (法定休日に労働した場合) 35%以上 50%以下 深夜労働 (22:00~5:00に労働した場合) 25%以上 (注1)大企業に当てはまらない中小企業の範囲は、「資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円,卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主またはその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人,卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である企業については、当分の間適用除外となっています。 深夜労働の際に割増率が合算されることも 時間外労働が長引いて、22:00を超えて労働をした場合には、『時間外労働の割増賃金』と『深夜労働の割増賃金』を合算して支払うこととなります。つまり、50%以上の割増賃金の支払いが必要となるのです。 同様に、法定休日に労働している場合に22:00を超えて労働した場合には、『休日労働(法定休日)の割増賃金』と『深夜労働の割増賃金』を合算して支払うこととなり、割増率は60%以上となります。 なお、休日労働が長引いて8時間を超えた場合においても、『時間外労働の割増率』を合算して支払う必要はありません。つまり、法定休日に労働した場合には、22:00を回らない限り35%以上の割増賃金を支払う必要はないのです。 深夜労働の割増率 労働の内容 合計の割増率 時間外労働 + 深夜労働 50%以上 時間外労働(25%) + 深夜労働(25%) 法定休日労働 + 深夜労働 60%以上 法定休日労働(35%) + 深夜労働(25%) 翌日にまたがって勤務した場合の割増賃金の考え方 始業時刻の属する日から翌日の朝まで勤務するというように,翌日にまたがって継続勤務した場合の割増賃金については、前日の始業時刻から翌日の始業時刻までの労働を前日の勤務とし、それ以降の労働については当日の勤務ということになります。 また、休日については暦日(0時から12時)単位で考えることになっています。これらを踏まえて、X社を例に挙げて考えてみます。 X社の就業規則 第●条(所定労働時間) 当社の所定労働時間は、1日8時間、1週40時間とし、始業・終業の時刻及び休憩時間は次の通りとする。 始業9:00 終業18:00 休憩時間12:00から13:00 第■条(所定休日) 当社の所定休日は、次の通りとする。 (1)日曜日(法定休日) (2)土曜日 (3)国民の祝祭日 (4)年末年始(12月29日から1月3日) 第▲条(割増賃金の率) 割増賃金の割増率は、以下の通りとする。 (1)時間外労働 25% (2)深夜労働 25% (3)所定休日 25% (4)法定休日 35% 例1)月曜日から火曜日にかけて継続勤務した場合 (所定労働日から所定労働日にまたがって勤務した場合) 例2)金曜日から土曜日にかけて継続勤務した場合 (所定労働日から所定休日にまたがって勤務した場合) 例3)土曜日から日曜日にかけて継続勤務した場合 (所定休日から法定休日にまたがって勤務した場合) 例4)日曜日から月曜日にかけて継続勤務した場合 (法定休日から所定労働日にまたがって勤務した場合) 所定休日に出勤した場合に割増賃金が必要となることも 労基法上は、法定休日の労働にのみ、「休日出勤」としての割増賃金の支払いを義務付けています。しかし、「所定休日」の労働であっても割増賃金の支払いが必要となることがあります。 再び、先ほどのX社を例に挙げて説明します。ある週の勤務が、法定休日である日曜日は休み、月曜日から金曜日まで8時間勤務、所定休日の土曜日も8時間勤務をしたとします。この場合、出社したすべての日の勤務は8時間を超えていないので時間外労働の割増賃金は不要です。また、法定休日は確保されていますので休日出勤の割増賃金も不要となります。しかしながら、土曜日の所定休日に勤務したことによりこの週の労働時間は48時間となっています。 このようなケースにおいては、1週40時間を超える労働に対しては法定時間を超える労働となるため、8時間分の「時間外労働の割増賃金」を支払わなければなりません。 実際は、休日出勤に対しての支払うこととなるのですが、労基法上は時間外労働としての取り扱いとなるのです。したがって、割増率は25%以上で良いということになります。 休日を振替えた場合においても週40時間を超えた場合には同様の取扱いとなります。 割増賃金の計算方法 月給で支払われる場合の割増賃金の計算の基となる「時間単価」は、次の計算式により算出します。 時間単価 = 基本賃金 ÷ 1か月当たりの平均所定労働時間数 この時間単価にそれぞれの割増率を掛けて割増賃金は、算出します。 なお、「基本賃金」とは、所定労働時間労働した場合に支払われる全ての賃金のことをいい、基本賃金から除ける賃金は以下のもののみとなっています。 ①家族手当 ②通勤手当 ③別居手当 ④子女教育手当 ⑤住宅手当 ⑥臨時に支払われた賃金 ⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 また、「1か月当たりの平均所定労働時間」は次の通り算出します。 (1年間(365日or366日) - 年間所定休日日数) × 1日の所定労働時間 ÷ 12か月 この「1か月当たりの平均所定労働時間」は、その年の労働日数に応じて変わってきます。 またまた、X社を例に1か月当たりの平均所定労働時間数を考えてみましょう。 2017年は、(365日 - 120日(所定休日数)) × 8時間 ÷ 12か月 ≒ 163.33となります。 2018年は、(365日 - 121日(所定休日数)) × 8時間 ÷ 12か月 ≒ 162.67となります。 この場合の基本賃金30万円のD氏の割増賃金の単価(ともに円未満切り上げ)は以下のようになります。 2017年は、30万 ÷ 163.33 ≒ 1,837円 2018年は、30万 ÷ 162.67 ≒ 1,845円 2017年と2018年を比較すると、2018年の方が休日は「1日」多くなっており、1か月当たりの平均所定労働時間は、少なくなっています。そのため、2018年の方が単価は「8円」高くなっているのです。つまり、カレンダーの関係で休日数が増え、労働日数が減ると割増賃金の単価が上昇します。逆に労働日数が増えると単価は下がります。 毎年休日数が変動する会社においてはこの点に注意しなければなりません。労働日数が増えた場合(つまり、割増賃金の単価が下がっている場合)には、未払賃金は生じませんが、労働日数が減った場合(つまり、割増賃金の単価が上がった場合)に、見直しをしていないと未払い賃金が生じる恐れがあるからです。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

休日と休暇 労働者にとっても会社にとっても「会社が休み」という意味では違いは感じられないかもしれませんが、そもそも「休日」と「休暇」は似て非なるものなのです。 休日とは、労働者にとって働かなくて良い日のことをいいます。つまり、労働契約において労働義務がない日ということになります。 労基法第35条では、「使用者は、労働者に対して毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」と定めています。また、業務の都合等によって週1日の休日を与えられない場合には、「4週を通じて4日以上」の休日を与えればよいこととなっています。これらの休日のことを「法定休日」といいます。 ちなみに「4週を通じて4日以上」の休日を与えることを「変形休日制」といい、この場合には4週間の起算日を明らかにすることとされています。 一方、会社には、週1回の休日以外にも休日があります。例えば、土曜日と日曜日の週休2日制の企業の場合に、いずれか一方の休日が「毎週少なくとも1回の休日=法定休日」に該当します。また、もう一方の休日を「法定外休日(所定休日)」といいます。どちらが法定休日となるのかは就業規則等により定めるものとされています。会社によっては、祝祭日や夏季・年末年始等を休日とすることもありますが、これらは就業規則等に定めることとなっています。 なお、休日の単位は暦日とされています。暦日とは「午前零時から午後12時までの24時間」のことをいいます。例えば、「休日である日曜日に1時間だけ出社した後、休日を取った。」としても休日に出勤したこととなるため、休日を取得したことにはなりません。 一方、「休暇」とは労働義務が免除されている日のことをいいます。つまり、本来労働日であったものを労働者からの申出等により働かなくてもよいことする日のことです。 法令上与える義務のある休暇には、年次有給休暇(労基法39条)、産前産後休暇(労基法65条)、育児時間(労基法67条)、生理休暇(労基法68条)、育児・介護休業法に基づく育児・介護休業などがあります。 また、法令上与える義務はないが企業が任意に定める休暇には、慶弔休暇や傷病休暇などがあります。これらの休暇中の賃金は、年次有給休暇を除いて有給とするか無給とするかについては、会社が任意に定めることができます。 法定外休日(所定休日)に出勤した場合も割増賃金は必要! 労基法上は、法定休日に勤務したときにのみ、「休日出勤」としての35%以上の割増賃金の支払いを義務付けています。しかし、実際は所定休日の場合でも割増賃金の支払いが必要となることがあります。 例えば、1日の所定労働時間が8時間、土曜、日曜日(法定休日)を休日とする会社の場合に、ある週の勤務が平日、月曜日から金曜日まで8時間勤務したとします。加えて、所定休日の土曜日にも8時間勤務し、日曜日は休日を取得しました。このケースで考えると、出社した日はどの日についても8時間勤務ですから時間外労働の割増賃金は不要です。また、法定休日は確保されていますので休日出勤の割増賃金は不要となります。しかしながら、土曜日の所定休日に勤務したことによりこの週の労働時間は48時間となっています。割増賃金は「1週40時間」「1日8時間」を超えた労働について支払う義務があります。したがって、1週40時間を超える「8時間」については「時間外労働」としての割増賃金を支払わなければなりません。実際は、休日に出勤したことによる支払いとなるのですが、労基法上は時間外労働としての取り扱いとなるのです。つまり、割増率は25%以上で良いということになります。 振替休日と代休 業務の都合上、休日に出勤した場合、その代わりに休日を与えることが少なからずあります。この場合、「振替休日」であるのか「代休」であるのかを混同して運用しているケースが見受けられます。 「振替休日」とは、休日出勤をする場合に、あらかじめ休日出勤する日と労働日を入れ替えたうえで休日出勤させることです。「休日」と「労働日」を事前にチェンジさせるという考え方です。つまり、本来の休日⇒労働日、本来の労働日⇒休日とした上で、出勤させることとなるため、休日出勤したことにはならないという仕組みです。 「代休」とは、休日に労働させた場合に、事後的な代償措置として特定の労働日の労働義務を免除するものです。 「先日の休日出勤、お疲れさま。代わりに次の水曜日休んで!」というケースが該当します。この場合、休日出勤の事実については帳消しとなりません。 つまり、あらかじめ、休日をチェンジさせる「振替休日」は休日出勤自体をしていないこととなり、「代休」は、休日出勤をした上で代わりに休ませているということになるのです。 振替休日の際の割増賃金 振替休日をした場合には、「休日労働」をしたことにはならないので休日出勤としての割増賃金の支払いは不要となります。しかしながら、休日の振替が同一週以外の場合は、もともとの休日を労働日にチェンジしたとしてもその週は6日勤務したことになります。1日の所定労働時間が8時間であるとすると、この週の労働時間は48時間となります。 この場合は、1週40時間を超える労働となり、時間外労働としての割増賃金(25%以上)のみ支払いが必要となるのです。 つまり、振替休日であっても振替日を同一週以外の日とする場合は、時間外労働としての割増賃金が生じることになるのです。 振替休日が同一週以外の場合 振替休日が同一週の場合 なお、振替休日を行う場合には、次のルールを守る必要があります。 ①就業規則等に休日の振替ができる旨の規定を設けておくこと。 ②振替休日の実施日の少なくとも前日までに、振替日を指定の上、労働者に通知すること。 ③振替日については、振り替えられた日(もともとの休日)以降出来る限り近接している日を選ぶこと。 代休の際の賃金の取り扱い 代休の場合は、休日出勤をした事実は、帳消しにはなりません。つまり、休日出勤に関しては割増賃金の支払いが必要となるのです。 例えば、法定休日に出勤した後、代休を取得した場合は休日出勤に対して「135%」の賃金を支払い、代休を取得した場合には割増賃金を除いた「100%」の賃金を控除することができます。したがって、代休取得をしても割増賃金部分「35%」については支払うことになるのです。 なお、代休を取得した場合に賃金を控除する場合は、就業規則等に代休取得時に賃金を控除する旨の規定を設けておく必要があります。 ご注意ください 「この前の休日出勤の分は、来月振替休日を取得する予定です。」 「代休がだいぶ貯まって、20日も残っている。」 「代休を取得せずに1年経つと消滅する。」 こんな話を聞くと、正しい運用ができているのかな?って心配になります。 振替休日、代休の運用の際には、特に以下の点についてご注意ください。 ①代休と振替休日を混同しているのではないか。 ②代休を取得するのを前提として「休日出勤」の賃金を支払っていないのではないか。 ③週40時間を超えた場合の割増賃金を支払っているのか。 ④就業規則に「振替休日」に関する規定はあるのか。 ⑤就業規則に「代休取得時」の控除についての規定はあるのか。 ⑥休みが取れていない=過重労働となってはいないか。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/