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年次有給休暇が取得できる仕組みづくり

皆さんは、1年間でどのぐらい年次有給休暇(以下「有給休暇」といいます)を利用していますか?

厚生労働省「就労条件総合調査」によると、平成29年の有給休暇の取得率は、51.1%、付与日数18.2日に対して9.3日利用をしています。取得率は、例年こんな感じで、1年間にもらった分の半分くらいを取得している状況が続いています。

政府はこの取得率を2020年までに70%とする目標を掲げています。そうすると、前述の付与日数から算出された付与日数は、「12.7日」となり、かなり高いハードルのように感じられます…。そして、2019年4月には労基法が改正されることとなりました。

2019年4月から有給休暇5日取得が義務付けられる!

これまで有給休暇は、労働者が「有給休暇使って休みます!」と請求しないまま、時効の2年が経過すると、その権利は消滅していました。「有給休暇なんて一度も使ったことない!」といったベテラン社員たちが居ても何の問題も無かったのです。

しかし、2019年4月以降は違います。そういったベテラン社員たちのおかげで会社が処罰を受けることもあるのです。

2019年4月からは、企業規模に関係なく、1年間に付与される有給休暇のうち、「5日」については、使用者が時季を指定して取得させなければならないこととなります。ただし、労働者が自ら申し出て取得した日数や、計画付与により与えた日数は、5日から控除できることとなります。

つまり、労働者が1日も有給休暇を取らなくても、会社が時期を指定することで最低「年5日」は取得させる必要があるのです。

なお、これに違反した場合には、労働者1人につき30万円以下の罰金に科せられる恐れがあります。即罰金となるかどうかは別にして、年休の取得が5日未満の労働者が10人いれば、300万円の罰金が科せられる可能性があるのです。

会社のためにと思って有給休暇を取得せずに働いている労働者が、かえって会社に迷惑をかけることになるのです。会社も有給休暇に対する意識を大きく変えなければなりません。

対象者は?

1年間に「10日以上」、有給休暇が付与される労働者が対象となります。

パートタイマーやアルバイトであっても、週の所定労働日数が3日以上であれば勤続年数によってその対象となる可能性があります。図表1の黄色の欄に該当する方がその対象です。

所定労働日数が「週3日」であれば「勤続年数5.5年以上」、「週4日」であれば「勤続年数 3.5 年以上」の方については、パートタイマーであってもこの対象となるのです。

パートタイマーにも有給休暇が付与されるの知っていましたか?

※有給休暇の基本的な内容については、「有給休暇を効率的に活用する」を確認してください。

(図表1)

週所定
労働日数
1年間の
所定労働日数
勤続年数
0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年
4日169日~216日


7日8日9日10日12日13日15日
3日121日~168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73日~120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48日~72日1日2日2日3日3日3日3日

いつ付与された有給休暇からが対象となるの?

2019年4月1日以降に「10日」以上の有給休暇を付与された分からが対象となります。例を挙げて説明します。

入社2年目の社員Aは2019年1月1日に「11日」の有給休暇が付与されました。また、2018年10月1日に入社した中途入社のBには、2019年4月1日に「10日」の有給休暇が付与されました。

2019年4月1日の新入社員Cは、入社半年後の10月1日に有給休暇が「10日」付与されます。

この場合、Aが付与された有給休暇は、法改正前に付与されたものであるため、2019年12月31日までに「5日」有給休暇を取得させなくても法律上問題はありません。

BとCは、有給休暇の付与日が2019年4月1日以降の付与となるため、法改正の対象となります。

このように新入社員の方が先に法改正の対象となるケースもあるのです。

有給休暇の取得義務対象

なお、Bは2019年4月1日から2020年3月31日までに「5日」、2020年1月1日から2020年12月31日までに「5日」とることとなります。このように「5日」取得の期間が重なる場合、管理が複雑となることから『比例案分』して取得させれば良いこととなっています。

つまり、2019年4月1日から2020年12月31日を比例案分(月数÷12か月×5日)してこの期間に取得させるべき日数を算出します。

したがって、21÷12×5日=8.75日は、1日単位に繰り上げる必要があるので「9日」となります。したがって、Bには、2019年4月1日から2020年12月31日の間に「9日」有給休暇を取得させればよいのです。

Cも同様の計算をすると「6.25日」となります。この場合、半日有給制度を持っている企業は、「6.5日」の付与で良いのですが、持っていない企業は、1日単位に繰り上げるため「7日」を2019年10月1日から2020年12月31日の間に取得させればよいことになります。

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取得しやすい環境づくり

今まで「有給休暇を取得しなさい!」なんて言われたことのある労働者は、ほとんどいないのではないでしょうか。

また、体調が悪いわけでもないのに「会社を休む」ことに罪悪感がある方は多いことでしょう。

有給休暇の取得に「みんなに迷惑がかかるから」とためらいを感じている方が多いことが有給休暇の取得率が上がらない理由とされています。

このような環境を変えていくことがこれからの労務管理に求められるのです。もし、年5日取得できない労働者たちが多くいて、忙しい年度末にまとめて取得をさせなければならない状況となったら…困るのは会社です。

企業として取りやすい時季に取得してもらう仕組みを整備することを検討しましょう。

(1)計画付与の活用や希望日の調整

労働者本人が、自主的に5日以上有給休暇を取得してくれれば良いのですが、これまでの取得率からすると、自主性に任せていては、取得出来なさそう…こんな場合にはどうしたら良いのでしょうか。

有給休暇の計画付与制度を活用する方法があります。これは、労働者代表との協議を経て、「労使協定」を締結することで、有給休暇を一定の時季や期間に取得させることが出来る制度です。

例えば、飛び石連休の谷間の労働日に計画的に取得させることや閑散期の週末、土日にプラス1日の有給休暇を取得させることで3連休が取れるようにするなど工夫して取得を促してみてはいかがでしょうか。

また、有給休暇付与日から四半期ごとや半年経過後など一定の期日ごとに、有給休暇の取得状況を確認して、取得が進んでいない方には、有給休暇の希望日を聞いて会社側から時季を調整するといった手も考えられます。

(2)有給休暇付与日の統一

「5日」取得しなければならない「1年」のスタートは、有給休暇が付与された日が「基準日」となります。

そうなると、中途入社が随時ある中小企業では、「基準日」は各人ごとに異なっています。このような場合には、有給休暇の付与日を「毎月1日」に統一することで、「基準日」の管理が楽になります。

例えば、本来ならば、2月10日に入社した人は「8月11日」、2月25日に入社した人は「8月26日」が有給休暇付与日となります。これを8月中の付与日を全て「8月1日」に統一してしまうのです。こうすれば、起算日は個人ごとの管理ではなくなり、最大12通りとなります。企業にとっては、若干前倒しで与えることとなりますが、この程度であればそれほどの負担とはならないのではないでしょうか。

(3)管理職こそ率先して!

おそらく、部下の有給休暇取得を管理するのは、「管理職」の新たな役割となるでしょう。

この役割を果たすためには、管理職自身が、率先して有給休暇を取得して見本を見せることが求められます。

管理職の方々が、有給休暇を取得して「良かった」、「リフレッシュできた」と感じて頂き、「この前、有給休暇を取ってのんびりできたぞ。みんなも取れよ!」なんて言って頂くことが、部下が有給休暇を取得しやすい環境への一歩となるのです。

ある勤務医の方が生まれ始めて有給休暇を取って温泉に行ったときに、「不謹慎かもしれないけど、みんなが働いているときに休むって凄くリフレッシュ出来るし、戻ったら頑張ろうって思えたんだよね。」と言った話をしてくれました。

こういった話をしてくれる上司が増えてこないとなかなか有給休暇を取りづらい環境は変わらないのかなと感じています。

発想を変えて取得してもらう!

今回の法改正、定着するには時間がかかるのかもしれません。しかし、現状退職日が決まってから、退職するまでの間にまとめて取得することが慣習となっている企業も少なくありません。そうであれば、在職中にリフレッシュしてもらって、良い仕事をしてもらう方がよっぽど良いのではありませんか?

ちょっと考えてみましょう。体調不良で休む場合は、しょうがないような気もしますが、会社にとっては突然の休暇であり、穴を埋めるのは容易ではありません。しかし、リフレッシュのための有給休暇は、事前の申請に基づくものであり、多くの職場では穴を埋めることは可能ではないでしょうか。

例えば、有給休暇を取る場合…「来週、有給休暇を取るのでもし、●●会社から連絡が有ったら…」といった風にちょっとした業務の引継ぎを行うことは一般的ではないでしょうか。ここで「情報の共有」が出来ていることになります。また、休暇明けには、お土産などを囲んで休み中の楽しかった話しなども行われます。ここでは、「社員間のコミュニケーション」が促進されているともいえます。企業にとって有給休暇の取得が負担となるといったマイナス面だけを見るのではなく、プラス面があることにも着目する必要があります。

なお、有給休暇の時季指定義務に伴い、「年次有給休暇の管理簿」の作成・保存(3年間)が義務付けられます。管理簿には取得した時季、日数及び基準日を記載することとされています。また、付与日の統一・計画年休制度の導入については、就業規則の改定を伴いますのでお忘れなく。

プロフィール

飯野正明

特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士

1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。

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