割増賃金について
目次
割増賃金の話
数多くのトラブルの原因となっているのが「割増賃金」に関する件です。
良くあるご相談はこんな感じです。
社員A | |
残業や休日出勤をしたのに割増賃金が正しく計算されていないのではないか? |
部長B | |
管理監督者となると割増賃金って一切支払われないの? |
アルバイトC | |
アルバイトにだって割増賃金が支払われるのでしょ? |
割増賃金の割増率
法定労働時間を超える時間外労働や休日労働、深夜の時間帯(22:00~5:00)に労働した場合には、通常の賃金にプラスして割増賃金の支払いが義務付けられています。この場合の割増率は以下の通りとなっています。
労働基準法第15条
労働の内容 | 割増率 |
時間外労働 (法定労働時間を超えて労働した場合) | 25%以上 50%以下 ただし、大企業(注1)の場合、月60時間を超えて労働した場合は50%以上 |
休日労働 (法定休日に労働した場合) | 35%以上 50%以下 |
深夜労働 (22:00~5:00に労働した場合) | 25%以上 |
(注1)大企業に当てはまらない中小企業の範囲は、「資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円,卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主またはその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人,卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である企業については、当分の間適用除外となっています。
深夜労働の際に割増率が合算されることも
時間外労働が長引いて、22:00を超えて労働をした場合には、『時間外労働の割増賃金』と『深夜労働の割増賃金』を合算して支払うこととなります。つまり、50%以上の割増賃金の支払いが必要となるのです。
同様に、法定休日に労働している場合に22:00を超えて労働した場合には、『休日労働(法定休日)の割増賃金』と『深夜労働の割増賃金』を合算して支払うこととなり、割増率は60%以上となります。
なお、休日労働が長引いて8時間を超えた場合においても、『時間外労働の割増率』を合算して支払う必要はありません。つまり、法定休日に労働した場合には、22:00を回らない限り35%以上の割増賃金を支払う必要はないのです。
深夜労働の割増率
労働の内容 | 合計の割増率 |
時間外労働 + 深夜労働 | 50%以上 時間外労働(25%) + 深夜労働(25%) |
法定休日労働 + 深夜労働 | 60%以上 法定休日労働(35%) + 深夜労働(25%) |
翌日にまたがって勤務した場合の割増賃金の考え方
始業時刻の属する日から翌日の朝まで勤務するというように,翌日にまたがって継続勤務した場合の割増賃金については、前日の始業時刻から翌日の始業時刻までの労働を前日の勤務とし、それ以降の労働については当日の勤務ということになります。
また、休日については暦日(0時から12時)単位で考えることになっています。これらを踏まえて、X社を例に挙げて考えてみます。
X社の就業規則
第●条(所定労働時間)
当社の所定労働時間は、1日8時間、1週40時間とし、始業・終業の時刻及び休憩時間は次の通りとする。
始業9:00 終業18:00 休憩時間12:00から13:00
第■条(所定休日)
当社の所定休日は、次の通りとする。
(1)日曜日(法定休日)
(2)土曜日
(3)国民の祝祭日
(4)年末年始(12月29日から1月3日)
第▲条(割増賃金の率)
割増賃金の割増率は、以下の通りとする。
(1)時間外労働 25%
(2)深夜労働 25%
(3)所定休日 25%
(4)法定休日 35%
例1)月曜日から火曜日にかけて継続勤務した場合
(所定労働日から所定労働日にまたがって勤務した場合)
例2)金曜日から土曜日にかけて継続勤務した場合
(所定労働日から所定休日にまたがって勤務した場合)
例3)土曜日から日曜日にかけて継続勤務した場合
(所定休日から法定休日にまたがって勤務した場合)
例4)日曜日から月曜日にかけて継続勤務した場合
(法定休日から所定労働日にまたがって勤務した場合)
所定休日に出勤した場合に割増賃金が必要となることも
労基法上は、法定休日の労働にのみ、「休日出勤」としての割増賃金の支払いを義務付けています。しかし、「所定休日」の労働であっても割増賃金の支払いが必要となることがあります。
再び、先ほどのX社を例に挙げて説明します。ある週の勤務が、法定休日である日曜日は休み、月曜日から金曜日まで8時間勤務、所定休日の土曜日も8時間勤務をしたとします。この場合、出社したすべての日の勤務は8時間を超えていないので時間外労働の割増賃金は不要です。また、法定休日は確保されていますので休日出勤の割増賃金も不要となります。しかしながら、土曜日の所定休日に勤務したことによりこの週の労働時間は48時間となっています。
このようなケースにおいては、1週40時間を超える労働に対しては法定時間を超える労働となるため、8時間分の「時間外労働の割増賃金」を支払わなければなりません。
実際は、休日出勤に対しての支払うこととなるのですが、労基法上は時間外労働としての取り扱いとなるのです。したがって、割増率は25%以上で良いということになります。
休日を振替えた場合においても週40時間を超えた場合には同様の取扱いとなります。
割増賃金の計算方法
月給で支払われる場合の割増賃金の計算の基となる「時間単価」は、次の計算式により算出します。
時間単価 = 基本賃金 ÷ 1か月当たりの平均所定労働時間数
この時間単価にそれぞれの割増率を掛けて割増賃金は、算出します。
なお、「基本賃金」とは、所定労働時間労働した場合に支払われる全ての賃金のことをいい、基本賃金から除ける賃金は以下のもののみとなっています。
①家族手当
②通勤手当
③別居手当
④子女教育手当
⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金
⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
また、「1か月当たりの平均所定労働時間」は次の通り算出します。
(1年間(365日or366日) - 年間所定休日日数) × 1日の所定労働時間 ÷ 12か月
この「1か月当たりの平均所定労働時間」は、その年の労働日数に応じて変わってきます。
またまた、X社を例に1か月当たりの平均所定労働時間数を考えてみましょう。
2017年は、(365日 – 120日(所定休日数)) × 8時間 ÷ 12か月 ≒ 163.33となります。
2018年は、(365日 – 121日(所定休日数)) × 8時間 ÷ 12か月 ≒ 162.67となります。
この場合の基本賃金30万円のD氏の割増賃金の単価(ともに円未満切り上げ)は以下のようになります。
2017年は、30万 ÷ 163.33 ≒ 1,837円
2018年は、30万 ÷ 162.67 ≒ 1,845円
2017年と2018年を比較すると、2018年の方が休日は「1日」多くなっており、1か月当たりの平均所定労働時間は、少なくなっています。そのため、2018年の方が単価は「8円」高くなっているのです。つまり、カレンダーの関係で休日数が増え、労働日数が減ると割増賃金の単価が上昇します。逆に労働日数が増えると単価は下がります。
毎年休日数が変動する会社においてはこの点に注意しなければなりません。労働日数が増えた場合(つまり、割増賃金の単価が下がっている場合)には、未払賃金は生じませんが、労働日数が減った場合(つまり、割増賃金の単価が上がった場合)に、見直しをしていないと未払い賃金が生じる恐れがあるからです。
プロフィール
飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 | |
1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 |
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