
所定労働時間と法定労働時間 社員A この前、2時間残業したのに、割増賃金が1時間分しか支払われて無いんだけど…間違っていませんか? 担当者B 当社の『所定労働時間』は7時間なので、最初の1時間は割増賃金の支払いはしていません。しかしながら、『法定労働時間』を超えた分については25%の割増賃金を支払っています。 社員A 同じ日に残業しているのに支払われる賃金が違うのはどうしてなんだろうか?? 会話の中に出てきた『所定労働時間』と『法定労働時間』は似て非なるものです。この2つの違いが分からないとAさんの疑問は解決しません。 『所定労働時間』とは、労働者が働くこととなっている時間のことです。就業規則や雇用契約書に記載されている始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を引いた時間のことをいいます。例えば、始業時間が9:00、終業時間が18:00、休憩時間が1時間であれば、所定労働時間は「8時間」となります。 『法定労働時間』とは、労働基準法第32条に規定されている労働時間の限度のことです。 労働基準法第32条 第1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時を超えて労働させてはならない。 第2項 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日ついて8時間を超えて、労働させてはならない。 とそれぞれ規定されています。この1週間または1日の労働時間の上限である『1週間40時間』、『1日8時間』のことを法定労働時間と言います。 労働基準法は、最低限度の基準を定めている法律ですから,『法定労働時間』を超える労働時間を『所定労働時間』として定めることは許されません。つまり,「所定労働時間」を1日9時間や1週50時間と定めることは許されないということです。仮に、法定労働時間を超える所定労働時間を定めていたとしても,法定労働時間を超える部分は無効となります。上記の例でいうと、1日「9時間」と定めていたとしても法定労働時間である「8時間」が優先されるということになります。 なお、業種・規模によって1週間の法定労働時間が例外的に「44時間」が適用されるケースや「変形労働時間制」による例外もあります。 「所定労働時間」≠「法定労働時間」の場合は注意が必要 「所定労働時間」と「法定労働時間」が違うものだということは、当然ですが両者が一致するとは限らないということになります。所定労働時間と同じ時間の法定労働時間が定められることもあれば,所定労働時間とは異なる時間の法定労働時間が定められることもあります。 先の会話に出てくるX社では、所定労働時間は「7時間」、法定労働時間は「8時間」ということで「所定労働時間」とは異なる時間の「法定労働時間」が定められています。 この「所定労働時間」≠「法定労働時間」場合に、Aさんの疑問が生じることがあるのです。 一般的に『残業』とは、労働者が働くことを決められている時間=『所定労働時間』を超えて働くことをいいます。 しかしながら、労働基準法において、割増賃金の支払いが義務付けられているのは『法定労働時間』を超えた場合となっています。 この割増賃金の支払いが義務付けられていない残業を「法定内時間外労働」といい、割増賃金の支払いが義務付けられている残業を「法定外時間外労働」といいます。 ちなみに、「法定外時間外労働」の際に支払う割増賃金の割増率は、「25%以上50%以下の範囲」とされています。 これらを踏まえた上で、Aさんの疑問を解消するために、先の会話を解説します。 X社は、1日の『所定労働時間』が「7時間」となっているところ、Aさんは、「2時間残業」したとのことです。つまりその日は「9時間」働いたということになります。 残業を始めて最初の「1時間」は、「法定内時間外労働」となりますので割増賃金を支払う必要がありません。しかしながら、『法定労働時間』である8時間を超えてからは「法定外時間外労働」となりますので、9時間までの「1時間分」については、25%以上50%以下の範囲の割増賃金を支払わなければならないのです。 これを図で示すと以下の通りとなります。 なお、X社は、法律通りの運用をしており、「法定内時間外労働」に対しては割増賃金の支払いをしていません。もちろん、「法定内時間外労働」に対して割増賃金を支払うことは、法律の定めを上回ることになりますので、問題ありません。いずれにしろ、割増賃金を支払うのか、支払わないのかは就業規則等に規定しておかなければなりません。X社の場合はこんな感じに就業規則に定めることとなります。 就業規則記載例)法定外時間外労働に対してのみ割増賃金を支払う場合 時間外勤務手当は、法定労働時間を超えて勤務した時間数に対して、次の算式により計算して支給します。なお、所定労働時間を超えて法定労働時間までの勤務に対しては、「1.25」を「1.00」に読み替えて計算します。 また、所定労働時間を超えた時間に対して割増賃金を支給する場合は次のように就業規則に定めることとなります。 就業規則記載例)所定労働時間を超えた時間に対して割増賃金を支払う場合 時間外勤務手当は、所定労働時間を超えて勤務した時間数に対して、次の算式により計算して支給します。 所定労働時間は明確にしておくこと 所定労働時間の基となる「始業時刻」「終業時刻」「休憩時間」については、採用時に書面などで明示しなければならない『労働条件』となっています。なお、「所定労働時間」≠「法定労働時間」の場合の割増賃金の計算方法についても書面等による明示が義務付けられている事項となっています。 明示の方法としては、「労働条件通知書」として労働者に書面を交付する方法があります。しかしながら、後のトラブルを避けるために労働者、使用者双方が内容を確認した上で、捺印をして締結する「雇用契約書」による方法をお勧めします。 労働基準法第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。 ※明示しなければならない労働条件 (1) 労働契約の期間 (2) 就業の場所・従事する業務の内容 (3) 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項 (4) 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項 (5) 退職に関する事項(解雇の事由を含む) 所定労働時間が日によって異なる働き方をしているケースもあるでしょう。この場合の記載方法をいくつか挙げておきます。 例1)曜日ごとに決められているケース 月、水、金曜日は9:00から18:00 休憩時間1時間 火、木曜日は10:00から18:00 休憩時間1時間 例2)シフト表で定めるケース 1日の所定労働時間は8時間以内とし、各日の始業、終業の時刻は前月末日までにシフト表によって定め、労働者に通知する。 なお、休憩時間は各日とも1時間とする。 昨今、働き方改革ということで所定労働時間を短縮する等の多様な働き方があります。この場合に、採用時の所定労働時間を変更することも考えられます。所定労働時間を変更する場合には、双方で明確にできるよう「書面」によって労働者に通知しておくべきです。もちろん、所定労働時間と法定労働時間が異なる場合には、割増賃金の対象となる時間も明確にしておきます。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

遅刻や早退時間、法定内残業、法定外残業の集計に対応しました。 いつもレコルをご利用いただきありがとうございます。 2017年7月13日(木)にレコルをバージョンアップしました。 今回のバージョンアップでは、遅刻時間や早退時間、法定内残業、法定外残業の集計項目追加に加えて、 ファイル出力項目をカスタマイズできるようになりました。 これにより、給与ソフトへのcsv連携がさらに容易になっています。 遅刻時間や早退時間、法定内残業、法定外残業の集計に対応 遅刻早退の時間集計と法定内残業、法定外残業は自動で集計され、勤務表や勤務集計画面で確認することができます。 勤務設定の開始/終了時刻(あるいはコアタイム)を過ぎた出勤や退勤から自動で「遅刻時間」「早退時間」として集計されます。 例)開始-終了(09:00 - 17:30)の場合 ①10:00出社 → 01:00が遅刻時間として計上されます ②16:30退社 → 01:00が早退時間として計上されます ※遅刻早退時に勤務区分を自動で「遅刻」や「早退」に設定することができます 勤務設定の所定時間を元に法定内残業と法定外残業が自動で集計されます。 例)所定時間が7時間30分で、09:00 - 18:30(休憩1時間)と8時間30分勤務した場合、 ①00:30が法定内残業として計上されます ②00:30が法定外残業として計上されます 遅刻時間や早退時間、法定内残業、法定外残業を集計する場合は、[設定]-[表示項目設定]から各項目をONにしてください。 出力項目のカスタマイズ 出力項目をカスタマイズして、給与ソフトとの連携用に項目名を変更したり、項目を追加したりできるようになりました。 出力項目の名称を給与ソフトなどにあわせて自由に変更することができます。 例)ログインID → 従業員コード レコルにはない項目を追加して、給与ソフトの勤怠データ取り込み形式にあわせることができ、 追加項目の出力する値も設定できます。 例)性別を追加(出力する値は空) 勤務表の印刷プレビュー機能 [設定]-[環境設定]の「勤務表の印刷画面表示ボタンを表示する」にチェックしておくと、勤務表の印刷プレビューを表示することができるようになりました。 このまま印刷することはもちろんのこと、ブラウザの印刷機能からpdfとして保存することも可能です。 最後に レコルは今後も新機能のリリースや機能改善を継続していきます! また、ご利用のお客様の声を積極的に取り入れてまいりますので、機能やUIの使い勝手などどんなことでも お気軽にサポートまでお伝えいただけますと幸いです。

『労働時間管理』きちんとできていますか? 過去に対応したご相談の中で『労働時間の把握』をしていなかったことが原因である相談・トラブルが数多くありました。 例えば… (1)A社に最近入社した労働者に遅刻が多いので注意したところ・・・ 「遅刻をした証拠があるのか! それより残業代も支払ってないくせに!!」 と返されてしまった… (2)B社を退職したXから届いた郵便の内容は… 「毎日20時過ぎ迄残業をしていたのに、今まで一度も残業代を支払って貰ったことがない!」 「在職中の残業代1日2時間×労働日数240日×2年分=480時間分を支払え!」 といったものでした。実際のところを確認しようにも会社にあるのは、出社した記録だけ… (3)C社からは 日曜日の休日出勤中に労働者が負傷したとのこと。労災の申請を行うために「勤務表」を確認すると名前以外は何も記載が無い。 担当者に確認すると… 「残業や休日出勤があれば労働者自身が記載することとなっています。」 負傷したのは休日出勤中だったのにその日には「休日出勤」の記載無。 これってホントに労災? 労働時間を把握できていないと 遅刻を注意したら労働者に逆ギレ! 残業代払おうにもいくら払ったら良いか分からず… 労災って言われてもその日に出勤記録が無ければ、労災かどうかも確かめられず… 会社としての義務を果たそうと思っても果たせません! 労働時間の把握は、会社に義務付けられています 労働時間の把握の方法については、労基法には、明確に規定されてはいません。 でも、労働時間を把握していなければ、残業代や深夜労働に対する割増賃金を支払うことは出来ないし、労働時間数が分からなければ、労働時間数等を賃金台帳に記載することも出来ません。 つまり、労働者が働いている時間を正確に把握出来なければ労基法の義務が果たせないのです。 しかしながら、上記のような相談・トラブルが数多くあることから、厚生労働省は『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』(労働時間ガイドライン)を策定しました。(平成29年1月20日策定) 「労働時間ガイドライン」によると、「使用者が労働日ごとに始業・終業の時刻を確認し記録すること」としており、その記録の方法として、原則2つの方法を挙げています。 (1)使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。 (2)タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。 この原則の方法で行わずに、『自己申告制』により始業・終業の時刻の確認、記録を行わざるを得ない場合には、使用者は次の措置を講じなければなりません。 ① 自己申告制の対象となる労働者に対して、「労働時間ガイドライン」を踏まえて、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。 ② 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、労働時間ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。 ③ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間を補正すること。 特に、入退場記録やPCの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。 ④ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。 その際。休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。 ⑤ 自己申告は労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。 また、時間外労働の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。さらに、36協定により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが慣習的に行われていないかについても確認すること。 「自己申告制」による労働時間の把握 「労働時間ガイドライン」を見ると、厚生労働省は「自己申告」による労働時間の把握については信頼性に乏しいと考えているようです。 特に、以下の点については注意が必要です。 「入退場記録」「PCの使用時間の記録」と「自己申告により把握した労働時間」とのかい離 労働時間終了後に社内にいる「休憩」「自主的な研修」「教育訓練」「学習」の時間の実態 「時間外労働削減のための社内通達」「時間外労働手当の定額払」の措置の適正な運用 36協定について「記録上、守っているようにすることが慣習的に行われていないか」 おそらく、労働基準監督署の臨検等で調査の中でも、このような違反が多くあったのでしょう。いずれにしても、「自己申告制」という労働者に「労働時間の申告」をゆだねている場合においても、その正確性の担保は使用者にあるといったところを理解しておかなければなりません。 つまり、「会社は、早く帰れっていっているのに労働者が勝手にやっていることだ!」とか「会社が命令した時間じゃないから、労働時間としては認められない!」といった社長の言い訳は通用しないということになるのです。 労働時間を管理する必要性 単純に、使用者の指揮命令下にある「労働時間」について、会社が把握していないって「無責任」って思いませんか。 「労働時間の管理ができていない」 ⇒ 「長時間労働」 ⇒ 「ブラック企業」 こういった図式は定着しているといえます。 労基署の臨検の際にもタイムカード上は、残業時間が少なく表示されているにもかかわらず実際に調べてみると、「把握できていない労働時間」「隠れた(隠された)労働時間」が発覚して多額の未払賃金の支払いとなった例は数多く経験しました。 今や「労働時間管理」は、労働時間を適正に把握するだけにとどまらず、「労働時間を抑制 (コントロール)」することが目的と考えなければなりません。本当に働いた時間が把握できなければ、労働時間をコントロールすることはできません。 適正に労働時間を把握して、メリハリのある働き方ができるように労働時間をコントロールすること、これが「働きやすい職場」づくりの第一歩ではないでしょうか。 もちろん、必要な残業はやってもらわなければなりません。ときには、徹夜で業務を行ってもらわなければならないこともあるかも知れません。 その場合に、遅くまで仕事をしていたことを「正しく申告できない」のであれば、会社に働いていたことさえも認識してもらえず、当然、その分の賃金も支払われず、労働者にとって”泣きっ面に蜂″です。『こんな会社に辞めてやる!』ってなってもおかしくないですよね。 この人手不足の折、不本意な理由で労働者が辞めてしまうことは良いことではありません。 少なくとも、上司は、 ①残業をしなければならない状況にあること ②残業をする必要性があること ③他の者に手伝わせることができるか については確認しながら残業をさせることが必要です。 こんな効果も 労働時間を正確に把握することで、「残業時間」や「欠勤日数」「遅刻、早退」などの労働者の勤怠の実態が分かります。こういった労働者の勤怠の実態を見て、必要に応じて労働者に声掛けをすることも重要です。 社内におけるトラブルの多くは「社内のコミュニケーション不足」を原因となっています。 「昨日、だいぶ遅くまで残っていたけど何かあったのか。」とか「先週、休んでいたけど体調は大丈夫か」、こういった声掛けが『社内のトラブル』を未然に防ぐことにもつながるのです。 もちろん、私も使用者として、職員の労働時間を管理しています。「勤怠管理システム」で出社の処理を行うと、「勤怠管理システム」から「おはようございます。」のメッセージ、終業時には、「お疲れさまでした。」とメッセージが聞こえてくるのです。その音声が聞こえるとみんな「ニコッ」としています。中には、「勤怠管理システム」に返事をしちゃったりすることも… 当事務所の社内の雰囲気づくりの一端を勤怠管理システムが担ってくれています。 「労働時間の適正な把握」 ⇒ 「適切な労務管理」 ⇒ 「働きやすい職場環境」 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/

初めて勤怠管理システムを導入しようとすると、勤務時間の自動集計、リアルタイムな勤務状況の把握、給与ソフトへの連携など、一見メリットしかないように思えます。しかしシステムということはエクセルや紙のタイムカードとは違って、導入後に「やっぱりこうだった」「これも必要かも」となった場合に自由に変更することができないというリスクを抱えています。 そこで今回は、勤怠管理システムの導入で後悔しないためにはどんなことに注意すればいいかを6つのポイントでご紹介します。 ポイント1:自社の勤務体系にシステムが合うか ポイント2:打刻方法について ポイント3:社員が使いやすいシステムか ポイント4:クラウド型かパッケージ型か ポイント5:サポート体制について ポイント6:無料お試しの有無 ポイント1:自社の勤務体系にシステムが合うか 勤怠管理システム導入前にまず確認したいのが、自社の勤務体系に検討中のシステムが合うかどうかです。業者や会社規模ごとに就業規則や勤務体系は大きく異なります。 例えば、様々な自社独自の就業ルールに対応できるか 導入してから自社の就業ルールに合わなかったといったことがないように、導入前に無理なく対応できるか確認することをオススメします。 また、勤怠管理システムの導入を機に無駄な運用がないか見直してみるのもいいかもしれません。 ポイント2:打刻方法について 勤怠管理システムには様々な打刻方法が用意されています。 例えば、ICカードをかざすだけで出退勤を記録できるタイムレコーダーや、パソコンのブラウザから各自がログインして打刻、あるいはスマホに専用アプリケーションをインストールして打刻する方法などが用意されています。 スマホやパソコン操作に慣れている人であれば、どんな打刻方法でも簡単につかいこなせるでしょうが、不慣れな人の場合はそうもいきません。その他にも指紋や静脈による打刻など不正打刻を防止できる打刻方法やスマホアプリのGPS機能を使って位置情報を打刻時に記録する方法などもあります。 どんな打刻方法が用意されていて、自社の社員が使いこなせる打刻方法を選択することがポイントです。 ポイント3:社員が使いやすいシステムか 多くの社員が毎日使うシステムですので、使いやすく手軽に導入できることも勤怠管理システムを選ぶ上で大切になります。 勤怠管理システムを導入する際には、使い始めるまでに自社向けの設定や従業員の登録が必要になります。 また、導入後は全社員に使い方や運用を説明(教育)しなければいけません。誰でも使いやすい勤怠管理システムだと社員への教育コストもかからずにスムーズに導入することができるなどのメリットがあります。 誰でも使いやすい勤怠管理システムを導入することが大切 各担当者目線で使いやすさを確認したり、必要のない機能が多く、オーバースペック故に複雑になっていないかを確認することをオススメします。 ポイント4:クラウド型かパッケージ型か 勤怠管理システムには大きく2つの種類があります。 1つはパッケージ型でパソコンに専用のソフトをインストールして使う勤怠管理ソフト。もう1つはネット環境さえあれば利用できるクラウド型の勤怠管理システムで、年々クラウド型を選択される方が増えてきています。 パッケージ型に比べてクラウド型のメリットは多くあります。 クラウド版 パッケージ版 ソフト管理 不要 必要 利用シーン ネットとPC、スマホがあればどこでも使える 特定のデバイスに限られる バージョンアップ 無償でバージョンアップ 新たに買い直す必要がある スマホとの相性 非常に良い 対応されてない場合が多い 自社に運用体制がしっかり整っている場合は、パッケージ型もオススメですが、コストや利便性を考えるとクラウド型が有利で、すでにクラウドが時代の潮流となっています。 ポイント5:サポート体制について サポートの体制についても事前に確認しておくことが大切です。 サポート対応が有料の勤怠管理システムもあり、導入後に思わぬコストがかかる場合もあります。導入後はもちろんのこと、導入前から無料で丁寧にサポートしてくれるサービスもあり特に初めて勤怠管理システムを導入する際は心強いサポートになります。 運用や就業ルールにあわせた設定方法の相談にのってくれるか。 あるいは操作方法のサポートはしてもらえるのか。 導入前にサポート体制がどうなっているか確認することをオススメします。 ポイント6:無料お試しの有無 これまでにご紹介したように勤怠管理システム導入時には確認すべきポイントが幾つかあります。 事前にホームページや資料で確認しておいても、いざ導入して使ってみると「自社の就業ルールにあわない」や「設定が複雑な上に使いにくい」などの問題が発生する場合があります。 導入後に自社に合わず失敗するケース 事前に自社と合っているかしっかり確認して、導入が成功するケース 多くの勤怠管理システムは導入前に「無料お試し」を用意していますので、実際に使ってみて、自社にあったシステムか確認することをオススメします。 まとめ:初めて勤怠管理システムを始めて導入する際の6つのポイント ポイント1:自社の勤務体系にシステムが合うか ポイント2:打刻方法について ポイント3:社員が使いやすいシステムか ポイント4:クラウド型かパッケージ型か ポイント5:サポート体制について ポイント6:無料お試しの有無 勤怠管理システムは導入後に大きなメリットをもたらしてくれますが、一度導入すると全社員が使うシステムのため、運用を変えることは非常に難しいようです。ですので、導入した後に後悔することがないよう事前にこれらのポイントをしっかりと確認して、ぜひ自社に最適な勤怠管理システムを選んでください。 勤怠管理システムの選び方やおすすめのシステムについては、労務代行サービス「まるごと労務」の下記の記事も参考にしてみてください。 https://marugotoinc.jp/blog/attendance_system/ 最後に:クラウド勤怠管理システム「レコル」のご紹介 「レコル」は豊富な機能を一人100円で利用できるクラウド勤怠管理システムです。これまでご紹介したポイントを押さえながら、無料お試しで自社の運用に合うか是非ご確認ください。

労働基準法は労働条件の最低基準のルール 労働基準法(以下「労基法」という。)は、職場における様々なルールを定めたもので、労働条件に関する『最低基準』を規定している法律です。この『最低基準』の意味合いは、労基法に違反する労働条件は、たとえ会社と労働者の同意があったとしても、無効でありその部分については、労基法の基準に置き換えられるということになります。 X社に入社するAのお話し… 社員A 僕は、働くのが大好きなので年次有給休暇はいりません。権利を放棄したいと思っています。 社長B それはありがたい。そうは言っても全く無しって訳にもいかないでしょうから、 労基法の基準の半分を付与するということでどうだろうか。つまり、入社後6か月で5日付与することにしよう。 それでよければ、その内容で労働契約書を締結しよう。 社員A ご配慮ありがとうございます。もちろん、その内容で契約させて下さい。 といったやり取りの上、AはX社に入社することになりました。 その数日後、〇〇労働基準監督署の監督官がX社を訪れました。 監督官 〇〇監督署から参りました。 今日は、御社で締結している労働契約書の内容を確認しに来ました。直近のご入社の方の契約書を見せていただけますか。 社長B もちろんです。当社は労働者に労働契約の内容を説明し、 納得してもらった上で契約を締結していますので何も問題無いはずですよ。 監督官 わかりました。では、契約書を確認させて下さい。 あれっ?Aさんの労働契約書に「年次有給休暇は労基法の基準の半分を付与する」となっていますが、これはどういうことですか。 社長B あー、それはAが年休はいらないと言ってきたのですが、 そうもいかないだろうということで基準の半分を付与することで双方合意した事項ですので契約書にもその通り記載しました。 いらないって言ったのに半分くれるなんてと言ってAは喜んでましたよ。 監督官 それはダメですよ。Aさんからの申出があったとしても労基法のルールは最低基準となっていますのでそれを下回るルールは労基法の基準となります。 ですから、入社後6か月経過した場合に付与しなければならない年休は10日となります。 といった形でX社は指導されてしまいました。 いくら労働者との間で合意した労働条件であっても労基法の基準を下回ることは許されず、 万が一、下回る労働条件で労働契約を締結したとしても、下回る部分は、無効となり労基法の基準が適用されことになっています。 労基法にはどんなことが定められているのか? 全文で13章、138条から成る法律となっています。その概要は、次の通りです。 第1章 総則 労基法の目的やその適用範囲、「労働者」「使用者」の用語の定義などについて 第2章 労働契約 労働契約の期間の制限や労働条件の明示、解雇や退職後の証明などについて 第3章 賃金 賃金の支払いに関する原則や休業手当などについて 第4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇 法定労働時間・変形労働時間等の労働時間制度、休憩・休日・年次有給休暇や割増賃金の支払いなどについて 第5章 安全及び衛生 労働者の安全および衛生について(詳細は労働安全衛生法の定めによる) 第6章 年少者 働くことができる最低年齢の定めや18歳未満の年少者が働くに当たっての深夜業その他の保護規定などについて 第6章の2 妊産婦等 妊産婦(妊娠中または産後1年を経過していない女性)の就業制限や労働時間の制限など女性が働くための保護規定などについて 第7章 技能者の養成 技能習得者の保護、職業訓練などに関する規定について 第8章 災害補償 業務上の負傷・疾病に対する療養補償、障害補償などの補償について 第9章 就業規則 就業規則の作成、変更、届け出義務などについて 第10章 寄宿舎 寄宿労働者に対する私生活の自由の保障や寄宿舎の設備、安全衛生などについて 第11章 監督機関 労働基準監督官の権限や監督機関の組織や権限などについて 第12章 雑則 就業規則などの周知義務や労働者名簿・賃金台帳の法定帳簿の作成・保存などについて 第13章 罰則 労基法に違反した場合の罰則規定や両罰規定などについて 付則 法律改正に伴う経過措置などについて 労基法に違反すると、罰則が… 労基法は、違反すると懲役や罰金刑が科せられる強行法規となっています。 罰則については、第13章第117条から121条までに規定されており、1番重い処罰は、「強制労働を行わせていた場合(労基法第5条違反)」で、「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」が科せられます。 例えば、解雇予告手当を支払わずに即時解雇した場合には、労基法第20条の違反となりますが、この場合は、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に科せられます。 なお、この場合に処罰される対象は、労基法10条でいう『使用者』となっています。この『使用者』の範囲は結構広く、取締役・工場長等は言うまでもなく、支店長・課長・現場監督も含まれる可能性が有ります。通達(昭22.9.13発基17号)によると「部長、課長等の形式にとらわれることなく、各事業場において、本法(労基法)各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによるが、かかる権限が与えられておらず、単に上司の命令の伝達者にすぎぬ場合は使用者とみなされないこと」となっています。 つまり、必ずしも「使用者=事業主」とはなっておらず、この場合に「使用者」のみを処罰し、事業主が全く処罰されないとなると妥当とはいえないでしょう。 こういった場合に事業主も処罰の対象とするために、労基法121条1項が規定されています。このような規定を両罰規定といいます。この規定により行為者である「使用者」と最高責任者である「事業主」ともに罰せられることがあるのです。 労基法を守って、会社を守る 総務省統計局が行っている労働力調査(平成29年(2017年)3月分)によると日本の就業者は、6,433万人となっています。日本の総人口が1億2,693万人ですからおよそ半分以上の人が就業していることとなります。労基法とは、前述の通り「働くルール」が規定されているわけですから、日本の人口の半分以上は何らかの形で労基法に関わっていると言えます。それだけ重要な法律であるにも関わらず労基法の内容をご存知ない方が多いのではないでしょうか?オフサイドを知らないサッカー選手はいませんよね。 しかし、労基法はこれだけ多くの人が関わっている重要な法律なのに、認知度が低い…そして毎日のように、労基法違反が報道されており、知らなかったからでは、取り返しのつかない事件も発生しています。厚生労働省によると、平成27年度業務上災害として認定された脳・心臓疾患を原因(主に過重労働が原因)とするものの死亡件数は96件、精神障害によるものによる自殺(未遂も含む)件数は93件となっています。生活の糧を得るための職場であってはならない事故がこれだけの数発生しているのです。 「こういった事故をなくすために」「決まり事だから」「最低限の基準だから」守らなくてはしょうがない、といった考えのもと、労基法を守ることももちろん大切なことです。しかし、企業として、積極的に労基法を守り、労働者が継続して勤務出来るための「安心感」を提供していくことが、結果として会社を守ることにつながるということを理解して頂きたい。これからの労務管理は「攻めの労務管理」を目指していかなければ、企業の継続的な発展はないといえます! 今後、このコラムでは、職場のルールである労基法とその関連する法律を「攻めの労務管理」といった視点に立ってお話ししていきます。 プロフィール 飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 http://www.sr-iino.com/