『労働時間管理』はなぜ必要?
目次
『労働時間管理』きちんとできていますか?
過去に対応したご相談の中で『労働時間の把握』をしていなかったことが原因である相談・トラブルが数多くありました。
例えば…
(1)A社に最近入社した労働者に遅刻が多いので注意したところ・・・
「遅刻をした証拠があるのか! それより残業代も支払ってないくせに!!」 |
と返されてしまった…
(2)B社を退職したXから届いた郵便の内容は…
「毎日20時過ぎ迄残業をしていたのに、今まで一度も残業代を支払って貰ったことがない!」 |
「在職中の残業代1日2時間×労働日数240日×2年分=480時間分を支払え!」 |
といったものでした。実際のところを確認しようにも会社にあるのは、出社した記録だけ…
(3)C社からは
日曜日の休日出勤中に労働者が負傷したとのこと。労災の申請を行うために「勤務表」を確認すると名前以外は何も記載が無い。
担当者に確認すると…
「残業や休日出勤があれば労働者自身が記載することとなっています。」 |
負傷したのは休日出勤中だったのにその日には「休日出勤」の記載無。
これってホントに労災?
労働時間を把握できていないと
- 遅刻を注意したら労働者に逆ギレ!
- 残業代払おうにもいくら払ったら良いか分からず…
- 労災って言われてもその日に出勤記録が無ければ、労災かどうかも確かめられず…
会社としての義務を果たそうと思っても果たせません!
労働時間の把握は、会社に義務付けられています
労働時間の把握の方法については、労基法には、明確に規定されてはいません。
でも、労働時間を把握していなければ、残業代や深夜労働に対する割増賃金を支払うことは出来ないし、労働時間数が分からなければ、労働時間数等を賃金台帳に記載することも出来ません。
つまり、労働者が働いている時間を正確に把握出来なければ労基法の義務が果たせないのです。
しかしながら、上記のような相談・トラブルが数多くあることから、厚生労働省は『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』(労働時間ガイドライン)を策定しました。(平成29年1月20日策定)
「労働時間ガイドライン」によると、「使用者が労働日ごとに始業・終業の時刻を確認し記録すること」としており、その記録の方法として、原則2つの方法を挙げています。
(1)使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
(2)タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
この原則の方法で行わずに、『自己申告制』により始業・終業の時刻の確認、記録を行わざるを得ない場合には、使用者は次の措置を講じなければなりません。
① 自己申告制の対象となる労働者に対して、「労働時間ガイドライン」を踏まえて、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
② 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、労働時間ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
③ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間を補正すること。
特に、入退場記録やPCの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
④ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
その際。休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
⑤ 自己申告は労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。
また、時間外労働の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。さらに、36協定により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが慣習的に行われていないかについても確認すること。
「自己申告制」による労働時間の把握
「労働時間ガイドライン」を見ると、厚生労働省は「自己申告」による労働時間の把握については信頼性に乏しいと考えているようです。
特に、以下の点については注意が必要です。
- 「入退場記録」「PCの使用時間の記録」と「自己申告により把握した労働時間」とのかい離
- 労働時間終了後に社内にいる「休憩」「自主的な研修」「教育訓練」「学習」の時間の実態
- 「時間外労働削減のための社内通達」「時間外労働手当の定額払」の措置の適正な運用
- 36協定について「記録上、守っているようにすることが慣習的に行われていないか」
おそらく、労働基準監督署の臨検等で調査の中でも、このような違反が多くあったのでしょう。いずれにしても、「自己申告制」という労働者に「労働時間の申告」をゆだねている場合においても、その正確性の担保は使用者にあるといったところを理解しておかなければなりません。
つまり、「会社は、早く帰れっていっているのに労働者が勝手にやっていることだ!」とか「会社が命令した時間じゃないから、労働時間としては認められない!」といった社長の言い訳は通用しないということになるのです。
労働時間を管理する必要性
単純に、使用者の指揮命令下にある「労働時間」について、会社が把握していないって「無責任」って思いませんか。
「労働時間の管理ができていない」 ⇒ 「長時間労働」 ⇒ 「ブラック企業」
こういった図式は定着しているといえます。
労基署の臨検の際にもタイムカード上は、残業時間が少なく表示されているにもかかわらず実際に調べてみると、「把握できていない労働時間」「隠れた(隠された)労働時間」が発覚して多額の未払賃金の支払いとなった例は数多く経験しました。
今や「労働時間管理」は、労働時間を適正に把握するだけにとどまらず、「労働時間を抑制 (コントロール)」することが目的と考えなければなりません。本当に働いた時間が把握できなければ、労働時間をコントロールすることはできません。
適正に労働時間を把握して、メリハリのある働き方ができるように労働時間をコントロールすること、これが「働きやすい職場」づくりの第一歩ではないでしょうか。
もちろん、必要な残業はやってもらわなければなりません。ときには、徹夜で業務を行ってもらわなければならないこともあるかも知れません。
その場合に、遅くまで仕事をしていたことを「正しく申告できない」のであれば、会社に働いていたことさえも認識してもらえず、当然、その分の賃金も支払われず、労働者にとって”泣きっ面に蜂″です。『こんな会社に辞めてやる!』ってなってもおかしくないですよね。
この人手不足の折、不本意な理由で労働者が辞めてしまうことは良いことではありません。
少なくとも、上司は、
①残業をしなければならない状況にあること
②残業をする必要性があること
③他の者に手伝わせることができるか
については確認しながら残業をさせることが必要です。
こんな効果も
労働時間を正確に把握することで、「残業時間」や「欠勤日数」「遅刻、早退」などの労働者の勤怠の実態が分かります。こういった労働者の勤怠の実態を見て、必要に応じて労働者に声掛けをすることも重要です。
社内におけるトラブルの多くは「社内のコミュニケーション不足」を原因となっています。
「昨日、だいぶ遅くまで残っていたけど何かあったのか。」とか「先週、休んでいたけど体調は大丈夫か」、こういった声掛けが『社内のトラブル』を未然に防ぐことにもつながるのです。
もちろん、私も使用者として、職員の労働時間を管理しています。「勤怠管理システム」で出社の処理を行うと、「勤怠管理システム」から「おはようございます。」のメッセージ、終業時には、「お疲れさまでした。」とメッセージが聞こえてくるのです。その音声が聞こえるとみんな「ニコッ」としています。中には、「勤怠管理システム」に返事をしちゃったりすることも…
当事務所の社内の雰囲気づくりの一端を勤怠管理システムが担ってくれています。
「労働時間の適正な把握」 ⇒ 「適切な労務管理」 ⇒ 「働きやすい職場環境」
プロフィール
飯野正明 特定社会保険労務士 明治大学大学院経営学修士 | |
1969年生まれ。社会人生活は、社会保険労務士一筋「27年」。2010年に東京都中央区日本橋に、いいの経営労務管理事務所を設立。現在は、Be Ambitious社会保険労務士法人代表として、職員9名(うち特定社会保険労務士2名)ともに、大手企業から中小零細企業まで多くの企業の労務相談の円満解決に力を入れている。“相談者の頼れる用心棒”としてたのしめる職場づくりを目指している。 主な著書に『労働法の知識と実務Ⅱ』(共著、東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編) 、『職場トラブル解決のヒント』(ギャラクシーブックス発行)などがある。 |
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